漂泊の青い玻璃 60
硬直した琉生を、隼人はからかった。
「琉生は、まだお子様だもんな。心配するな、今まで待ったんだ。無理強いしたりしないよ。」
「ぼく……隼人兄ちゃんの知らないところで、尊兄ちゃんとキスしたよ。」
今度は隼人が呆然とする番だった。
「……は~?キスした?兄貴と?」
「いけなかった?最初に引越ししたときだよ。ぼくが寂しくてたまらない時、尊兄ちゃんがキスしてくれたんだ。独りじゃないぞって……ぼく、嬉しかった。」
「嬉しかった?……兄貴……俺のこれまでの辛抱はなんだったんだろうな。」
「隼人。若さゆえの過ちというのは、誰にでもある。その昔、赤い彗星のシャアと言われた男ですら……」
「抜け駆けしやがって……一発、殴っていい?」
尊は慌てて、その場の伝票を取り上げた。
「さあ、そろそろ出ようか。ここの支払いは僕がもとう。」
「当たり前だ。安いくらいだ。」
「隼人兄ちゃん。なんで、怒ってるの?」
「どうしてだろうな?酔ったせいじゃないか?」
罪悪感の欠片も無い琉生を促して、三人は店を出た。
「寺川君!明日のシフトは大丈夫?」
「はい!なるべく早めに入ります。」
「良かった。頼むね。」
帰りがけに声を掛けて来た居酒屋の店長に向けて、琉生は満面の笑顔を向けた。
二人の兄は、琉生を背中にする形でこの上なく慇懃に対応した。
「上の兄です。琉生はお役にたっていますか?」
「あ、はい。とてもよくやってくれています。寺川君目当ての客も増えて……」
「琉生はホストじゃないぞ。くそったれ。」
隼人の小さな声は聞き取れなかったが、鋭い視線は威嚇するには十分だった。
「不慣れなことも多いと思いますが、弟をよろしくお願いします。不器用な性質ですが、色々教えてやってください。」
「あ……こちらこそ、お世話になっています。じゃ、寺川君、また明日ね。」
「はい。」
隼人の眼光に気圧された店長は、即座に奥に引っ込んだ。
「あ~、何かあいつ、気に入らねぇ。琉生を狙っている気がする。眼つきがスケベそうだし。」
「それより僕は、女性客が気に入らない。慎み無くべたべたとすり寄って来るのは、不愉快だ。誰にでも節操無く愛想良くするんじゃないぞ、琉生。」
「……お客さまには、親切に。嫌なことが有っても笑顔で対応するのは、接客業の基本だよ……?二人とも変なの。あの居酒屋の味、嫌いだった?ぼく……喜んでもらいたかったのに、好きじゃなかったのなら、ごめんね……」
琉生は自分がバイトする店の料理が、二人の兄の口に合わなくて文句を言っていると思ったらしい。口数少なく家路に向かう琉生の背後で、兄達はささやき合った。
「隼人が大人げなく、店長を睨みつけたりするから。」
「兄貴の方こそ、厭味たらしかったぞ。見ろよ、すねちゃったじゃないか。」
月の光で長く伸びた琉生の影が止まった。
「三人一緒は久しぶりだね。」
「そうだな。帰ろうか。」
伸ばした腕に琉生が飛んでくる。
「誰も見ていないから、手をつなご?」
「さすがに、ブランコはしてやれないぞ。」
「つなぐだけだよ。」
琉生を真ん中にして、三人は手をつないだ。
長く伸びた影が一つになる。
春の香を含んだ甘い風が、そよいだ。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
何だか「はんぶんこ」は明日になってしまいました。(*ノ▽ノ)キャ~、どきどき♡
最後の嵐の前に、琉生はお兄ちゃん達と三角の夜を過ごすのです。[壁]ω・)「おお~……」←みたいな。
ほんとに「おお~!Σ( ̄口 ̄*)」となれば良いのですが、何しろこのちんヘタレだからなぁ……|)≡逃亡するかも~!!
「琉生は、まだお子様だもんな。心配するな、今まで待ったんだ。無理強いしたりしないよ。」
「ぼく……隼人兄ちゃんの知らないところで、尊兄ちゃんとキスしたよ。」
今度は隼人が呆然とする番だった。
「……は~?キスした?兄貴と?」
「いけなかった?最初に引越ししたときだよ。ぼくが寂しくてたまらない時、尊兄ちゃんがキスしてくれたんだ。独りじゃないぞって……ぼく、嬉しかった。」
「嬉しかった?……兄貴……俺のこれまでの辛抱はなんだったんだろうな。」
「隼人。若さゆえの過ちというのは、誰にでもある。その昔、赤い彗星のシャアと言われた男ですら……」
「抜け駆けしやがって……一発、殴っていい?」
尊は慌てて、その場の伝票を取り上げた。
「さあ、そろそろ出ようか。ここの支払いは僕がもとう。」
「当たり前だ。安いくらいだ。」
「隼人兄ちゃん。なんで、怒ってるの?」
「どうしてだろうな?酔ったせいじゃないか?」
罪悪感の欠片も無い琉生を促して、三人は店を出た。
「寺川君!明日のシフトは大丈夫?」
「はい!なるべく早めに入ります。」
「良かった。頼むね。」
帰りがけに声を掛けて来た居酒屋の店長に向けて、琉生は満面の笑顔を向けた。
二人の兄は、琉生を背中にする形でこの上なく慇懃に対応した。
「上の兄です。琉生はお役にたっていますか?」
「あ、はい。とてもよくやってくれています。寺川君目当ての客も増えて……」
「琉生はホストじゃないぞ。くそったれ。」
隼人の小さな声は聞き取れなかったが、鋭い視線は威嚇するには十分だった。
「不慣れなことも多いと思いますが、弟をよろしくお願いします。不器用な性質ですが、色々教えてやってください。」
「あ……こちらこそ、お世話になっています。じゃ、寺川君、また明日ね。」
「はい。」
隼人の眼光に気圧された店長は、即座に奥に引っ込んだ。
「あ~、何かあいつ、気に入らねぇ。琉生を狙っている気がする。眼つきがスケベそうだし。」
「それより僕は、女性客が気に入らない。慎み無くべたべたとすり寄って来るのは、不愉快だ。誰にでも節操無く愛想良くするんじゃないぞ、琉生。」
「……お客さまには、親切に。嫌なことが有っても笑顔で対応するのは、接客業の基本だよ……?二人とも変なの。あの居酒屋の味、嫌いだった?ぼく……喜んでもらいたかったのに、好きじゃなかったのなら、ごめんね……」
琉生は自分がバイトする店の料理が、二人の兄の口に合わなくて文句を言っていると思ったらしい。口数少なく家路に向かう琉生の背後で、兄達はささやき合った。
「隼人が大人げなく、店長を睨みつけたりするから。」
「兄貴の方こそ、厭味たらしかったぞ。見ろよ、すねちゃったじゃないか。」
月の光で長く伸びた琉生の影が止まった。
「三人一緒は久しぶりだね。」
「そうだな。帰ろうか。」
伸ばした腕に琉生が飛んでくる。
「誰も見ていないから、手をつなご?」
「さすがに、ブランコはしてやれないぞ。」
「つなぐだけだよ。」
琉生を真ん中にして、三人は手をつないだ。
長く伸びた影が一つになる。
春の香を含んだ甘い風が、そよいだ。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
何だか「はんぶんこ」は明日になってしまいました。(*ノ▽ノ)キャ~、どきどき♡
最後の嵐の前に、琉生はお兄ちゃん達と三角の夜を過ごすのです。[壁]ω・)「おお~……」←みたいな。
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