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漂泊の青い玻璃 56 

合格を知らせようとして、琉生は何度も隼人に電話を掛けた。
何故か、最近いつも隼人は忙しそうで、着信が何件も入っているはずなのに折り返してこない。
やっと電話がつながったのは、翌日だった。

「琉生?電話に出られなくてごめんな。急用だったか?」
「美大通ったんだよ、隼人兄ちゃん。油絵科にぼくの番号あった!先生には大丈夫って言ってもらってたけど、番号見るまではちょっと心配だったんだ。早く知らせたかったから、何度も電話したんだ。忙しいのにしつこくしてごめんね。」
「そうか。良かったな、ちび琉生。これから絵で食えるように、頑張れよ。」
「うん。でもね、絵でご飯食べられるほど、世の中甘くないから、中学校の美術教師の資格も取るつもり。そうしたら、ずっと絵に関わっていられるから。」
「ちゃんと考えているじゃないか。ちび琉生のくせに。」
「少しは、考えるよ。いつまでも、みんなに甘えてばかりじゃいけないって思ってる。目指せ、独り立ちだよ。いつか、二人に恩返しするね。」
「ははっ、期待して待ってるよ。合格は、兄貴にも知らせたんだろう?」
「一番に知らせた。それでね、みんなそれぞれ進路が決まったから、お祝いしようってことになったんだ。隼人兄ちゃんは電話しても、なかなか出てくれないから、どうしようかと思ってた。良かった、今日は出てくれて。」
「悪かったよ。毎日、真剣勝負で、疲れ果ててるんだ。それで、お祝いするのって琉生のおごりなんだろ?」
「割り勘~!」
「冗談だよ。兄貴と二人で奢ってやるから、いっぱい食べろよ。いつまでたってもちび……じゃなかった、やせっぽちなんだから。」
「ありがと。それじゃ、空き時間が出来たら知らせて。バイト始めたから、居酒屋で良い?」
「琉生に逢えるなら、どこだっていいさ。兄貴に連絡入れておくよ。またな。」

時を経ても、琉生を見守る兄達の態度は変わらなかった。
父から逃げるように幾度かの引越しをした後、今は琉生と離れて暮らす尊は、惜しまれながら大学の研究室を離れ、大学と関わりの深い都内の製薬会社に職を得た。
隼人は、J2傘下のサッカー選手になって全国を飛び回っている。
三人揃って滅多に逢うことはできなくなっていたが、気持ちは常に共に居た。

明るい琉生の声に変わりはなく、光に照らされてまっすぐに進む琉生の未来は明るいと、隼人は思った。
離れていても、琉生が誰とどんな人生を送ろうと、隼人は支えていこうと思っていた。尊とそんな話をした事は無いが、きっと兄も同じ気持ちだと思う。
出来れば自分のものにしたかったが、それは今じゃない。

自分の腕の中で泣きぬれた頬の琉生を見て、微かに胸が騒いだ。
あの日、父に剥かれた白い琉生の裸体を目にした隼人は、自分でも驚いたが、確かに欲情していた。

それまで普通に女性と交際しセクスも経験していた隼人は、義弟に抱いた自分の劣情に狼狽し、琉生から離れることにしたのだった。
尊と電話で話をしても、父親のことを理由に、琉生の居場所も聞こうとはしなかった。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

琉生に惹かれる自分に戸惑う隼人は、距離を置いているのです。
琉生……すご~く鈍そう……(´・ω・`)


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