平成大江戸花魁物語 9
六花の先輩禿の初雪が、とんでもない事をしでかした。
その日の夕暮、大門が開けられてしばらくしたころ、大事を知らせる半鐘が鳴り始めた。
誰かが足抜けだ~!と叫んだのが聞こえた。
物々しい雰囲気に、人が増え始めた表通りは騒然としている。
直ぐに触れがまわり、招集された楼主が検番に登る。
「雪華兄さん!大変です~っ!あ、違った、大事(おおごと)でありんす~。」
六花が転がるようにして部屋に飛び込んできた。
支度前の湯上りのしどけない恰好の雪華太夫の耳に、六花はとんでもない話を打ち明けた。
「花菱楼の禿が足抜けをして、大門で捕まったというんです。表で棒振りのお兄さんが、大声で叫んでます。」
「……それは、大事(おおごと)だね。六花や、初雪は部屋にいるかい?」
「あの……っ、雪華兄さん。」
六花はこしらえを済ませてからは、初雪の姿を見ていなかった。
酷い折檻に遭いますから、足抜けだけは決してしてはいけませんよ……と、何度も念押しした柳川の言葉を思い起こした六花はすっかり青ざめていた。柳川があれほど言ったのだから、きっと、大変なことに違いないと思う。
「見当たらないんです。どこを探しても、初雪さんの姿が見えません。天華兄さんも捜してくれていますけど……ひょっとして……足抜けしたのって……?」
ぬば玉の黒髪を梳って(くしけずって)いた雪華が、六花の口から足抜けと聞き、思わず柘植の櫛を取り落した。
「まさか……!」
「あの子が、そんな大それたことをするわけないと思うけれど……」
大江戸のよその楼ではたまに聞く話だが、花菱楼に関してはまさに青天の霹靂と言ってよいくらいの仰天の出来事だった。
「六花、すぐに、天華兄さんを呼んでおいで。おまえはいい子だから、お部屋にすっこんでいるんだよ。」
「あい。」
雪華の凛とした顔が、凍りついていた。足抜けとなると、禿を預かっている花魁もただでは済まない。
六花はどうか別人でありますようにと願ったが、やはり、脱走を図ったのは初雪だった。
*****
「あれ、足抜けの咎人が行くよ。」
「なんだねぇ、客を取る前の禿じゃないか。」
縄目を受けた初雪が、大通りを引かれてゆく。時折抗っては、散々に殴られていた。
「大人しくしろっ!えらいことをしでかしたなぁ、禿!」
「は……なしてっ!やだっったら!」
「大江戸きっての花菱楼の禿なら、ご定法破りはどうなるか、知らないはずはないよなぁ。」
その言葉に、初雪は震えた。
禿の初雪は、棒振りと呼ばれる自警団の男衆に乱暴に小突かれ、くす玉かんざしの丸い飾りを失くし、紅い絞りの扱きも引きずって酷いありさまだった。白い足袋も片方だけになっている。
花刺繍の手毬を入れて、肌身離さず大事にしているリュック型のお猿のぬいぐるみも泥で汚れていた。
少年らしい瑞々しさに溢れた、誰もが愛する初雪は、髪も乱れ、年相応のどこぞの不良少年の有様で、花菱楼の戸口に引き立てられてきた。
その場で長襦袢もむしられ、罪人のように後手に荒縄で縛められた姿は、ちりめんの下帯一つに合わせをひっかけただけという、とんでもなく哀れな恰好だった。
花菱楼の玄関土間に、初雪は引き据えられた。
「……これは、初雪。どういうことでありんしょうかぇ……?」
嘆く雪華大夫の前に引き出されると、初雪は深く頭を下げた。
Σ( ̄口 ̄*)雪華「初雪が足抜け……?」
( *`ω´) 天華「いったい何をやってるんだ、初雪は。」
(°∇°;) 六花「た……大変だ~」←あんまりわかってない。
足抜けをしたらもう折檻なんてものではありません。
殆ど拷問のようにひどい目に遭います。初雪は大丈夫でしょうか……(´・ω・`)
(´;ω;`) 初雪「だって……」
いろいろ事情がありそうな初雪です。
本日もお読みいただきありがとうございます。拍手もポチもありがとうございます。
励みになってます。(〃▽〃)
途中からお読み下さった方へ。
このお話は、実は平成の世のお話です。東京の地下に大江戸という名の男ばかりの遊郭が、テーマパークのように広がっているという設定です。
奇想天外なお話しなのですが、ほとんど江戸のお話しのようです。(*/∇\*) ま、いいか~此花咲耶
