漂泊の青い玻璃 11
きっと母も父が亡くなった後、あれこれ悩んでいたのだろう。
母に身寄りがないことは、琉生も知っていた。
保育園の敬老会に、琉生には誰も来なかったから。
ある休日、母は琉生に一番いい服を着せて、遊園地に行こうと誘った。
「ゆうえんち……?保育園は、お休みするの?」
「先生には、お母さんが電話したから大丈夫。」
琉生は遊園地に行ったことが無かった。
父は数年前から入退院を繰り返し、琉生の家にはそんな余裕はなかった。
「あのね……。お母さんが前に言ってた人に会って欲しいの。向こうにも息子さんが居るから一緒に行きませんかって、誘っていただいたの。」
「新しいお父さん……?」
「ううん、まだそうと決まったわけじゃないわ。会ってみて、琉生が嫌だったら断ってもいいの。琉生のお父さんは、亡くなったお父さんだものね。でも、家族が増えたら琉生もお母さんも毎日楽しいかなぁって思ったの。」
「お母さん……琉生くんと一緒は楽しくない?」
「琉生がいるから毎日楽しい。でも……今日会うおじさんはね、家事が余りできなくて困っているの。いい人だから、お母さん助けてあげたいなって思ったの。それとね、琉生。今日行く遊園地で、戦隊ショーがあるんだって。」
「きゅうこうじゃー……?」
「そう。日曜日の朝、琉生も好きで見て居るでしょう?きゅうこうじゃー、見たくない?」
「きゃあ~っ!」
琉生は、帽子をかぶって外へ駆けだした。
「お母さん!早くっ、早く~っ!」
保育園の同じクラスの殆どの男の子たちは、新しい戦隊物の運動靴を履いている。
お昼寝の時間になると、いそいそとお揃いの柄のパジャマを取り出して来る子たちを、いいなぁと思ったこともある。
琉生の靴は何の飾りも無い白い運動靴だったし、パジャマも母のスーパーで買って来た季節終わりの見切り品だった。
たまにお友達が悪気もなく、「琉生くんもきゅうこうじゃーのお靴買って貰えばいいのに。」と、話を振って来る。
琉生は返事に困った。
休み明けには、きゅうこうじゃーのショーや映画を見たお友達がいて、周囲には話を聞く子供たちの人だかりができた。
「すっごく、かっこよかったよ~!」
「おれ、後ろの方で見えなかったから、お父さんに肩車してもらったんだ。」
「帰りには並んで握手するんだよ。サインしてくれるんだ!」
「いいなぁ~。おれも父ちゃんに頼もう。」
「前売り券には、フィギュアが付いてくるんだぜ。」
「おれ、持ってる~!」
琉生はいつも遠くで、零れてくる話を聞いた。
正義の味方がどんなふうに怪人を倒したか、変身の方法はどうだったか、戦隊ショーに行けなくてもテレビを見て琉生は知っている。
琉生の想像の中で、ヒーローは手の届かない憧れの存在だった。
新しい父と兄と呼ぶかもしれない人と会うよりも、琉生の胸は憧れのきゅうこうじゃーに会える嬉しさで跳ねていた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
(〃^∇^) 「やった~!きゅうこうじゃーに会える~!」
不憫な琉生くんは幸せになれるでしょうか。
[壁]ω・) だいじょぶ。このちん、ハピエン主義……■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ
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