Café アヴェク・トワへようこそ 9
松本は黒崎に近づくと顔を覗き込み、一般論を口にした。
「わかるはずがない?……あいにくだな。わかるんだよ。例えば……裏ルートから出稼ぎにやって来た奴がいるとするだろう?……世間に疎いのをいいことに、パスポートを奪ってタコ部屋に囲い込み、家賃だと言って給料の殆どを巻き上げる。金のほとんどを奪っておきながら、家賃不足だ、生活費不足だと言って、強姦まがいに夜ごと自分の性欲処理をさせる。もちろん無料奉仕だ。不法滞在を黙っていてほしければ文句を言うなと脅す。逃げる気をなくすように、へとへとになるまで昼夜なくこき使う。それでも、まだ逃げ出そうとするやつは、相手の心が萎えるまで徹底的に叩きのめす。暴力で支配して君臨するんだ。」
「ヤクザめ……」
「人聞きの悪い事を、抜かすんじゃねぇよ。どうだ?直も同じ目に遭わせたのか?」
黒崎の言葉の中から弾き出した松本の当て推量は、どうやら的を得ていたようだ。
顔色を変えた黒崎が、後ずさりしながら捨て台詞を吐いた。
「俺から逃げて、次はやくざの囲い者になるというのか。手間をかけて俺が仕込んでやったのに。相良、お前も相当の好き者……。」
ブチ……
松本の中で、何かが切れる音がした。
自分でもまずいと思ったが、相良を傷つけた黒崎が許せなかった。
相手が全部言い終わらないうちに、松本は黒豹のように黒崎に襲い掛かり締め上げていた。
「舐めるのも大概にしろよっ!直を、食い物にしやがって!」
「……ぐっ……!」
「店長っ!」
全力で振り上げた拳が、受け止められて松本は正気に返った。
「直っ!?」
その場に頬を抑えた相良が倒れこんでいた。
まともに松本の一発を食らっていた。
「すまんっ、直っ。大丈夫か。」
「……店長がいないと、困るから……こんな奴を殴って、店長がいなくなったら、おれ……辛いです。やっと見つけたおれの居場所なのに……無くすのは……いやです。」
ばかばかしいと言い捨てて、悪役の黒崎が消えてゆくのを見送るものはない。
正直、追いかけて半殺しにしてやりたかったが、そうすると腕の中の相良を失いそうでできなかった。
恋に落ちた男は、好きな相手に恰好いいところだけを見せたいのだ。
「直。すまん。すぐに冷やすから。」
「大丈夫です……」
「黙っていて悪かったな。あいつが言うように、俺は一応木庭組ってところにいるんだ。」
「それは、店長が893ってことですか?」
「そういうことになるな。誰に恥じることもないから、調べてもらっても構わない。昔っから男気のある組で有名で、その筋の者なら大抵は名前を知っているはずだ。893と言っても、木庭組は俗にいう経済893で正業で食っているから、誰に恥じることもない。だが、俺もたまには、シマの見回りにはいくし、カタギの揉め事に手を貸して暴力沙汰になることもある。だから……もし直が怖いから嫌だと言うのなら、無理しなくていいんだぞ。」
相良は、松本の腕を取り、すり……と顔を寄せた。
「おれ、黒崎よりも店長のほうがいいです。店長の事好きです。守ってくれて……ありがとうございます。」
「俺は……直の傍にいてもいいのか?怖かねぇか?」
「……はい。店長は優しいですから。」
相良の瞳にあった暗い怯えが消えていた。
すらりとした肢体の、松本の好きな小さな顔が、やっと苦渋から解き放たれてふわりと微笑んだ。
「直。」
リンゴ~ン……脳内で鳴り響く祝福の鐘に後押しされて、松本は相良に触れた。
ハレルヤ。
本日もお読みいただきありがとうございます。
(`・ω・´)「おまえのやってることは、893以下なんだよっ!蜥蜴野郎っ。」
Σ( ̄口 ̄*) 「う……893に893以下って言われた。」
ヾ(。`Д´。)ノ「やかましいっ。今度直を苛めたらぶっ殺す。」