その日の夕暮、大門が開けられてしばらくしたころ、大事を知らせる半鐘が鳴り始めた。
誰かが足抜けだ~!と叫んだのが聞こえた。
物々しい雰囲気に、人が増え始めた表通りは騒然としている。
直ぐに触れがまわり、招集された楼主が検番に登る。
「雪華兄さん!大変です~っ!あ、違った、大事(おおごと)でありんす~。」
六花が転がるようにして部屋に飛び込んできた。
支度前の湯上りのしどけない恰好の雪華太夫の耳に、六花はとんでもない話を打ち明けた。
「花菱楼の禿が足抜けをして、大門で捕まったというんです。表で棒振りのお兄さんが、大声で叫んでます。」
「……それは、大事(おおごと)だね。六花や、初雪は部屋にいるかい?」
「あの……っ、雪華兄さん。」
六花はこしらえを済ませてからは、初雪の姿を見ていなかった。
酷い折檻に遭いますから、足抜けだけは決してしてはいけませんよ……と、何度も念押しした柳川の言葉を思い起こした六花はすっかり青ざめていた。柳川があれほど言ったのだから、きっと、大変なことに違いないと思う。
「見当たらないんです。どこを探しても、初雪さんの姿が見えません。天華兄さんも捜してくれていますけど……ひょっとして……足抜けしたのって……?」
ぬば玉の黒髪を梳って(くしけずって)いた雪華が、六花の口から足抜けと聞き、思わず柘植の櫛を取り落した。
「まさか……!」
「あの子が、そんな大それたことをするわけないと思うけれど……」
大江戸のよその楼ではたまに聞く話だが、花菱楼に関してはまさに青天の霹靂と言ってよいくらいの仰天の出来事だった。
「六花、すぐに、天華兄さんを呼んでおいで。おまえはいい子だから、お部屋にすっこんでいるんだよ。」
「あい。」
雪華の凛とした顔が、凍りついていた。足抜けとなると、禿を預かっている花魁もただでは済まない。
六花はどうか別人でありますようにと願ったが、やはり、脱走を図ったのは初雪だった。
*****
「あれ、足抜けの咎人が行くよ。」
「なんだねぇ、客を取る前の禿じゃないか。」
縄目を受けた初雪が、大通りを引かれてゆく。時折抗っては、散々に殴られていた。
「大人しくしろっ!えらいことをしでかしたなぁ、禿!」
「は……なしてっ!やだっったら!」
「大江戸きっての花菱楼の禿なら、ご定法破りはどうなるか、知らないはずはないよなぁ。」
その言葉に、初雪は震えた。
禿の初雪は、棒振りと呼ばれる自警団の男衆に乱暴に小突かれ、くす玉かんざしの丸い飾りを失くし、紅い絞りの扱きも引きずって酷いありさまだった。白い足袋も片方だけになっている。
花刺繍の手毬を入れて、肌身離さず大事にしているリュック型のお猿のぬいぐるみも泥で汚れていた。
少年らしい瑞々しさに溢れた、誰もが愛する初雪は、髪も乱れ、年相応のどこぞの不良少年の有様で、花菱楼の戸口に引き立てられてきた。
その場で長襦袢もむしられ、罪人のように後手に荒縄で縛められた姿は、ちりめんの下帯一つに合わせをひっかけただけという、とんでもなく哀れな恰好だった。
花菱楼の玄関土間に、初雪は引き据えられた。
「……これは、初雪。どういうことでありんしょうかぇ……?」
嘆く雪華大夫の前に引き出されると、初雪は深く頭を下げた。
Σ( ̄口 ̄*)雪華「初雪が足抜け……?」
( *`ω´) 天華「いったい何をやってるんだ、初雪は。」
(°∇°;) 六花「た……大変だ~」←あんまりわかってない。
足抜けをしたらもう折檻なんてものではありません。
殆ど拷問のようにひどい目に遭います。初雪は大丈夫でしょうか……(´・ω・`)
(´;ω;`) 初雪「だって……」
いろいろ事情がありそうな初雪です。
本日もお読みいただきありがとうございます。拍手もポチもありがとうございます。
励みになってます。(〃▽〃)
途中からお読み下さった方へ。
このお話は、実は平成の世のお話です。東京の地下に大江戸という名の男ばかりの遊郭が、テーマパークのように広がっているという設定です。
奇想天外なお話しなのですが、ほとんど江戸のお話しのようです。(*/∇\*) ま、いいか~此花咲耶
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