漂泊の青い玻璃 10
地域の民生委員の骨折りのおかげで、琉生は何とか公立保育園に編入することができた。私立の無認可保育園では、預けるお金が高くて、とても親子2人やっていけない。たまたま転勤する人がいて、空きが有ったのが幸運だった。
琉生と母は、しばらくは朝型の生活になれるのに苦労した。
慌ただしく時は過ぎてゆく。
保育園のお迎えは、いつも一番最後になった。
琉生は御遊戯室の窓から、何度も門の方を眺める。その場所が迎えに来る母親の姿を、一番早く見つけられるからだ。
「あっ!お母さんだっ。い~ち。に~い。……」
琉生は姿が見えてから、すぐに数を数えはじめる。保育士と二人で17数えたら、母親がぱたぱたと飛び込んでくる。
琉生はこうして数を覚えた。
「遅くなって……すみません~っ!」
息を切らせて走って来る母のスーパーのパートは、一応保育園のお迎えに間に合うように、四時までと決まっているが、雑用が多く、なかなか思うように退社できなかった。
母親が来るころには、お友達はみんな帰ってしまっている。大勢のお友達がいる時には、狭い御遊戯室も、琉生の帰る頃には広く見える。
琉生は帰りの支度をして、ひよこ色の帽子をかぶり、絵本を抱えていた。
「ごめんね、琉生。お母さん、一生懸命走ったんだけど、今日もお迎えびりになっちゃったね。駄目だなぁ。」
「お母さん。走ってお腹すいた?」
「ん~、お腹すいちゃった。琉生、帰ったら何食べようか?」
「しろくまちゃんのホットケーキ。」
「琉生はいつも絵本のホットケーキね。晩ご飯にはならないな。他にはない?」
「にんじんの入ったホットケーキ。」
「それもホットケーキだよ。そうだ。お給料出たから、お外で食べて帰ろうか。」
「ラーメン?琉生くん、好き。」
手をつないで歩く二人は、夕暮れの商店街の寂れたラーメン屋で、一つのラーメンを分け合って食べた。
「琉生ちゃん。久し振りだね。今日はママのお給料日かい?」
色あせた暖簾をくぐると、馴染みの女将が声を掛けて来る。
「おばちゃんっ。こんにちは~。」
「琉生ちゃんにあげたいものがあるから、ちょっと待っててね。」
「……ちくわの天ぷら?」
「定食の残りだけど、コロッケもあるんだよ。いなりずしも。」
「きゃあ。琉生くん、コロッケ好きっ。おいなりさんも好きっ。」
「おばさん、いつもすみません。」
「いいんだよ。どうせ昼定食の残りなんだ。売り物にはならないよ。他にも酢の物や煮しめなんかが色々あるから、持ってお帰り。」
これはちょっと焦げたから、サービスしちゃう、と、いくつも皿に入れてくれる唐揚げに、琉生は目を丸くしている。
母は頭を下げ、人の良いラーメン屋の女将はにこにこと笑いながら、大きな唐揚げにかじりつく琉生を温かい目で見つめていた。
「可愛いねぇ。琉生ちゃんが美味しそうに食べているのを見て居るだけで、おばちゃんはうれしくなるよ。美和ちゃんの旦那は早くに亡くなってしまったけど、琉生ちゃんを残してくれてよかったね。」
「はい。琉生がいるから何とか頑張ろうと思います。」
「でもね、あまり無理をするんじゃないよ。身寄りのない美和ちゃんに何かあったら、琉生ちゃんが一人になっちまうからね」
「はい。わかってます。」
「あのさ、いつか言おうと思っていたんだが、今すぐじゃなくてもいいから思い切って再婚を考えてみないかい?もう1年も経つんだし。」
「再婚ですか……?」
「琉生ちゃんの将来を考えたら、そういう道もあるってことだよ。これから大きくなったら、学費なんぞもたくさんかかるだろう?寂しい思いをさせるよりいいかもしれないと、わたしは思うんだ。」
「そうですね。わたしに何かあったら、琉生は一人になってしまうから……時々考えてしまいます。」
「実はね、美和ちゃんに紹介したい人がいるんだよ。たまに出前を取ってくれるうちなんだ。」
母は、琉生の横顔をちらりと見た。
先のことを考えて、母はふと不安になることもあった。
熱々の唐揚げとコロッケを貰った琉生は、はふはふと声も無いまま頬張っている。
琉生は、かじりついた唐揚げひとつで幸せだった。
琉生だけは、幸せにしてやりたいと母は願う。
数日後、仕事が休みの日に、母は保育園に琉生を送った後、一人でラーメン屋を訪ねた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
琉生とお母さんの二人だけの暮らしは、優しい人に支えられています。
(〃^∇^)o「琉生くん、から揚げ好き~」
*****
ところでね、このちんは最近アニメ『シドニアの騎士』にはまってます。
主題歌も好きで、繰り返し「打ち砕け~♪」と聞いています。
アニメにはまるの久しぶりだなぁ……
漫画は結構好きです。アニメも大好きでしたけど「鬼灯の冷徹」「進撃の巨人」「聖おにいさん」「サンレッド」「呼んでますよ、アザゼルさん」は単行本で読んでます。……あれ、結構あったかも。(〃゚∇゚〃)
BL本は家族の手前、買う勇気がないのです。
置く場所が無くなったので、同人誌も買えなくなっちゃった……(´・ω・`)悲しい……
- 関連記事
-
- 漂泊の青い玻璃 17 (2014/06/11)
- 漂泊の青い玻璃 16 (2014/06/10)
- 漂泊の青い玻璃 15 (2014/06/09)
- 漂泊の青い玻璃 14 (2014/06/08)
- 漂泊の青い玻璃 13 (2014/06/07)
- 漂泊の青い玻璃 12 (2014/06/06)
- 漂泊の青い玻璃 11 (2014/06/05)
- 漂泊の青い玻璃 10 (2014/06/04)
- 漂泊の青い玻璃 9 (2014/06/03)
- 漂泊の青い玻璃 8 (2014/06/02)
- 漂泊の青い玻璃 7 (2014/06/01)
- 漂泊の青い玻璃 6 (2014/05/31)
- 漂泊の青い玻璃 5 (2014/05/30)
- 漂泊の青い玻璃 4 (2014/05/29)
- 漂泊の青い玻璃 3 (2014/05/28)