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小説・若様と過ごした夏・12 

「若様。ちょっと、お茶にしませんか?」


そういって、部屋に佳奈叔母さんが麦茶とアイスクリームを持ってきてくれた。


「かたじけない。」


「食べれば?」


「・・・この姿では、ままならぬ。」


確かに、霊は食事をしない。


体がなくなると、大方の「欲」というものは消えるらしかった。


強い思いだけが、身体をなくしても残るのだから幽霊になるのも結構根性と力がいるのだ。


ちび宗ちゃんは、お利口に待っていた。


なんだか、「よし」と言ってもらえるのを待っている豆芝みたい。


小首をかしげてご主人様を待っている、どこかの犬のようで、ちょっと可愛い。


「・・・宗ちゃん、どうやら若様は、アイスクリームが食べたいらしいよ。」


「どうぞ。」


ちび宗ちゃんは、両手を広げた宗ちゃんの胸に飛び込んで、身体を借りた。


ちび宗ちゃんって言うのも、わかりにくいね、もういっそ「若様」でいいかな。


「佳奈どの。馳走になる。」


こうしてみると、おばあちゃんと佳奈叔母さんが、宗ちゃんが若様化しても悪くないと思っているのも頷ける気がする・・・


うん。


正直言ってしまうと、いつものあほな宗ちゃんより、憑いてる方が、ニ割増しで凛々しくてかっこいいもの。


「馳走になった。」


背筋をピシッと伸ばして、深々と一礼した若様は宗ちゃんの体から離れた。


抜け殻の宗ちゃんは、やっぱり咳き込んでた。


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