Café アヴェク・トワへようこそ 6
相良が帰宅したのち、松本はフランス語の辞書を眺めていた。
そろそろ店名も決めなければならない。
候補名はいくつもあった。
「よう。」
ノックと共に顔を出したのは、兄分の木本だった。
「あ、兄貴。お疲れ様っす。」
「どうだ、調子は?」
「順調です。何とかスタッフも確保できましたし、荒木が帰ってきたらメニューをつめるつもりです。名前も、いくつか候補を絞りました。」
「そうか。おれの手がなくても十分やっていけてるじゃないか。」
「これまで兄貴が、いろいろ教えてくれたからっすよ。おれ、馬鹿だけど兄貴の言うことだけは頭に入ってるんで、思い出しながらやってます。あ、そうだ。小腹空きません?」
「そういや、そうだな。」
松本は思い出して、相良の作った賄い用のスイーツの残りを出してきた。
「今、コーヒー淹れます。甘いものは好きじゃないでしょうけど、これ食べてみてください。荒木と厨房に入る相良ってやつが、作ったんです。」
「賄いにしちゃ、ずいぶん手が込んでるな。」
「そうでしょう?しかも美味いんです。」
まるで自分が作ったかのように、松本は相良の自慢をした。
相良の作ったカップケーキは土台がシフォンケーキで、甘さ控えめになっている。
一方は珈琲風味、もう一方はオレンジジュースとリキュールを効かせてあって、どちらもほろ苦い口当たりが爽やかだった。
生クリームで作った薄紫の薔薇の花に、生のミントとチョコレートの小さなプレートが添えられていた。
「へぇ。中に入っている粒々もオレンジなのか?」
「何でもオレンジピールとかいうやつを、直が家で作り置きしてあったのを持ち込んだんです。口当たりが軽いんで、いくらでも食べられそうでしょ?」
「……ねんねが好きそうだな。余分があるなら、包んでくれるか?」
「はい。周二さんの分も。」
松本はケーキを二つ、器用に専用の箱に入れた。
「あ、兄貴。ちょっと聞きたかったんすけど、トゥ……何とかブルってカフェ知ってます?」
「トゥジュール・アンサンブル……か?聞いたことあるな。オーナーが黒崎ってんなら、うちの店の常連だ。顔を見ればお前も知っているはずだがな。カフェなんぞ優雅に経営しているが、中身は初物好きのどSの変態だ。狙った獲物は逃したことないって、吹いていたのを聞いたことがある。……営業妨害でもしてきたのか?だったらいくらでも打つ手はあるぞ。」
木本の目が鋭くなり、一瞬光った。背筋がぞくりと泡立つ。
射すくめられたらもう逃れようのない、松本の好きな肉食獣の目だった。
「いえ。これを作った相良が前にいた店なんです。ちょいと訳ありみたいだったんで、気になったんすよ。」
「そうか。まぁ、何かあったら言って来い。」
「ありがとうございました。しばらく帰れそうにないんで、ねんねと周二さんによろしく言ってください。」
「おう。ねんねが松本さんに会えないのって寂しがっていたから、プレオープンが決まったら言ってやれよ。店名とオープンの日付さえ決まったら広告は印刷出来るようにしておく。料理の写真撮りは、荒木が帰ってからだな?」
「はい。相良も色々出来るみたいなんで、甘いものも幾つか入れるつもりです。」
木本を送った後、どうしても相良の事が気になった松本は思い切って電話を取り上げた。
もしも木本の言葉通りなら、相良と前の店のオーナーとの間に、何かがあったはずだ。
家に帰ってから思い出して、泣いたりしていないだろうか。
人前で涙を流すからには、余程のことがあったに違いない。
プライベートにまで口を出す気はなかったが、もの言いたげな悲しげな瞳が気になっていた。
「もしもし、直……か?」
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
直の事が気になって仕方がない松本です。
(`・ω・´)「だから、俺は店長として……」
(*つ▽`)っ)))「惚れちゃったのね~?」
ヾ(。`Д´。)ノ「やかましいわ~」
