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小説・若様と過ごした夏・26 

「向坂(さきさか)が、謀反を起こして攻め入ったとき、余りに急だったので城代家老は兄上と母上を縁者に届けるのが精一杯だったのじゃ・・・」


あたしより一こ上の宗ちゃんの顔をして、若様は大人びて語った。


「座敷の格子の錠前は、決め事として城代家老にしか開けられなかった。

父上や母上さえも、わたしに会うのは家臣に問うてからではなくては許されなかったから・・・。」


「情が湧くのを怖れての事だと思う。

まこと、兄上とわたしは誰が見ても瓜二つで、剣術の稽古のときに入れ替わっても指南役も気が付かないくらいだった。」


「だからこそ、誰かがわたしを担いで謀反を思いついたなら、篠塚の家はどうなるか判らないと城代家老は心配したのだと思う。」


「結局は向坂が謀反を起こして、わたしの存在は誰にも秘密のままだったがの・・・」


「誰も・・・誰も、閉じ込められた若さまを助けに来なかったの?」


あたしの口が、ばかな質問をする。


ごめんね、若様・・・


若様の目が悲しげにあたしを見つめた。


「・・・お家のためじゃ。」


「兄上を無事にお助けせねば、真子もこの世にはおらぬ。」


そうだった・・・若様の兄上があたしのご先祖様。


若様は、たった6歳で亡くなったのに大人の口調だった。


こんな風に、浮遊しながら霊魂は知恵をつけるのだろうか。


・・・たった一人ぼっちで。

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