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Café  アヴェク・トワへようこそ 4 

一方で相良は、自分の駄目っぷりに落ち込んでいた。
頭の中では、いつまでもこんな風ではだめだと分かっているが、誰かに背後から手を伸ばされると、全身が総毛立つ。
松本が睨んだ通り、相良はある理由から人が苦手だった。
笑い合って、賄いを食べる仲間に、打ち明けることもできない相良の傷は、いつまでたってもじくじくと癒えなかった。

パティシエになりたくて、心機一転、新しい店でやり直そうと思っていたのに、中々過去を振り切れない。
皿を洗っていても、背後に気配を感じると、身構えてしまっていた。
その度に、いろいろなものが破損し、荒木が眉をひそめるのも分かっていた。このままだと、せっかくの仕事も無くしそうだ。

「直。ちょっといいか?」
「はい……」

もう明日から来なくていいと言われると思い、身を固くした。

「あのな。荒木がいない間、みんなの賄いを頼んでもいいかな?厨房は荒木と二人で回して貰う予定だったんだが、あいつはしばらく留守にするんだ。」
「あ、はい。出来ます。」
「時給は出すからな。そういや、直が前に働いてた店の名前って、なんだっけ?」
「……えっ……?」
「履歴書に書いてあったけど、おれには読めなかった。英語か?」
「あ……フランス語です。オーナーがフランス帰りだったので……toujours_ensembleトゥジュール・アンサンブルという名前です。」
「トゥ……ラブルか。トラブルな。」
「いえ、あの店長……それは、いざこざとか、もめごとっていう意味じゃあ……」
「ぅげっ!」

素っ頓狂な声を出したのは、バイトの沙耶だった。

「何?相良くん、あの店にいたの?」
「……うん。」
「うっそぉ。あの店のオーナー、ひどいって噂だよ。ねぇ?みんな、知ってるよね。」
「有名だもん。あたしの友達も、バイトしたことあるけどセクハラされたって言ってたよ。」「相良くん、男の子だけど可愛いし、危なかったんじゃないの?あ~!わかった。それでやめたんだ?」
「あ……あの……」
「そう言えばさ、あの店のオーナーが、スイーツの本出してたじゃん。あそこで食べられるスイーツが載ってて、あれは評判良かったんだよね~。」
「あ~、あたしも食べたことある。オーナーはエロ親父だけど、スイーツには罪はないもんね。相良くんは、厨房だったの?」
「えっと……時々ね。」

困ってしまった相良に、松本は助け舟を出した。

「沙耶も由美も余計な詮索をしてねぇで、飯食ったら遅くならねぇうちに帰れよ。」
「わ~、店長。あたし達の名前、もう憶えてくれたんですか?」
「面接した時、聞いたんだから当たり前だろ?大事なスタッフの名前だからな。」
「店長、すごぉ~い!」
「そうなのか?俺は兄貴に、会った人の名前と顔は一発で覚えろって言われてきたぞ。一期一会は商売の基本だからな。それだけで、二度目に会ったときに会話の糸口ができるだろう?」
「そっかぁ。あたしも見習って頑張ろう。」
「明日は届いた食器の片づけが待ってるからな。梱包解くの大変だぞ。頑張ってくれよ。」
「はい。」
「ああ、それと遅くなったら一人で帰るなよ。連れがいなかったら、必ず俺に言え。危ないから、送っていく。」
「きゃあ~、店長って優しい。」
「へ?」

普通にしているだけなのに、優しいと言われた松本は面食らった。

「ん~?……スタッフの女の子と、キャバ嬢と同じ扱いっておかしいのかな。……帰ったら、兄貴に聞いてみるか。」

女の子に聞こえないのが幸いだった。




本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
相良直くんが前に勤めていたお店のオーナーは、エロ親父だった模様です。
どんな過去があったのでしょうか。(´・ω・`)

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