そろそろ店名も決めなければならない。
候補名はいくつもあった。
「よう。」
ノックと共に顔を出したのは、兄分の木本だった。
「あ、兄貴。お疲れ様っす。」
「どうだ、調子は?」
「順調です。何とかスタッフも確保できましたし、荒木が帰ってきたらメニューをつめるつもりです。名前も、いくつか候補を絞りました。」
「そうか。おれの手がなくても十分やっていけてるじゃないか。」
「これまで兄貴が、いろいろ教えてくれたからっすよ。おれ、馬鹿だけど兄貴の言うことだけは頭に入ってるんで、思い出しながらやってます。あ、そうだ。小腹空きません?」
「そういや、そうだな。」
松本は思い出して、相良の作った賄い用のスイーツの残りを出してきた。
「今、コーヒー淹れます。甘いものは好きじゃないでしょうけど、これ食べてみてください。荒木と厨房に入る相良ってやつが、作ったんです。」
「賄いにしちゃ、ずいぶん手が込んでるな。」
「そうでしょう?しかも美味いんです。」
まるで自分が作ったかのように、松本は相良の自慢をした。
相良の作ったカップケーキは土台がシフォンケーキで、甘さ控えめになっている。
一方は珈琲風味、もう一方はオレンジジュースとリキュールを効かせてあって、どちらもほろ苦い口当たりが爽やかだった。
生クリームで作った薄紫の薔薇の花に、生のミントとチョコレートの小さなプレートが添えられていた。
「へぇ。中に入っている粒々もオレンジなのか?」
「何でもオレンジピールとかいうやつを、直が家で作り置きしてあったのを持ち込んだんです。口当たりが軽いんで、いくらでも食べられそうでしょ?」
「……ねんねが好きそうだな。余分があるなら、包んでくれるか?」
「はい。周二さんの分も。」
松本はケーキを二つ、器用に専用の箱に入れた。
「あ、兄貴。ちょっと聞きたかったんすけど、トゥ……何とかブルってカフェ知ってます?」
「トゥジュール・アンサンブル……か?聞いたことあるな。オーナーが黒崎ってんなら、うちの店の常連だ。顔を見ればお前も知っているはずだがな。カフェなんぞ優雅に経営しているが、中身は初物好きのどSの変態だ。狙った獲物は逃したことないって、吹いていたのを聞いたことがある。……営業妨害でもしてきたのか?だったらいくらでも打つ手はあるぞ。」
木本の目が鋭くなり、一瞬光った。背筋がぞくりと泡立つ。
射すくめられたらもう逃れようのない、松本の好きな肉食獣の目だった。
「いえ。これを作った相良が前にいた店なんです。ちょいと訳ありみたいだったんで、気になったんすよ。」
「そうか。まぁ、何かあったら言って来い。」
「ありがとうございました。しばらく帰れそうにないんで、ねんねと周二さんによろしく言ってください。」
「おう。ねんねが松本さんに会えないのって寂しがっていたから、プレオープンが決まったら言ってやれよ。店名とオープンの日付さえ決まったら広告は印刷出来るようにしておく。料理の写真撮りは、荒木が帰ってからだな?」
「はい。相良も色々出来るみたいなんで、甘いものも幾つか入れるつもりです。」
木本を送った後、どうしても相良の事が気になった松本は思い切って電話を取り上げた。
もしも木本の言葉通りなら、相良と前の店のオーナーとの間に、何かがあったはずだ。
家に帰ってから思い出して、泣いたりしていないだろうか。
人前で涙を流すからには、余程のことがあったに違いない。
プライベートにまで口を出す気はなかったが、もの言いたげな悲しげな瞳が気になっていた。
「もしもし、直……か?」
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
直の事が気になって仕方がない松本です。
(`・ω・´)「だから、俺は店長として……」
(*つ▽`)っ)))「惚れちゃったのね~?」
ヾ(。`Д´。)ノ「やかましいわ~」
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