禎克君の恋人 19
禎克は思わず立ちあがって、その長身で周囲の人を驚かせてしまった。190センチ近い上谷と二人がそろうと、目だって仕方がない。
息を飲む声に、慌てて腰を下ろした。
「上谷先輩……?どうしたんです?お芝居に興味とかありましたっけ?」
「金剛がチラシくれたから、どういうものなのか気になってきてみたんだよ。さっきの踊ってた子が、金剛の幼馴染の子?びっくりするくらい綺麗だったな。」
チラシって……?と、問いかけて思い出した。そういえば、スーパーで見かけて手に取った割引券を手渡したような気がする。まるきり失念していた。
「さっきの子です。ぼくも驚いたけど、女形もするし殺陣もするって言ってました。座長……お父さんが急病で倒れたんで、中心になってすごく頑張っているんです。これから、歌謡ショーとお芝居があるって周りの人が言ってました、先輩も見ます?」
「いや、金剛の話を聞いて、ちょっと気になったんで来てみただけだから、おれはもう帰る。明日の準備もあるしな。インターハイ初出場で、妙に気負って緊張してたんだが、いい気分転換になったよ。じゃあな。幼馴染によろしく。」
「はい。じゃあ、明日。」
「遅れるなよ。」
「はい。上谷先輩も。体調万全にしてくださいね。」
「おう。お前もな。」
何気なく交わした会話で、ふと明日がインターハイに出発する大切な日だったと思い出す。
残念ながら、どんな思惑を持って上谷がその場に来たのか、禎克は考えもしなかった。
余りに禎克の日常とかけ離れた、大二郎の舞台だった。
*****
「さあちゃ~んっ!」
楽屋に続くロビーに出た禎克に向かって、お引きずりの長い裾を抱え上げ、一目散に駆けて来たのは大二郎本人だった。
「あっ……!危ないっ。」
息せき切って走って来た大二郎は足がもつれ、腕の中に倒れ込んできた。
「あはは……。いなくなっちゃうかと思って、心配した~。見てくれてありがとっ。お客さまの感触が良かったんで、おれ……なんかもう、すごくほっとした~。」
舞台を終えて涙ぐんだ大二郎が、素なのだろうと思う。
敢えて明るく禎克も声を張った。
「ほら、まだお見送りするんだろ?最後まで頑張らないとな。後ろの席の人が、すごく褒めてたよ。大ちゃんは良く勉強してるって。ここで待ってるから、行っておいでよ。」
「ほんと?絶対に帰っちゃいやだよ?」
「そんなに心配なら、大二郎くんの見えるところに居るよ。」
「さあちゃんっ。」
思わず腕を抱きとる大二郎だったが、時間が押していて仕方なく離れた。
ばたばたと着替えをしながら大急ぎでロビーに向かう座員たちは、大二郎の名前の入った手拭いの入った段ボール箱を抱えていた。柏木醍醐休演のお詫び代わりだと言う。
「大二郎さん。ロビーの準備出来ました。化粧直したら、そのまま出てください。お客さま、お待ちです。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
親しい劇団員とも、きちんと立場をわきまえて付き合っている風なのは、お師匠さんと呼ぶ父親の教えだろうか。
大二郎は姿見を覗き込み、ぽんぽんと手慣れた仕草で白粉をはたいた。
化粧を直すと、美々しい舞台の顔でお見送りに向かった。
どうやら舞台は大成功だったみたいです。がんばったね。(*⌒▽⌒*)♪
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息を飲む声に、慌てて腰を下ろした。
「上谷先輩……?どうしたんです?お芝居に興味とかありましたっけ?」
「金剛がチラシくれたから、どういうものなのか気になってきてみたんだよ。さっきの踊ってた子が、金剛の幼馴染の子?びっくりするくらい綺麗だったな。」
チラシって……?と、問いかけて思い出した。そういえば、スーパーで見かけて手に取った割引券を手渡したような気がする。まるきり失念していた。
「さっきの子です。ぼくも驚いたけど、女形もするし殺陣もするって言ってました。座長……お父さんが急病で倒れたんで、中心になってすごく頑張っているんです。これから、歌謡ショーとお芝居があるって周りの人が言ってました、先輩も見ます?」
「いや、金剛の話を聞いて、ちょっと気になったんで来てみただけだから、おれはもう帰る。明日の準備もあるしな。インターハイ初出場で、妙に気負って緊張してたんだが、いい気分転換になったよ。じゃあな。幼馴染によろしく。」
「はい。じゃあ、明日。」
「遅れるなよ。」
「はい。上谷先輩も。体調万全にしてくださいね。」
「おう。お前もな。」
何気なく交わした会話で、ふと明日がインターハイに出発する大切な日だったと思い出す。
残念ながら、どんな思惑を持って上谷がその場に来たのか、禎克は考えもしなかった。
余りに禎克の日常とかけ離れた、大二郎の舞台だった。
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「さあちゃ~んっ!」
楽屋に続くロビーに出た禎克に向かって、お引きずりの長い裾を抱え上げ、一目散に駆けて来たのは大二郎本人だった。
「あっ……!危ないっ。」
息せき切って走って来た大二郎は足がもつれ、腕の中に倒れ込んできた。
「あはは……。いなくなっちゃうかと思って、心配した~。見てくれてありがとっ。お客さまの感触が良かったんで、おれ……なんかもう、すごくほっとした~。」
舞台を終えて涙ぐんだ大二郎が、素なのだろうと思う。
敢えて明るく禎克も声を張った。
「ほら、まだお見送りするんだろ?最後まで頑張らないとな。後ろの席の人が、すごく褒めてたよ。大ちゃんは良く勉強してるって。ここで待ってるから、行っておいでよ。」
「ほんと?絶対に帰っちゃいやだよ?」
「そんなに心配なら、大二郎くんの見えるところに居るよ。」
「さあちゃんっ。」
思わず腕を抱きとる大二郎だったが、時間が押していて仕方なく離れた。
ばたばたと着替えをしながら大急ぎでロビーに向かう座員たちは、大二郎の名前の入った手拭いの入った段ボール箱を抱えていた。柏木醍醐休演のお詫び代わりだと言う。
「大二郎さん。ロビーの準備出来ました。化粧直したら、そのまま出てください。お客さま、お待ちです。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
親しい劇団員とも、きちんと立場をわきまえて付き合っている風なのは、お師匠さんと呼ぶ父親の教えだろうか。
大二郎は姿見を覗き込み、ぽんぽんと手慣れた仕草で白粉をはたいた。
化粧を直すと、美々しい舞台の顔でお見送りに向かった。
どうやら舞台は大成功だったみたいです。がんばったね。(*⌒▽⌒*)♪
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