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caféアヴェク・トワの住人たち 12 

揺れる電車の中、直が隣に座っているのを、何度か確かめるように盗み見た。
疲れているのか、安心したのか、直は松本の肩に頭をもたげてぐっすりと眠っている。
松本は手を伸ばし、そっと指先に触れ、長らく触れていなかった恋人の体温を確かめた。
直を探しに出かけた時には、幽鬼のようだったのに、隣に直が居るのが嬉しくて気持ちが弾む。気を引き締めていないと、ついにやけてしまう松本だった。

「直。ほら、駅に着いたぞ。」
「は……い。寝ちゃいました。」
「荷物は持ってやるから、先に降りろ。」
「はい。」

直の家に近づくと、出かける前には冷たかった、瞬きを繰り返す切れかけた街灯さえ、温かく感じた。
部屋に戻るとやっと緊張が解け、松本はほっと息をついた。
もう誰に気兼ねをすることもない。
コートを脱いでハンガーにかける直に声をかけた。

「直。みんなに心配かけた罰だ。明日から休みは当分なしだからな。」
「……はい。おれが悪かったんだから、当然です。」

しょんぼりとしてしまった直に近づくと、松本は鼻をつまんだ。

「あのな~、忙しくなるぞ。来月から直は、オークジホテルの洋菓子部門に出向することになったからな。」
「出向?え?オークジホテルって、あの有名な……?」
「ああ。兄貴が支配人に話をつけてくれて、週に三日、ケーキバイキングの助っ人に行くことになった。今、すごい人気で猫の手も借りたいらしい。バイキングと言ってもオークジホテルは高級志向だから、勉強になるだろ?むしろ、向こうから誰かいないかって言われたって言ってたぞ。それにクリスマス商戦も始まるだろう?大忙しだ。」
「すごい。あそこのクリスマスケーキは種類も多いし、すごくおいしいんです。おれに務まるかなぁ?」

直は目を輝かせた。

「役に立つかどうかを決めるのは、直じゃなくて向こうの方だろ?結果を気にせずに、思い切ってやってみろ。直はうちの看板背負って行くんだからな。それと、残り二日は、カフェの方でいつものようにケーキを作ってくれ。荒木と相談して、うちもクリスマスには特別に、直のクリスマスケーキを置こうって話になったんだ。」
「そうなんですか……おれがいない間に話が進んでいたんですね。」
「詳しい話をしようと思った矢先に、直はとんずらこいちまったからな。まずはパンフ作りからだ。二足のわらじはきついだろうが、その分前橋が気張ってくれるから厨房の仕事は心配しなくていい。……俺にはよくわからんが、洋菓子でも日本料理でも料理人は基礎があって応用があるんだろ?」
「そうだと思います。基本ができていないとたぶん無理です。おれもまだまだだから、ホテルは勉強になると思います。」
「勝手に話を進めてしまって悪かったな。余計なことをしたと言って、怒らないか?」
「嬉しいです。ありがたいです、とても。ずっと、ケーキを作りたかったから……」
「そうか。だったらいいんだ。」
「でも、店長が傍にいないから……一人は少し不安ですけど……」
「そうだろ~?俺も直が居ないと禁断症状が出て、きっと大変なことになると思うんだ。俺より、こいつが寂しがるだろうなぁ。」

松本は下半身を指さした。

「だからな、休みの日は出来るだけ一緒にいような。美味いものも一杯食おう。」
「はい。あの店長……?」

直はそっと松本の耳朶にささやいた。
二人きりの時、直は時々信じられないほど大胆になる。

「おれ、寂しかったです……店長が触ってくれなかったから恋しくて……実家で自分で触ってみたけど、勃ちませんでした。もう店長じゃないと、駄目みたい……です。」

耳の裏まで桜色に染まった直が、懸命に思いを告げる。

「おれ、店長の事、世界で一番大好きです。迎えに来てくれてありがとうございました。」

職場放棄してしまったからには、首を切られることも考えていた直だった。
松本も、ひたすら直を探し続けていたが、もし愛想尽かしされていたらと、不安でたまらなかった。
愛しさがこみあげて、胸が痛くなる。



本日もお読みいただきありがとうございます。
直が、あんまり松本に一途なので、なんだか松本がすごくいい男に見えてきます。
そうでもないんだけど……(*つ▽‘)っ)))

ヾ(。`Д´。)ノ「此花、てめぇ~!おれはいい男なんだよっ!」
(〃゚∇゚〃) 「はい♡」
(〃⌒▽⌒)八(⌒▽⌒〃)「なんだよ、この正直者~♡」「店長~♡」

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