禎克君の恋人 15
大きな瞳が濡れている。
「ね、さあちゃん。ホテルの旧館の304ってね、ここに滞在中おれの部屋なんだ。もっと話しようよ。舞台の後で、時間作るから、さあちゃんも時間作れない?」
「うん。少しくらいなら大丈夫だけど、長くはいられないんだ。インターハイがあるから。明日の朝には出発する。」
「また離れ離れになるんだね……。なんか、おれとさあちゃん、織姫と彦星みたいだ。」
「七夕は年に一度あるけど、こっちは11年ぶりだ。」
「でも今は携帯もあるし、そうだ赤外線。メアドと携番教えて。」
「うん。」
ぴっ……と小さな電子音が、二人を確かにつないだ。
仲の良い小さな恋人同士みたいに、頭をくっ付けて来ると、大二郎は写真を撮って待ち受けにした。
「醍醐さんは、大丈夫なのか?手術したんだろ?湊がニュースで流れてたって言ってたよ。」
「うん。出血箇所はすぐわかったし、手術が終わって麻酔が解けた後、意識がすぐに戻ったから大丈夫だろうって、お医者様が言ってくれたそうだよ。気が付いてすぐに羽鳥が、電話をくれたんだ。しばらくは集中治療室らしいけどね。おれにはやるべきことが、たくさん有るから、今は病院へは行けないんだ。」
「そっか……。羽鳥って、醍醐さんに付いてる人?」
「お師匠さんのいい人だよ。おれの母親が亡くなってから、ずっと面倒見てくれているんだ。うんと昔から劇団にいるんだ。おれの母親が亡くなる時に、おれとお師匠さんの事頼むねって言ったらしい。言うなればおっ母さん公認かな。」
「そう。お母さんみたいな人なんだ。」
「うん。おれにおっぱいくれたこともある。出なかったけど。」
「へぇ……?」
「ちなみに、羽鳥は男だよ。」
「おっ……とこ!?」
大二郎はくすくす笑って、もう一度禎克の頬に、柔らかく小鳥のキスを贈った。
*****
「今夜のおれの舞台見てね。さあちゃん。そのあと、一緒にご飯食べよ。」
「わかった。」
「今度のことで柏木醍醐の一人息子がどこまでやれるかって、世間が注目してる。お師匠さんが入院している間の舞台が、劇団にとっても正念場なんだ。人気稼業は一度でもケチがつくと終わりだから、気合入れないと。応援してくれる?さあちゃん。」
「そうか。何もできないけど、応援するよ。頑張れよ。」
「……あい。」
素顔で艶めかしくしなを作った大二郎の所作に、禎克は思わず見惚れた。
見送る禎克に、視線を流した大二郎が言う。
「さあちゃん。舞台を観たらおれに惚れるよ、きっと。」
「ははっ、強気だ。」
禎克は、もうとうに落ちていた。
久しぶりの二人。会話が弾みます。
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