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小説・約束・21 

目をきつく閉じたら、日本人形のようだ。
だが、目を開けたら顔だけは日米開戦前に、パスポートを持ちはるばる船に乗ってやってきた、青い瞳の人形だった。
各地の小中学校に寄付され、野口雨情の作詞で歌にもなった、青い目の人形は今はその存在をなかったことのように隠されていた。
敵国のスパイ人形として竹槍で突かれたり、炎に投げ込まれたりして、セルロイドの人形は溶けたのだ。
平和を愛する人の手によって、秘密裡に隠されていた場所から姿を現すのは、これから何十年も向こうの話だった。

「又、来る。」

閉じた目を驚いたように瞠って、青い眼の人形はじっと良平を見つめた。

「ぼくは、佐藤良平というんだ。東京から疎開してきたおまえの年は、いくつ?」

「・・・1930年生まれ。」

良平よりも3つ上だが、小柄でもっと幼く見えた。

「おまえの名は?」

一瞬ためらった後、口にしたその名は。

「続木凛斗・・・」

日本名だった・・・・


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