caféアヴェク・トワの住人たち 6
どこか嬉しそうな木本の声に、ぼさぼさの髪の松本が無精髭の浮いた顔をぼんやりと向けた。その顔は覇気がなく、視線も虚ろだった。
「茶化さないでください……余裕ないんすから。」
「あ~あ。何て面してやがる。ひでぇぞ、松本。」
着替えをする気にもなれず、松本のシャツの襟は薄汚れていた。
「自己嫌悪してんですよ。直が繊細なやつだって、十分わかっていたのに、俺は何のフォローもしてやらなかった。あ~、もう。どこへ行っちまったんだろう。製菓学校のダチとか、思いつく限りの所はあたったんすけど、わかんないんすよ。もっとちゃんと話すればよかった。」
「後悔先立たずを絵に描いたようだな。」
頭を抱える松本の苦悩っぷりは、ドsの木本にはたまらないようだ。
にこにこ笑いながら、楽しそうに松本の傷口を広げ塩を塗って来る。
「何とかしてやりたいよなぁ。おまえの直は黙って泣くタイプだろうしなぁ。そこに付け込む誰かに、どこかに連れ込まれてやられたりしてなけりゃいいけど……心配だな、松本。誰でも弱ってるときは甘い言葉に弱いからな。」
「兄貴……楽しんでますよね。」
「え?まさか~。可愛い弟分が落ち込んでるのを知ってて、喜ぶわけがないだろう?俺は心の底から心配してんだよ。直が無事ならいいなぁ~ってな。」
「よしてください。笑えません……」
「ま、諦めないでいれば、いつかは思いが届くんじゃねぇの?」
「そうは思えないっす。何なんすか、そのチープな慰め方と満面の笑み……腹立つわ~。殴りてぇ。」
ばたばたと足音がして、隼と周二が駆け込んでくる。
「……やっ、だっ。」
「あ~、もうっ!悪かったって言ってんだろ!」
「どうしたんすか?……つか、ねんね。なんで服着てんの?」
「松本さん。もう、放課後の「めのほよう」はお終いなの。」
「え?そうなの?つまんね……。」
「隼!考え直せって!テレビが壊れてるって嘘ついたのは、謝るから。」
「パパと一緒に、おうちで「おそ松さん」見るもん。わたくし、実家に帰らせていただきます~。」
「わ~~、隼~。」
どうやらテレビが壊れているという嘘が、ばれてしまったようだ。
そしてタイミングの悪い事に、ちょうど周二が見せたくなかったCMが流れた。
ぷよぷよの体が、二か月後にはまるで別人のように引き締まり、老若男女共に自信を取り戻して笑顔を浮かべている例のCMだ。
「きゃあ~♡すっご~い♡」
隼の瞳が期待にきらきらと輝いた。
「ぼくもライザ○プに、行く~。」
「やめろ~!松本~!なんか言ってくれ。隼~!お前がムキムキになって、どうすんだよ。」
「そうか……実家!もしかすると、直は家かもしれねぇな。」
「ん~?」
「ありがとう、ねんね。直の部屋を調べてみる。」
「じゃあね。松本さん。ぼくも結果にコミットで頑張ります。目指せ、シックスパック。」
「おう。頑張れ。」
「隼~~!カムバック~~!!!」
虚しく響く周二の叫びは、もう隼の耳には届かなかった。
隼の言葉にヒントをもらった松本は、直の部屋へと急いだ。
本日もお読みいただきありがとうございます。
ドsの木本は、松本の事を心配しながらも、楽しくてたまらない様子です。
(*つ▽`)っ))) 「だから~、心配してるって~。」←木本
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