禎克君の恋人 22
再会した大二郎は、少し慣れて来ると、とんでもない甘えん坊だったのが判明した。
禎克も上に姉がいて、自分をそれほどしっかりしている方だと思ったことはないが、出会った時から大二郎は、禎克に常にべたべたと触れている気がする。
まるで、触っていないと母親がどこかに行ってしまうような気がして、離れられない赤子のようだ。
「大二郎くん。せめて、ぱんつ穿かない?直接、太ももに当たるんだよね。あの、ナニが……。」
うる……と瞳が濡れる。
「さあちゃん……、おれの事、うっとおしいの?」
「ううん。そんなことない。懐かしかったよ。」
「他には?言ってみて。」
「えっと……どきどきします。」
「さあちゃんっ!」
もう一度、襲われて長いキスを交わした後、やっと二人は食事にありついた。大二郎は禎克に叱られて、おれ、部屋では何も着ないタイプなのに~といいながら、仕方なくバスタオルを緩く腰に巻いた。
普段着物で締めつけているから、ぱんつのゴムの締め付けも嫌なんだと言う。
*****
食事をしながら、二人は色々な話をした。長い空白が、違和感なく紡いだ会話で埋められてゆくのが不思議だった。
興行で日本中回った話、テレビに出演したときの失敗談。
禎克も、珍しく語った。
中学選抜に選ばれてから、漠然としていたバスケへの夢が本気に変わったこと。親にも話したことの無い夢を禎克は語った。
やがて、懐かしいこまどり幼稚園での話になった。大二郎は毎日、ピンクのスモックを着ていた禎克を、当然のように女の子だと思っていたらしい。
「……おれ、ピンクのさあちゃんが初恋だったんだよ。」
「そうなんだ。」
「小さくて可愛くておとなしくて。お友達になれたのが嬉しくて、他の誰にも取られたくなくてさ、お嫁さんにするって公言したら、湊が弟だって言ったんだ。信じないぞって怒ったら、じゃあ、ぱんつ下ろしてみれば……?って言われてさ。つい勢いで下ろしたら、付いてたんだよ、おれと同じ物。ちっこいナニがぽろん……って。あの時のショックったら、なかったよ。」
「仲良くしてた大二郎くんに、いきなりぱんつ下ろされて、ぼくも切れちゃんだよなぁ……。」
「お互い、すごい衝撃だったね。ぱんつ下ろしたこと、さあちゃんも覚えてたのか。」
「ぼくは、年少さんで、既にひらがなも書けるお利口さんだったから、忘れません。記憶力はいい方だよ。」
大二郎は口をとがらせた。
「ぶ~。ひらがなは、小学校でやっと覚えました~。」
「掛け算は?」
「おれ、二ケタの引き算でつまずいちゃったから、算数嫌いなの。」
「引き算でつまずいたのか……?九九じゃなくて?」
「学校あまり行けなくてさ、羽鳥が教えてくれたんだけど。羽鳥の教え方が、まじで下手くそだったんだよ。隣りから十借りてきて引きます……とか言ってさ。11から9引くと……、ほら、一の位は引けないだろ?だから、隣から借りて来るっていうんだけど、おれは貸さないって頑張ったの。」
「それじゃ、計算にならないな。」
「だってね。8とか9とかたくさんあれば貸してあげてもいいけど、十の位には1しかないんだよ。いくら、宵越しの銭は持たない江戸っ子でも、ない袖は振れない。道理だろ?」
十の位に同情して、引き算ができないなんて……。
「お……おかしい……。あはは……。」
禎克は笑いが止まらなくなってしまった。
「さあちゃん。おれのこと、ばかだと思ってる……。」
哀しげに顔を曇らせた大二郎の肩を引き寄せた。
「違うよ……違う。可愛いって思っただけ。傍に居たら、教えてあげられたのにね。きっと、十の位はさ、何もかも失くしてもいいと思えるほど一の位が好きだったんだよ。そう思わないか?」
「そう言えば、おれにもわかるのに……。やっぱり羽鳥の教え方が下手だったんだ。さあちゃんが先生なら、良かったのに。」
「そんなこと言うと、羽鳥さんが気の毒だ。」
「羽鳥はお師匠さんがいればいいんだよ。おれなんて、毎日お邪魔虫だよ。」
きっぱりと言い切る大二郎は食欲旺盛で、テーブルの上に広げた大量の食事は二人の胃袋に見事に収まった。
「あ~、食べたね~!」
