露草の記・参(草陰の露)13
広間で藩主と婚約者に対面すべく、幼い姫と侍女が待っていた。
「照姫。息災であったか?」
「まあ、秀幸さまもお変わりなく。照は此度、父上からお祝いをお預かりして参上いたしました。元服の儀、真(まこと)におめでとうございます。」
「うん。」
「まあ……。」
初めて会う義元の姿に、目が丸くなる。ふと見やれば、秀幸は義元の手を曳いたままだった。
「……何と……お綺麗な方ですこと……。」
その眼は、義元の手をしっかりと握った許嫁の手元に注がれていた。
気付いた義元は秀幸からそっと離れたが、照姫の表情は既に曇り強張っていた。
*****
その後、久し振りに対面した藩主の目は、優しく姫を見つめていた。いつも快活に良く笑う姫が浮かぬ顔をして沈んでいる。
「長旅でお疲れが出ましたかな?照姫には何やら、元気が無いような?」
秀幸よりも3歳年下の許婚は、12になったばかりの少女である。
「……安名さま。」
照姫は居住まいをただし、思い詰めた真剣な顔で藩主に言う。
「約束を交わしたとはいえ、婚儀もまだなれど、照は不実な殿御は好きませぬ。」
「うん。男(おのこ)は誠実なのが一番じゃな。」
「照は……秀幸さまがかような側室を……既にお持ちとは知りませ……な……んだ……。」
「そうと知っておれば、照は……。照は……。」
最後は、とうとう声が震えて涙声になってしまった。
姫の頬を涙が転がったのを見て、慌てて秀幸が言う。
「ま、待て、待て。照姫。」
「わたしは、側室など持たぬぞ。何を根拠に、そのような……あ。」
生真面目な秀幸は、控える義元を見つめる照姫の目に、やっと気が付いた。
先ほど兼良から着せられた、華やかな色刺繍の羽織を着ていた。
「照姫、間違うでない。義元はこう見えて、れっきとした男子じゃ。」
「……。」
「朱槍で名高い、叔父上の子じゃ。」
「……確かめまする。」
つっと立って義元の前に進み、何の遠慮もなく両手をかけて、ぐいと広く襟元をくつろげた。
(……あっ……!)
突然の事に、思わず声がでた。
「あれ……姫様っ、おはしたないっ。」
御付の年寄りが止める暇もなく、うろたえて卒倒しそうになっている。
「……まあ。女子ならば、哀れなほど貧相な胸ですこと。」
乳房のない胸元を、じっと覗き込む照姫である。
どうしてよいか分からず、しばらくそのままにさせておいた義元は、取り合えず衣類を直すため、義父の後ろに下がった。
「照姫、納得ゆきましたかな?」
にこやかな藩主の声に、思わずはっとした照姫が、義元に向かって頭を下げた。
「照は、かように美々しい殿御を見たのは初めてで……満座で恥をかかせるような真似をして、申し訳もございませぬ。ご無礼致しました。」
「初めて義元を見たのであれば、無理もない。」
さすがに年上なので、ここは寛容な所を見せねばならぬと秀幸は、内心の動揺を隠し、密かに無理をしている。
許嫁の照姫に、こんな一面が有ったのかと驚いていた。
(*ノ▽ノ)キャ~ッ おギギ (び~ちく、見られた~)B地区……(〃ー〃)
(*/д\*) 照 「すみませぬ~。」
(〃゚∇゚〃) 秀幸 「大丈夫じゃ、おギギはそのようなことで怒ったりはせぬ。」←たぶん~
本日もお読みいただき、ありがとうございます。
ランキングに参加しておりますので、どうぞよろしくお願いします。此花咲耶
「照姫。息災であったか?」
「まあ、秀幸さまもお変わりなく。照は此度、父上からお祝いをお預かりして参上いたしました。元服の儀、真(まこと)におめでとうございます。」
「うん。」
「まあ……。」
初めて会う義元の姿に、目が丸くなる。ふと見やれば、秀幸は義元の手を曳いたままだった。
「……何と……お綺麗な方ですこと……。」
その眼は、義元の手をしっかりと握った許嫁の手元に注がれていた。
気付いた義元は秀幸からそっと離れたが、照姫の表情は既に曇り強張っていた。
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その後、久し振りに対面した藩主の目は、優しく姫を見つめていた。いつも快活に良く笑う姫が浮かぬ顔をして沈んでいる。
「長旅でお疲れが出ましたかな?照姫には何やら、元気が無いような?」
秀幸よりも3歳年下の許婚は、12になったばかりの少女である。
「……安名さま。」
照姫は居住まいをただし、思い詰めた真剣な顔で藩主に言う。
「約束を交わしたとはいえ、婚儀もまだなれど、照は不実な殿御は好きませぬ。」
「うん。男(おのこ)は誠実なのが一番じゃな。」
「照は……秀幸さまがかような側室を……既にお持ちとは知りませ……な……んだ……。」
「そうと知っておれば、照は……。照は……。」
最後は、とうとう声が震えて涙声になってしまった。
姫の頬を涙が転がったのを見て、慌てて秀幸が言う。
「ま、待て、待て。照姫。」
「わたしは、側室など持たぬぞ。何を根拠に、そのような……あ。」
生真面目な秀幸は、控える義元を見つめる照姫の目に、やっと気が付いた。
先ほど兼良から着せられた、華やかな色刺繍の羽織を着ていた。
「照姫、間違うでない。義元はこう見えて、れっきとした男子じゃ。」
「……。」
「朱槍で名高い、叔父上の子じゃ。」
「……確かめまする。」
つっと立って義元の前に進み、何の遠慮もなく両手をかけて、ぐいと広く襟元をくつろげた。
(……あっ……!)
突然の事に、思わず声がでた。
「あれ……姫様っ、おはしたないっ。」
御付の年寄りが止める暇もなく、うろたえて卒倒しそうになっている。
「……まあ。女子ならば、哀れなほど貧相な胸ですこと。」
乳房のない胸元を、じっと覗き込む照姫である。
どうしてよいか分からず、しばらくそのままにさせておいた義元は、取り合えず衣類を直すため、義父の後ろに下がった。
「照姫、納得ゆきましたかな?」
にこやかな藩主の声に、思わずはっとした照姫が、義元に向かって頭を下げた。
「照は、かように美々しい殿御を見たのは初めてで……満座で恥をかかせるような真似をして、申し訳もございませぬ。ご無礼致しました。」
「初めて義元を見たのであれば、無理もない。」
さすがに年上なので、ここは寛容な所を見せねばならぬと秀幸は、内心の動揺を隠し、密かに無理をしている。
許嫁の照姫に、こんな一面が有ったのかと驚いていた。
(*ノ▽ノ)キャ~ッ おギギ (び~ちく、見られた~)B地区……(〃ー〃)
(*/д\*) 照 「すみませぬ~。」
(〃゚∇゚〃) 秀幸 「大丈夫じゃ、おギギはそのようなことで怒ったりはせぬ。」←たぶん~
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