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落日の記憶 23 

懐から黒光りのする拳銃を取り出すと、本郷は一発天井に向けて撃った。
銃声を聞き、細雪は思わず部屋を飛び出した。自分の為に、わざわざ時間を作り登楼してくれた澄川の身が心配だった。

「本郷の宮様。何をなさっておいでなのです。こんなところで、そんなものを振り回すなんて……おやめください。」

「徳子……あんたに贅沢させてやるために、俺は馬車馬のようにがむしゃらに働いたんだ。いっそ、一緒に死のう……な?……なぁ、それだけが、この世であんたを手に入れる手段なんだろう?」

「何を……おっしゃっているのでありんすか?」

じりじりと詰め寄る本郷を避けて、細雪は思わず視線を巡らせ澄川を探した。屈強な自警団の男衆が、長い棒を持って澄川を取り囲んでいる。何よりも客の安全を最優先する花菱楼の掟だった。
細雪はほっと安堵のため息を吐いた。

「わっちはお母さまじゃありんせん。なれど、この身は今日より花菱楼の細雪花魁でありんす。本日目出度く水揚げを済ませてからは、店出しいたしんす。本郷の宮様。お母さまによく似たわっちがお望みならば、どうぞしきたり通りにしてくんなまし。花菱楼の細雪花魁として、わっちはいつでもお相手いたしんす。」

「いや……違う。そうやって、また逃げる気だ。あんたは、柏宮に操を立てて死ぬ気だ。そうだろう?俺に触れられるくらいなら、誇り高いあんたは死ぬ気なんだ。」

「よぉく、ご覧になってくんなまし。わっちは、お母さまじゃありんせん。本郷の宮様、どうぞ正気におなり遊ばして……お母さまは、もうこの世におりんせんよ。」

「頼む、死んでくれ。徳子……俺は、あんたを手に入れる為なら何でもする。な、一緒に死のう。」

震える銃口はゆっくりと上がり、ひたと細雪に向けられた。ごく……と喉が上下する。細雪は覚悟を決めた。

「本郷の宮様……それほど、お母様がお好きでありんしたか……」

「細雪っ!」

男衆の囲みを割って、心配した澄川が細雪の元へと走り寄ろうとする。本郷は、迷わず銃口を澄川へと移動させた。

「来るなっ!徳子は俺のものだ。消え失せろ!」

「あっ!旦那様!」

ダーーーーン……!!

*****

一瞬、時が止まったかのようだった。白い鶴が羽根を打たれて、その場にぱたりと落ちた。
誰もが言葉もなく身をすくめ、その場にへたり込んだ。

「……雪華兄さんっ!?」

狙われた澄川を庇った(かばった)細雪に、咄嗟に雪華花魁が被さった(かぶさった)。
細雪の上に被さるようにして、どっと倒れた雪華の着ている銀の地模様のある打掛に、薄い色の彼岸花の花が咲く。弾は雪華花魁の肩口辺りを背後から貫通していた。

「いやだっ、兄さんっ。」

必死に抑える細雪の置いた手のひらが、真っ赤に染まっていた。血はどくどくと溢れ止まらない。

「さ……さめ、無事……かい……?」

「あい、兄さん、でも、兄さんがっ。血が……血が、こんなにたくさん……」

「ば……かだね。部屋に居ろと言っただろう……でも……光尋様は褒めてくださるだろうかねぇ……」

「兄さん!目をつむっては駄目です!兄さんっ……死んではいや!」

叫ぶ細雪に、澄川がしごき(紐)をお貸しと声を掛け、慌てて細雪はしごきを解いた。手早く止血すると澄川は番頭新造に向かい、何やら告げた。澄川は大きな病院にも顔が効くらしい。大江戸の入り口までは、車が入らないから人力で運ぶしかない。

「大江戸では応急処置しかできないからね。乱暴だが戸板で現へ運ぶよ。」

「あい。」

「楼主に話を通すから、細雪は直ぐに男姿になっておいで。さぁ、涙も洗っておいで。雪華は気を失ってはいるが大丈夫だ。急ぎなさい。」

「あい……」

とにかく言われたとおりにするしかなかった。
そして、それから細雪の人生は急転することになる。




ウワァァ-----。゚(゚´Д`゚)゚。-----ン!!!! 細雪「雪華兄さんが~~~あ~ん……」

(`・ω・´) 澄川 「しっかりしなさい、細雪。」

急展開です~

本日もお読みいただきありがとうございます。此花咲耶


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