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禎克も上に姉がいて、自分をそれほどしっかりしている方だと思ったことはないが、出会った時から大二郎は、禎克に常にべたべたと触れている気がする。
まるで、触っていないと母親がどこかに行ってしまうような気がして、離れられない赤子のようだ。
「大二郎くん。せめて、ぱんつ穿かない?直接、太ももに当たるんだよね。あの、ナニが……。」
うる……と瞳が濡れる。
「さあちゃん……、おれの事、うっとおしいの?」
「ううん。そんなことない。懐かしかったよ。」
「他には?言ってみて。」
「えっと……どきどきします。」
「さあちゃんっ!」
もう一度、襲われて長いキスを交わした後、やっと二人は食事にありついた。大二郎は禎克に叱られて、おれ、部屋では何も着ないタイプなのに~といいながら、仕方なくバスタオルを緩く腰に巻いた。
普段着物で締めつけているから、ぱんつのゴムの締め付けも嫌なんだと言う。
*****
食事をしながら、二人は色々な話をした。長い空白が、違和感なく紡いだ会話で埋められてゆくのが不思議だった。
興行で日本中回った話、テレビに出演したときの失敗談。
禎克も、珍しく語った。
中学選抜に選ばれてから、漠然としていたバスケへの夢が本気に変わったこと。親にも話したことの無い夢を禎克は語った。
やがて、懐かしいこまどり幼稚園での話になった。大二郎は毎日、ピンクのスモックを着ていた禎克を、当然のように女の子だと思っていたらしい。
「……おれ、ピンクのさあちゃんが初恋だったんだよ。」
「そうなんだ。」
「小さくて可愛くておとなしくて。お友達になれたのが嬉しくて、他の誰にも取られたくなくてさ、お嫁さんにするって公言したら、湊が弟だって言ったんだ。信じないぞって怒ったら、じゃあ、ぱんつ下ろしてみれば……?って言われてさ。つい勢いで下ろしたら、付いてたんだよ、おれと同じ物。ちっこいナニがぽろん……って。あの時のショックったら、なかったよ。」
「仲良くしてた大二郎くんに、いきなりぱんつ下ろされて、ぼくも切れちゃんだよなぁ……。」
「お互い、すごい衝撃だったね。ぱんつ下ろしたこと、さあちゃんも覚えてたのか。」
「ぼくは、年少さんで、既にひらがなも書けるお利口さんだったから、忘れません。記憶力はいい方だよ。」
大二郎は口をとがらせた。
「ぶ~。ひらがなは、小学校でやっと覚えました~。」
「掛け算は?」
「おれ、二ケタの引き算でつまずいちゃったから、算数嫌いなの。」
「引き算でつまずいたのか……?九九じゃなくて?」
「学校あまり行けなくてさ、羽鳥が教えてくれたんだけど。羽鳥の教え方が、まじで下手くそだったんだよ。隣りから十借りてきて引きます……とか言ってさ。11から9引くと……、ほら、一の位は引けないだろ?だから、隣から借りて来るっていうんだけど、おれは貸さないって頑張ったの。」
「それじゃ、計算にならないな。」
「だってね。8とか9とかたくさんあれば貸してあげてもいいけど、十の位には1しかないんだよ。いくら、宵越しの銭は持たない江戸っ子でも、ない袖は振れない。道理だろ?」
十の位に同情して、引き算ができないなんて……。
「お……おかしい……。あはは……。」
禎克は笑いが止まらなくなってしまった。
「さあちゃん。おれのこと、ばかだと思ってる……。」
哀しげに顔を曇らせた大二郎の肩を引き寄せた。
「違うよ……違う。可愛いって思っただけ。傍に居たら、教えてあげられたのにね。きっと、十の位はさ、何もかも失くしてもいいと思えるほど一の位が好きだったんだよ。そう思わないか?」
「そう言えば、おれにもわかるのに……。やっぱり羽鳥の教え方が下手だったんだ。さあちゃんが先生なら、良かったのに。」
「そんなこと言うと、羽鳥さんが気の毒だ。」
「羽鳥はお師匠さんがいればいいんだよ。おれなんて、毎日お邪魔虫だよ。」
きっぱりと言い切る大二郎は食欲旺盛で、テーブルの上に広げた大量の食事は二人の胃袋に見事に収まった。
「あ~、食べたね~!」
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