平成大江戸花魁物語 7
油屋(中東の石油王)の申し出た金額に、廓中は大騒ぎになった。
雪華さんが一生楽して遊べる金を用意します、決して御苦労をお掛けするようなことはありません、と、使いの者ははっきりと口にしたらしい。
「や~ん、雪華兄さん~、遠くに行っちゃやだ~~~。」
「…初雪。大丈夫だよ。ぼくは花菱楼が気に入っているから、まだしばらくはここにいる。それに所作を教えて、きちんと花魁にしてやりたいからね。初雪の父親はお前を売るほど金に困っているだろう?花魁になれば、客を選べるからね。世界を牛耳っている金持ちどもを手玉に取ってやるといい。」
初めて連れて来られた頃、花魁の適性を見る為、初雪は厳しい検めを受けた。お猿のぬいぐるみを手離せないような子供が、精通の無いまま、幼い茎を握り締めて泣きながら気をやった時、この子はいつか大化けして名を残す太夫になるかもしれないと雪華太夫は思っていた。
「さあ。涙を拭いて湯屋へ行っておいで。六花と二人、前に座った兄さんが綺麗に見えるように、うんと可愛らしくしてもらっておいでね。」
自分の身に、どれほどの価値があるのか、雪華花魁にはあまり興味がなかったが、それでも、雪華は正真正銘の「傾城」だった。
ついに、馴染みとなった中近東の王子さまと雪華の床入りが厳かに執り行われる。
その絢爛豪華な支度は目も眩むようだった。
新婚初夜を迎える花嫁と花婿のように、花魁と上客の固めの儀式が執り行われた。
*****
「雪華……。」
「あい、ぬしさん。長らくお待たせいたしんした。」
「どうぞ、こなたの身体。お好きになさってくんなまし。」
絹の中から現れた美肌は、輝く透明な雪華石膏(アラバスタ)。
吸い付くような純白の石肌には、ほんの少し紅を溶いたような淡い色の胸の尖りが慎ましく触れられるのを待っていた。
「なんという……」
冷たい質感に頬を寄せ、光沢も美しい滑らかな雄芯をついに手に入れた中近東の王子は、感激のあまり鼻血を噴き、辺り一面血の海になった。
「主さま。」
「ああ、これは……汚してしまう。」
「きゃあ~。雪華花魁の一大事~。」
異変に気付いて覗いた禿の初雪が大騒ぎし、廓の中を駆け廻ったものだから大変な騒ぎになってしまった。六花と言えば、おろおろとしてその場で立ち往生しているばかりだ。
心中騒ぎと誤解されて、皆、しどけない恰好で客と二人連れで、のぞきに来る。
「皆さま、ご心配には及びませぬ。主さまは、少々血が上っただけでございんす。」
稀代の雪華花魁は、動ぜずぱっと跨る(またがる)と花の後孔に王子を咥え(くわえ)、抜かずの三段締めで見事に仕留め、紅絹の褥の上に倒れた王子は快楽の海に沈んだ。
抱きしめた腕の中の花魁に、王子は頬を寄せた。
「ああ、雪華……どうやったら、お前の心が手に入る……?」
「主さま、わっちの心は、いつでも主さまのものでありんすぇ。」
一度会えば城が傾き、再び会えば国が傾くほどの美人と言われる雪華太夫の元に通いつめ、やっと幾度目かに念願の床入りを許されて、中近東の王子は瞳孔を開いたまま息を詰めている。
その心は、全てをなげうってもお前を手に入れたいと叫んでいた。
王子の本気を知って、雪華は別れを決めた。
「石油の利権も何もいらぬ。お前ただ一人が傍にいてくれさえしたら、それでいい。」
このままずっと花菱楼に居続けたら、国の国庫が空になり、虐げられた住人が革命を起こすのは、火を見るよりも明らかだった。
「嬉しいこと。好いたお方にこうまで言われて、まっこと雪華は花魁冥利に尽きますなぁ……。」
「なれど、主さま。……お国の人を泣かしてはいけません。小さな子供が飢えて泣くようなことになるならば、わっちは主さんと泣く泣くお別れするでありんす。本当に好いたお方とは、結ばれないのが世の常なれば……雪華は異国の空の下で主さまを恋うていたいと思いんす。」
「ああ……雪華、雪華……。それほどに、わたしを好きだと言ってくれるのかい?」
「あい、愛しい主さま。ご立派に油屋の御主人になってくんなまし。」
誰のものでもない雪華大夫は艶然と微笑み、今日もまた誰かの心に住むことになった。
六花は、言葉一つ眼差し一つで、男を手玉に取る雪華を驚愕しながら眺めていた。
これは華やかに見えるが、戦だと内心思う。
先に絡め取られた方が敗者になる。
敗者は完膚なきまでに打ちのめされて、下るしかない。
「まじ、すげぇんだぜ、じいちゃん。」
そう伝えたら、祖父はどんな顔をするだろう。
六花は驚きをそのまま、祖父に早く報告したかった。
艶めかしい花魁の世界です。
花魁とめでたく床入りするのには、長い手順を踏まなければなりませんでした。
大変ねぇ~
六花は驚いているばかりです。(°∇°;) ←
本日もお読みいただきありがとうございます。拍手もポチもありがとうございます。
