caféアヴェク・トワの住人たち 10
「至らぬところも多いと思いますが、直をよろしくお願いいたします。」
「あ……いえ。こちらこそ。」
「昔から、おばあちゃん子は三文安いと申しますでしょう?わたくしは直が世間様に後ろ指をさされないように、厳しく躾たつもりですけれど、母親がいないからと不憫で、つい甘やかしてしまったかもしれません。」
「とんでもありません。相良くんはとてもしっかりしています。助けてもらっているのはこちらの方です。俺は気が利かないうえに言葉足らずで、相良君を傷つけてしまいました。情けない話ですが、確信もないまま、ここへも夢中で訪ねてきたんです。相良君に許してもらえるなら、もう一度一緒に働いてほしいと思っています。断られるのが嫌だったんで、連絡も取らないで、図々しく押しかけて来たんです。会えば何とか押し切れると思いました。」
「そうでしたの。」
「俺は相良くんが、おばあちゃん子なのが羨ましいです。俺には一応両親はいますけど、成人する前から付き合いもありませんし、もう顔もうろ覚えです。お恥ずかしい話ですが、ガキの頃から、ずっと俺は人を傷つけて生きてきた気がします。だからきっと知らずに、たくさん相良君も傷つけてきたと思います。それでもお願いです。どうか、相良くんと話をさせてください。きちんと詫びを言わせてください。このまま直を失いたくないんです。直と一緒にいる時だけ、俺はまともになれるんです。」
「……直。」
話を遮るように、直の祖母は室外に声をかけた。
「いらっしゃい。そこにいるんでしょう?松本さんが貴方とお話したいそうよ。お返事は自分でなさい。」
ひくっと、小さな嗚咽が漏れたのを、松本は聞いた。
*****
茶室の外にぺたりと座り込んで、直は祖母と松本の話を聞いていた。
「直。きちんと話をしてやらなくてごめんな。……前橋の事なんだけどな、言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、荒木と相談して、直に時間を作ってやりたかったんだよ。」
直は涙ぐんだ目を向けた。唇が震えていた。
「ほっとけば、直は寝る時間も削っちまうだろ?ふらふらで、真っ青な顔して頑張ってる直を見ているとな、何とかしてやりたいよなっておじさんたちは、みんな思ったんだよ。」
「……おれが、いらなくなったんじゃなくて……?」
「まさか。直に見限られたと思って、俺も荒木も慌てた。みんなも心配してるぞ。」
「勝手に勘違いして、心配かけて……ごめん……なさい。」
「謝るのは俺だ。直じゃねぇよ。すまなかった。もう一度だけ、俺にチャンスをくれねぇか?今度はちゃんと直に向き合うから。」
「……は……い。」
「行くのね?直。」
「おばあちゃん……。突然だけど、店長と一緒にこれから帰ります。もしお父さんを期待させてしまったのだとしたら、ごめんなさい。」
「本気で家を継いで呉れるなんて、貞夫さんも私も思ってやしませんよ。突然帰ってきたから、少し疲れたのかしらとは思ったけど、あなたは何も言わないんですもの。松本さんが迎えに来てくださって良かったわね。暗い顔で家にいられるよりも、元気で遠くに居るほうがいいわ。辛気臭いのは嫌よ。」
どうやら、本気でそう思っているようだった。
「おばあちゃん……」
本日もお読みいただきありがとうございます。
さばけたおばあちゃんです。きっと、直の事を心の中では心配しつつ、ちゃんとして欲しいと思っているのだと思います。
(´゚д゚`) 「おばあちゃん……」
( ̄▽ ̄) 「おほほ」
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