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小説・若様と過ごした夏・19 

よく、教科書に載っている「下克上」で領主は殺されたらしい。


家臣の中に野心家が居て、殿様から預かったどこか遠くの国に出すはずの援軍を連れて、城に立ち戻り夜襲をかけたらしかった。


何だか、歴史で習った明智光秀の話みたいね。


戦国時代には、よくある話だったそうだけど、家臣を疑って夜もおちおち眠れないなんてあたしはいやだな・・・


平和な小藩、篠塚は温暖な気候に恵まれ、小さな港も栄え、周囲からは豊かな藩と羨ましがられていたそうだけど、事態はその日から一変した。


ご住職の話によると、大切な子供と奥さんを逃がした後、城主は敵と壮絶に切り結んだらしい。


その後、自害した殿の遺体を敵に渡すまいとして、城に火をかけたのは味方らしかった。


首級を渡さないために、お城を燃やすなんて何となくぴんとこないけど、とにかくお城はそうして燃え落ちたのだ・・・

菩提寺らしく、お寺にはその昔代々城主の立派な墓があった。


山の中腹に移された、篠塚家の代々墓と違って、今あるのは、城でなくなった人々の慰霊碑ともいえるものだった。


大きな一枚岩の青い石。


そこであたしは、小さな両手を合わせる若様を見た。


突然、夜襲を受けて逃げ惑うしかできなかった、家中の人たちの霊がそこに眠る。


腹心の裏切りに、なす術もなくひたすら落ちるしかなかった若様。


うん・・・・?


納得できない違和感が、胸の中に持ち上がった。


ちょっと変だよ・・・?


篠塚の当主は生き延びて、これまで代々続いているのが何よりの証拠だと思うんだけど・・・


若様は自分は座敷で死んだって言わなかった・・・?


奥方と落ち延びたはずの若様が、はぐれてしまったなんて話は聞いたことがなかった。


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