「わかるはずがない?……あいにくだな。わかるんだよ。例えば……裏ルートから出稼ぎにやって来た奴がいるとするだろう?……世間に疎いのをいいことに、パスポートを奪ってタコ部屋に囲い込み、家賃だと言って給料の殆どを巻き上げる。金のほとんどを奪っておきながら、家賃不足だ、生活費不足だと言って、強姦まがいに夜ごと自分の性欲処理をさせる。もちろん無料奉仕だ。不法滞在を黙っていてほしければ文句を言うなと脅す。逃げる気をなくすように、へとへとになるまで昼夜なくこき使う。それでも、まだ逃げ出そうとするやつは、相手の心が萎えるまで徹底的に叩きのめす。暴力で支配して君臨するんだ。」
「ヤクザめ……」
「人聞きの悪い事を、抜かすんじゃねぇよ。どうだ?直も同じ目に遭わせたのか?」
黒崎の言葉の中から弾き出した松本の当て推量は、どうやら的を得ていたようだ。
顔色を変えた黒崎が、後ずさりしながら捨て台詞を吐いた。
「俺から逃げて、次はやくざの囲い者になるというのか。手間をかけて俺が仕込んでやったのに。相良、お前も相当の好き者……。」
ブチ……
松本の中で、何かが切れる音がした。
自分でもまずいと思ったが、相良を傷つけた黒崎が許せなかった。
相手が全部言い終わらないうちに、松本は黒豹のように黒崎に襲い掛かり締め上げていた。
「舐めるのも大概にしろよっ!直を、食い物にしやがって!」
「……ぐっ……!」
「店長っ!」
全力で振り上げた拳が、受け止められて松本は正気に返った。
「直っ!?」
その場に頬を抑えた相良が倒れこんでいた。
まともに松本の一発を食らっていた。
「すまんっ、直っ。大丈夫か。」
「……店長がいないと、困るから……こんな奴を殴って、店長がいなくなったら、おれ……辛いです。やっと見つけたおれの居場所なのに……無くすのは……いやです。」
ばかばかしいと言い捨てて、悪役の黒崎が消えてゆくのを見送るものはない。
正直、追いかけて半殺しにしてやりたかったが、そうすると腕の中の相良を失いそうでできなかった。
恋に落ちた男は、好きな相手に恰好いいところだけを見せたいのだ。
「直。すまん。すぐに冷やすから。」
「大丈夫です……」
「黙っていて悪かったな。あいつが言うように、俺は一応木庭組ってところにいるんだ。」
「それは、店長が893ってことですか?」
「そういうことになるな。誰に恥じることもないから、調べてもらっても構わない。昔っから男気のある組で有名で、その筋の者なら大抵は名前を知っているはずだ。893と言っても、木庭組は俗にいう経済893で正業で食っているから、誰に恥じることもない。だが、俺もたまには、シマの見回りにはいくし、カタギの揉め事に手を貸して暴力沙汰になることもある。だから……もし直が怖いから嫌だと言うのなら、無理しなくていいんだぞ。」
相良は、松本の腕を取り、すり……と顔を寄せた。
「おれ、黒崎よりも店長のほうがいいです。店長の事好きです。守ってくれて……ありがとうございます。」
「俺は……直の傍にいてもいいのか?怖かねぇか?」
「……はい。店長は優しいですから。」
相良の瞳にあった暗い怯えが消えていた。
すらりとした肢体の、松本の好きな小さな顔が、やっと苦渋から解き放たれてふわりと微笑んだ。
「直。」
リンゴ~ン……脳内で鳴り響く祝福の鐘に後押しされて、松本は相良に触れた。
ハレルヤ。
本日もお読みいただきありがとうございます。
(`・ω・´)「おまえのやってることは、893以下なんだよっ!蜥蜴野郎っ。」
Σ( ̄口 ̄*) 「う……893に893以下って言われた。」
ヾ(。`Д´。)ノ「やかましいっ。今度直を苛めたらぶっ殺す。」
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