励みになってます。(〃▽〃) 此花咲耶
雪華さんが一生楽して遊べる金を用意します、決して御苦労をお掛けするようなことはありません、と、使いの者ははっきりと口にしたらしい。
「や~ん、雪華兄さん~、遠くに行っちゃやだ~~~。」
「…初雪。大丈夫だよ。ぼくは花菱楼が気に入っているから、まだしばらくはここにいる。それに所作を教えて、きちんと花魁にしてやりたいからね。初雪の父親はお前を売るほど金に困っているだろう?花魁になれば、客を選べるからね。世界を牛耳っている金持ちどもを手玉に取ってやるといい。」
初めて連れて来られた頃、花魁の適性を見る為、初雪は厳しい検めを受けた。お猿のぬいぐるみを手離せないような子供が、精通の無いまま、幼い茎を握り締めて泣きながら気をやった時、この子はいつか大化けして名を残す太夫になるかもしれないと雪華太夫は思っていた。
「さあ。涙を拭いて湯屋へ行っておいで。六花と二人、前に座った兄さんが綺麗に見えるように、うんと可愛らしくしてもらっておいでね。」
自分の身に、どれほどの価値があるのか、雪華花魁にはあまり興味がなかったが、それでも、雪華は正真正銘の「傾城」だった。
ついに、馴染みとなった中近東の王子さまと雪華の床入りが厳かに執り行われる。
その絢爛豪華な支度は目も眩むようだった。
新婚初夜を迎える花嫁と花婿のように、花魁と上客の固めの儀式が執り行われた。
*****
「雪華……。」
「あい、ぬしさん。長らくお待たせいたしんした。」
「どうぞ、こなたの身体。お好きになさってくんなまし。」
絹の中から現れた美肌は、輝く透明な雪華石膏(アラバスタ)。
吸い付くような純白の石肌には、ほんの少し紅を溶いたような淡い色の胸の尖りが慎ましく触れられるのを待っていた。
「なんという……」
冷たい質感に頬を寄せ、光沢も美しい滑らかな雄芯をついに手に入れた中近東の王子は、感激のあまり鼻血を噴き、辺り一面血の海になった。
「主さま。」
「ああ、これは……汚してしまう。」
「きゃあ~。雪華花魁の一大事~。」
異変に気付いて覗いた禿の初雪が大騒ぎし、廓の中を駆け廻ったものだから大変な騒ぎになってしまった。六花と言えば、おろおろとしてその場で立ち往生しているばかりだ。
心中騒ぎと誤解されて、皆、しどけない恰好で客と二人連れで、のぞきに来る。
「皆さま、ご心配には及びませぬ。主さまは、少々血が上っただけでございんす。」
稀代の雪華花魁は、動ぜずぱっと跨る(またがる)と花の後孔に王子を咥え(くわえ)、抜かずの三段締めで見事に仕留め、紅絹の褥の上に倒れた王子は快楽の海に沈んだ。
抱きしめた腕の中の花魁に、王子は頬を寄せた。
「ああ、雪華……どうやったら、お前の心が手に入る……?」
「主さま、わっちの心は、いつでも主さまのものでありんすぇ。」
一度会えば城が傾き、再び会えば国が傾くほどの美人と言われる雪華太夫の元に通いつめ、やっと幾度目かに念願の床入りを許されて、中近東の王子は瞳孔を開いたまま息を詰めている。
その心は、全てをなげうってもお前を手に入れたいと叫んでいた。
王子の本気を知って、雪華は別れを決めた。
「石油の利権も何もいらぬ。お前ただ一人が傍にいてくれさえしたら、それでいい。」
このままずっと花菱楼に居続けたら、国の国庫が空になり、虐げられた住人が革命を起こすのは、火を見るよりも明らかだった。
「嬉しいこと。好いたお方にこうまで言われて、まっこと雪華は花魁冥利に尽きますなぁ……。」
「なれど、主さま。……お国の人を泣かしてはいけません。小さな子供が飢えて泣くようなことになるならば、わっちは主さんと泣く泣くお別れするでありんす。本当に好いたお方とは、結ばれないのが世の常なれば……雪華は異国の空の下で主さまを恋うていたいと思いんす。」
「ああ……雪華、雪華……。それほどに、わたしを好きだと言ってくれるのかい?」
「あい、愛しい主さま。ご立派に油屋の御主人になってくんなまし。」
誰のものでもない雪華大夫は艶然と微笑み、今日もまた誰かの心に住むことになった。
六花は、言葉一つ眼差し一つで、男を手玉に取る雪華を驚愕しながら眺めていた。
これは華やかに見えるが、戦だと内心思う。
先に絡め取られた方が敗者になる。
敗者は完膚なきまでに打ちのめされて、下るしかない。
「まじ、すげぇんだぜ、じいちゃん。」
そう伝えたら、祖父はどんな顔をするだろう。
六花は驚きをそのまま、祖父に早く報告したかった。
艶めかしい花魁の世界です。
花魁とめでたく床入りするのには、長い手順を踏まなければなりませんでした。
大変ねぇ~
六花は驚いているばかりです。(°∇°;) ←
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