里の野山に此花咲くや

相良をちらりと見た後、黙って椅子を引き寄せた荒木は、銀の匙を取り上げると七色の層になったゼリーを口にした。
たった一口で、爽やかな清涼感が口いっぱいに広がる。
思わず向き直り、荒木は聞いた。

「これ……シャンパン？」
「いえ……サイダーです。カフェはお酒を出さないって言ってたから。シャンパンでもできますから、夜の営業ができるようになったら出せます。」
「なるほどね。」

二人の顔を交互に見ていた松本は、荒木の言葉を待っている。
新しい店には無くてはならない二人だった。

「松本さん。そういや店の名前は決まったんすか？」
「なんだよ。そんなことは後にして、直に美味いかどうか言ってやれよ。」

荒木は返事もしないで、次のケーキを掬っている。

「こっちは、ムースなんだね。この鱗みたいなイチゴ、どうやって作ったんだ？」
「ボールにイチゴの薄切りを張り付けてから、ムースを流し容れました。底のカステラ生地はボールの大きさにカットしてタルトに乗せてあります。固まったら……」
「ああ、ゼリーを流して仕上げたのか。それで切っても崩れないんだな。なるほどね。」
「はい。カステラ生地の残りはティラミスや、他のケーキに使えますから無駄は出ません。」
「荒木！」

松本は、たまらず口を挟んだ。

「松本さんには、店の名前はって聞いてるじゃないっすか。」
「ああっ、もう。ちょっと待ってろ。……ったく、何だってんだよ。わけわかんねぇ。」

苛々とした松本が事務所に入り、紙に大きく書いたものを荒木に見せた。印刷会社が、いくつかロゴにして看板用にと持ってきたものだ。
フランス語の辞書を片っ端からめくって、いくつもの単語を抜出した松本が、命名に頭を抱えていたのを荒木は知っている。

「これが店の名前だ。」
「何て読むんですか？」
「……avec_toi（アヴェク・トワ）……ってんだ。」
「余り聞いたことないっすね。意味は？」
「うっ、うるせぇ。意味なんてねぇ。こういうのは感覚で決めるもんなんだよっ。」
「は～っ？」

荒木はとうとう笑い出してしまった。

「松本さん～。いい加減に見えても、松本さんが仕事に手を抜かないことくらい俺、知ってますよ。いつから付き合ってると思ってんすか。意味を教えてくださいって。」
「くそぉ……」

熟れた苺並に、首筋まで赤くなった松本の目が泳ぐ。
相良も緊張して、言葉を待っていた。
自分の作るものは、厨房の責任者となる荒木の眼鏡にかなったのだろうか。

「ああーーーーーっっ、もうっ！！！言いたくなかったのに！『君と共に』って意味だよっ！」

荒木はくすりと笑った。
とんでもなくロマンチックな店の名の意味を知っていた。

「やっぱりロマンチストっすね、松本さん。俺、良い名前だと思います。」
「ふんっ。当たりめぇだ。俺が考えたんだからな。」
「いいっすか？俺も、相良くんに言う言葉決めたんで。」
「……ああ。」
「相良くん、こっち来て。ほら、松本さんも。」
「ああ。」

松本は荒木のアイコンタクトの意味を理解した。
促されて近寄ると、強張った表情の相良に二人で手を差し伸ばした。

「直。」
「相良くん。」

『Café　　アヴェク・トワへようこそ。』　

---

【おまけ】


(´；ω；｀) ぶわっ……

Σ(￣口￣＊)　「さ、相良くん……？」
ヾ(｡｀Д´｡)ﾉ　「こら、荒木。てめぇがとっとと返事しねぇから、直が泣いちまったじゃね～か！」

(｡´･ω`)ﾉ(つд･`｡)･ﾟ「よし、よし。泣くな、直。」「違うんです……認めてもらって嬉しくて……」
(/・ω・)/「あら……そなの？」
( ｀―´)　「そら、見ろ。」

(〃ﾟ∇ﾟ〃) 「荒木さん。おれ、うれしいです。よろしくお願いします。」
( ｀ー´)ノ「おう。こっちこそ、よろしくな。」

Σ(￣口￣*)　「な、なついてる……直……」
(〃ﾟ∇ﾟ〃) 　「これも、みんな店長のおかげです。ありがとうございます。」
(*つ▽`)っ)))　「何言ってんだよ。俺のおかげだよ。」
ヾ(o´∀｀o)ﾉ　「はい！」
（｀・ω・´）「君と共に。」きりっ。
(〃ﾟ∇ﾟ〃) 「店長～、大好き♡」

( ﾟДﾟ)　「俺、こいつらと仕事すんの……？やだわ～」

---

本日もお読みいただきありがとうございます。
何とか着地できました。(〃ﾟ∇ﾟ〃)

時代物から、いきなり現代もので、お読みくださる方のほうが面喰ってしまったのではないかと思います。
う～んと甘いお話にするはずでしたが、やっぱりちょっと直くんをかわいそうな目に遭わせてしまいました。
直くん、ごめんね。(´・ω・`)
(´；ω；｀)「だいじょぶ～」
これから先は、きっとらぶらぶなバカップルになると思います。
続編を書く予定ですので、よろしくお願いします。　　此花咲耶