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禎克君の恋人 18 

さほど広くはないホテルの劇場内は、ざわめいていた。
お目当ての柏木醍醐が病に倒れ、病院へ運ばれた話は既にファンの間に伝わっていた。

詰めかけたマスコミのカメラに驚き圧倒されながら、人々は横断幕を眺め、ホテルの中に入ってゆく。
200席ばかりの小さな劇場は立ち見も出るほどの盛況ぶりだった。
禎克は大二郎が用意してくれた前列の片隅に座り、少し緊張して開演を待っていた。

ふっと場内のライトが落とされ、大二郎のアナウンスが流れる。

『御来場の皆さま。本日はようこそお越し下さいました。
劇団醍醐、副座長、柏木大二郎でございます。
本日は座長、柏木醍醐が休演となっております。座員一同一丸となって精一杯努めますので、最後までお楽しみくださいますよう、なにとぞよろしくお願いいたします。』

白いスモークが、雲海のように舞台から客席へと降りてくる。
痛いような静寂の中、どこかでぽ~んと鼓の音が響いた。
ピンスポットの中に、大二郎の艶やかな姿が浮かび上がると、静まり返った客席は一斉に息を飲んだ。

舞台中央にガラスケースが置かれ、その中に藤娘に扮した大二郎が小首を傾げて立っていた。等身大の美々しい日本人形に見える。
じっと見つめる中、静かにガラスケースが開き、藤娘が肩にかついだ藤の花房をかすかに振る。

幼い時から何度も繰り返して覚えた藤娘の丸い笠が綺麗に滑ると、大二郎は初めて笑みを浮かべ満座の客席に視線を流した。禎克に向かって流した視線を、自分たちに向けられたものと思ったご婦人方が、小さな声できゃあっと年に似合わぬ歓声を上げた。

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禎克は、まるで夢見心地で身を乗り出し、華やかな舞台に見惚れていた。
先ほど懐かしく話をしていた、大二郎の余りの変わりっぷりに驚愕していた。自分と同じ年のれっきとした少年が、衣装を身に着け化粧をしただけで、絶世の美女にしか見えないのに驚いてしまう。感嘆が思わず口を突く。

「すっご……。」

舞台に引き込まれている時は瞬く間に経ち、迎えた僅かな幕間にほっと息を吐いた。
ドサ回りと揶揄される大衆演劇が、これ程、洗練されたものだとは正直思っていなかった。何となく田舎芝居のような泥臭いもののような気がしていたが、衣装や大道具も想像以上に垢抜けた舞台だった。
禎克は、八面六臂の大二郎の必死の仕事ぶりを認めた。
踊り、芝居をし、歌っていた。

気が付けば、幕間の周囲の会話は、大二郎の話で持ちきりになっている。背後から聞こえて来る称賛の声をまるで、自分のことのように禎克は嬉しく思った。

「思ってたよりも、はるかに良かったわね。醍醐が居ないんじゃ、どうしようもないと思ったけれど、大ちゃんの踊りも結構いいわ。」

劇団醍醐のコアなファンらしいご婦人方は、余所の舞台と比べてどうだ、ああだと感想を述べ合っている。

「この前見た劇団夢波の舞台は、使える子が移籍しちゃってつまらなかったでしょ?醍醐がメインだから、どうなるかと思ったけれど、大ちゃんはよく勉強してるわねぇ。驚いた。」

「醍醐も大二郎も、色っぽくていいわぁ……。わたし、物販に行って来よう。あなたはどうする?」

「そうねぇ。お見送りもあるだろうし、今日はご祝儀に大ちゃんのポスターと手拭いと、色紙を買って来るわ。」

「じゃあ、わたしも行く~。」

禎克は、そんなものがあるのなら、後で自分も何か見てみようと思いながら、その場で腕をあげぐいと背を伸ばした。
何しろ長身なので、後ろの人の邪魔になるだろうと身体を出来るだけ前に倒していたから、背筋が強張っていた。

「金剛!」

聞き覚えのある声に振り向けば、上谷がにこにこと笑っていた。





本日もお読みいただきありがとうございます。
拍手もポチもありがとうございます。励みになっています。

着物の柄が違うバージョンも書きましたので、後程あげておきます。
五分後に上るように予約入れました。

(〃゚∇゚〃) このちん、寝ないで挿絵がんばって描いたので見てね。
したいことが多すぎて、どんどん睡眠時間が無くなってゆきます。
(*⌒▽⌒*)♪←でも、やせない。  此花咲耶

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1 Comments

此花咲耶  

拍手コメントさとうさま

> (*ノ▽ノ)キャ~ッ!ほめらりた~!
>
> 嬉しいです。がんばって描いた甲斐がありました。
> 中々な進展しない二人ですが、これからうっすらあると思うので待っててね。
> 大二郎くんのすっぽんぽんのお絵かきは出来たのですが、二人一緒に描くのは難しいのです。
> あれこれがんばります。(`・ω・´)
> コメントありがとうございました。(*⌒▽⌒*)♪

2012/08/15 (Wed) 08:43 | REPLY |   

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