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禎克君の恋人 17 

手術を終えた柏木醍醐は、白く靄(もや)のかかった静かな世界にいた。

一体、ここはどこなんだ……?
おれは、どうしたんだ?

誰かに問おうとしたが、辺りには人影はない。

微かに誰かの気配がする。それは、早くに彼岸に旅立った最愛の妻、楓の姿だろうか……。
それとも、いつも黙って傍に控える優しい男だろうか。
身体が重く、泥のようだ。
目を開けようとしても、目蓋が重かった。
爽やかなシトラスの微かな匂いに、覚えがある。

*****

「……う……」

「醍醐さん。気が付きましたか?俺、ここにいます。安心してください。大丈夫です。」

ゆると、ほんの少し指先が泳いだ。術後、意識さえ戻れば後遺症が残ることは少ないと医師は告げた。
醍醐の意識が戻ったのを羽鳥は心から喜んだ。大声を上げる代わりに、思わず手を握ると、微かに力を込めて、醍醐がきゅっと返してくる。
努めて静かに話しかけた。

「すべてうまくいきました。先生が運が良かったっておっしゃっていました。半年も養生すれば、きっと元通りの生活できるようになるだろうって……何?なんですか?」

耳を酸素マスクの口元に近付けると、微かに醍醐がささやいた。

「ご……大ご……さん……」

「醍醐、大誤算……?」

にっと口の端が動いた。
ぱたぱたと羽鳥の頬を涙が転がり落ちた。

「……ばか……。」

「そんな人のギャグをぱくっていないで、早く元気になってください。治ったら、ばりばり稼いでもらいますからね。この前作った打掛の着物代も、夏の帯も、鬘(かつら)代もまだ支払済んじゃいないんですからね。……醍醐さん?」

醍醐は、もう聞いて居なかった。穏やかな顔で、静かに眠りについていた。
この先は、日にち薬だろうと医師は言う。薄紙をはぐようにきっと少しずつ良くなってゆくだろう。
今は体中につながれた管が痛々しいが、青ざめた顔に血の気は戻り、触れた指先が温かかった。
胸が上下するのを認めた羽鳥は、寝台に頭をうずめた。

「良かった……。本当に良かった。」

「姐さん……醍醐さんを返してくれてありがとうございます。俺、頑張りますから。醍醐さんが元の身体に戻れるように、支えますから。」

彼岸があると言う西の空に向かって、羽鳥は手を合わせ祈った。

長い手術に共に耐えた羽鳥は、やっと今安堵して、廊下に置かれた長椅子に崩れ込んだ。
その頃、大二郎は懸命に舞台を務めていた。




(´・ω・`) 羽鳥 「醍醐……大誤算って……醍醐さんのばか。」

(*⌒▽⌒*)♪此花 「テレビでダイゴさんが言ってるのを見て、いつか使おうと思ってました。うふふ。」

■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ


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