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漂泊の青い玻璃 58 

尊は何でもない風に、隼人が持ったままのジョッキにグラスを合わせ、かちりと鳴らした。

「だから、そういうことなんだよ。」
「……驚いたな。兄貴が一番モラルにうるさそうなのに。」
「道徳や倫理は時代によって変化する。ツタンカーメンの妻も、実の妹だったし、スペインもフランスも強い時代はいつも近親結婚が行われていた。スペイン語のsangre azul(サングレ・アスル)青い血とはそういう意味だ。僕らの血はつながっていないけどね。」
「ややこしいよ。」
「ははっ……だけど琉生にとっては、好きか嫌いかだけの話みたいだぞ。僕とお前、二人が大好きで一人選ぶなんてできないそうだ。二人とも好きなんだとさ。」
「……欲張りだなぁ。」
「そうだろ?同じことを僕も琉生に言ったよ。でも、琉生にとっては、僕ら三人が一緒にいる事が自然なんだと思う。」
「そうか。琉生がそれでいいのなら、それでもいいよ。で、兄貴。話が有るって言ってたけど何?」

尊は真面目な顔で向き直った。

「まだ、琉生には話をしていないが、僕はもう二週間もすれば、しばらく仕事でアメリカにいくんだ。大学の教授が是非にと誘ってくれて、上司の許可も下りた。」
「すごいな。まだ、新入社員なのに、そんな特例が認められたのか?」
「教授の人望だよ。会社の新薬開発に付き合ってくれって言われた。会社から給料をもらいながら、研究室に出向という形になる。研究室を出たのに、気に掛けてくれているんだ。ありがたいと思ってる。」
「それで俺に、琉生を頼むってこと?」
「ああ。何も言って来ないけれど、お父さんは落ち着いているかどうかも分からないだろう?もしかすると、虎視眈々と時期を狙っているのかもしれない……これは、話を聞いてもらって居る看護師さんの受け売りなんだけど、時間が同じように流れているとは限らないそうなんだ。考え過ぎかもしれないけど、時々誰かに後をつけられていると感じる事もある。」
「琉生に言った?」
「いや、言わない。まだ、事実かどうかわからないからな。」
「じゃあ、兄貴が先に出て俺が……」

二人は次第に声を潜めた。

「あ~、二人で内緒話してる~。」
「手伝いはもういいのか?」
「うん。店長が無理言って悪かったねって、これ差し入れだって。」
「じゃあ、今日は琉生が主役だから、奥の席な。まだ、未成年だからジンジャーエールでいいか?それとも、何か他の物にする?」
「ジンジャーエールがいい。」

席のボタンを押すと、すぐに店員が注文を取りに来る。いくつかの皿と、追加の飲み物を頼んだ。

「で、ぼくのいないところで、何の話していたの?」
「まだ琉生には話さない方が良いぞ、兄貴。」
「なんで~!?久しぶりに会ったのに、隼人兄ちゃんがいつも通り意地悪だ。」
「席を外すと、悪口を言われるのは常識だろ?」
「もう、どこにも行かないからね!」

隼人は楽しそうに変わらない笑顔を向けた。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)

遅くなってすまぬ~(´・ω・`)
とうとうストックが付きました。お話は終盤に向かっています。
着地点に向かって、がんばります。(`・ω・´)←墓穴


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