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小説・約束・15 

祖父は、目を細めた。

「上の学校に行く気なら、本気で勉強するんだな。」

「おまえの父親と同じ帝大なら、教授の知り合いも多いだろう。」

父親の優秀なのは知っていたが、さすがに真面目に勉強していないので帝大に行きますとは言えなかった。
良平は、ふと思いついて続木男爵という人を知っているかと聞いてみた。

「そうだ、お爺様。この辺りには続木男爵という分限者がいるんですか?」

言ってしまった後で、思わず良平は言わなければよかったと、後悔した。
祖父の表情から、笑みが消えていた。

「誰に、その名を聞いた?」

大柄なだけに、その威圧感は大したもので、良平は気おされていた。

「誰に・・・って、あの佐藤と続木は、どっちがお金持ちかなって話を友達がしてただけで。」

「で、お爺様。どっちがお金持ちなんです?」

破顔一笑。
意外なほど、祖父は笑った。

「さあなあ。北向きの西町までは佐藤の土地で、南の朝山町までは続木のものだな。とりあえず、おまえが何になろうと、学費の心配だけは要らぬということだ。」

小さく頭を下げて、部屋を出て行こうとする良平に追い討ちが来た。

「元気なのは結構だが、いたずらも、ほどほどにな。」

・・・・ばれてた・・・。

「それとな、良平。もう1つ。続木の者とは関わるな。」

「え?何で?」

「大きな声では言えないがな、向こうは平家でこちらは源氏の末裔だ。」

・・・きっと、冗談だと思う。
本当に敵同士でも余りに、はなしが古すぎる。
せめて、明治政府の頃に幕軍と、官軍だったといってくれれば信用したかもしれないのに・・・

「そうします。」

緊張した頬に、夕暮れの風が心地よかった。

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