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平成大江戸花魁物語 13 

盛りの枝垂れ桜の周辺に、提灯が提げられ庭のアーク灯にも火が入った。
不夜城と言われる娼館花菱楼で、夜目にも眩い夜桜の宴が始まる。
上客だけを招いて行われる今宵の出し物は、誰もが認める大江戸一の花菱楼娼妓、雪華大夫が禿に代わって受ける公開折檻だった。
雪華太夫は、禿の初雪が足抜けをした罪を、その身で代わりに償う。

二本の八重桜の真横に張った枝に、きりりと赤い麻縄が掛けられ、小さな輪が吊り下げられる。
足元には緋毛氈が敷かれ、香が焚かれた。
楼外の茶屋まで歩くだけで、見物人が押しかけ大騒ぎになる雪華太夫は、今や生まれたままの姿に剥かれ、押し寄せた衆人の中央に曝されている。
その日、花菱楼に運よく逗留したものは、今宵の幸福に酔いしれ後にあちこちで熱く語って、又新しい雪華太夫の伝説を作るだろう。

顔だけに薄く水白粉を塗っているとはいえ、毛穴も感じさせない肌の滑らかさに、ほかの廓から見物に来た太夫は嫉妬し、長く垂らされた(吊られるはずの)縄目を交互に引っ張り小突いた。
自分達にはない雪華太夫の器量や資質に対する妬みや嫉み、思わぬ意趣返しの機会を経て、内心いい気味と思わぬでもない。比較され続けた他所の楼閣の筆頭花魁が、声を掛けた。

「お綺麗な雪華太夫。さすがにどんな格好も、よぉくお似合いだ事。」

「あっ……」

縄を引かれ、思わずその場に手を付いた。

「その涼しげな顔がいつまで持つのか、よっく見物させてもらうよ。」

「飼ってた禿に裏切られる何ざ、いい気味だよ。蝶よ、花よと、もてはやされてきた大江戸一の花魁が、簪の一本もなくこうして吊られるとはねぇ。どんないい声で啼くのか、ゆっくり聞かせてもらおうよ。」

哄笑が響いた。

*****

普段、雪華花魁は、豪華な髪飾りを盛大に飾った伊達兵庫という髪型を結う。
それは、歌舞伎の演目で一番馴染みがある、傾城「阿古屋」の髪形である。
だが今の雪華太夫は、花魁の印ともいえる平打ちの鼈甲(べっこう)の笄(こうがい)や玉簪(かんざし)を外し、飾りのない髪は、熨斗を当てて膨らませただけの華やかな肢体には不似合な、質素と言える髪形だった。
吊るされる寸前の雪華大夫を飾るのは、自身の真珠の光沢の肌と中心に慎ましく揺れる薄紅色の雄芯だけだった。
床入りしたものだけが見るのを許される、伝説の美芯がそこにある。
静まり返った場所で、誰かの喉がごくりと音を立てた。

介添えを買って出た天華花魁が唇をかんで、縛めを受けた雪華太夫が転びそうになったのを支えた。
涙をこぼすまいとしているように雪華花魁の目元は朱を帯びて、加虐を拒む壮絶な色香が立ち上っていた。
花菱楼の楼主が現れ、拍子木を打つと開始を告げた。

「さあ。始めようか。皆様、お待ちかねだよ、雪華花魁。覚悟おし。」

「あ……い。」

楼主は自ら雪華花魁の肩を抱き、縄目を伸ばすと両腕を枝垂れ桜に下がる輪につないだ。
紅い縄が二本新しく掛けられ、胸に食い込むと、ぷくりと童女のように膨らんだ胸に見える。手の込んだ緊縛ではないが、こうしておけば、雪華花魁は深い呼吸が出来ず次第に酸素を求めて喘ぐことになる。地味な二本の胸張り縄は、時間をかけてじわじわ苦しめる残酷な緊縛縄だった。




(´・ω・`) 雪華「……この縄は息が苦しくなるのです。」

(つд⊂)ウエーン(つд・ )初雪 六花「雪華兄さんが……」

本日もお読みいただきありがとうございます。
雪華花魁の自己犠牲、心意気を表現できたらと思っています。
あまりハードな表現はありませんが、うっすら加虐場面が数話続きますので、無理だと思ったらこれ以降は回れ右してください。


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