2ntブログ

小説・約束・19 

「あっ・・・!」

二人同時に、驚きの声を上げた。

「うわぁあああぁ・・・」

良平は、後ずさって一目散に逃げようとしたが、扉が内側に倒れこんでしまって室内に転がりこんでしまった。

「待って。」

「待って。行かないで。」

「殺さないで・・・待って。」

良平に覆いかぶさるようにして、力なく両足を押さえ、行かせまいとする。
・・・見上げたその瞳は、青かった。

「は、放せっ!」

思わず、手荒に払いのけてしまい、相手は勢いよく床に転がった。

「何で、こんな所に・・・捕虜なのか、おまえ。」

動転して、自分でもわけのわからないことを言っていると思った。
よくよく考えれば、勝手によその家に上がりこんでいるのは自分の方だ。

「違う、わたしは・・・」

言いかけて、激しく咳き込んだ。
両の手で口を覆い、背中を丸めて引きつるような長い咳をする。

「病気・・・なのか?」

思わず、背中をさすってやった良平は、その背中の弾力のない薄さに驚いた。
背骨の節が、手に当たった・・・
自分でも不思議だったが、自然と咳き込む背中に手を添えた。
父が誰にでも分け隔てなく接するのを見て育ったから、いつの間にか身についていたのかもしれなかった。
ひとしきり咳き込んだ後、大きく肩で息をしていた。
落ち着いたようだった。

「おまえ、胸の病気だろう・・・?」

「・・・わ・・から・・・ない・・・」

話すのもやっとのていで、呻くように返事が返ってきた。

「・・あ・・りが・・う・・・楽に、なった・・・」

関連記事

0 Comments

Leave a comment