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波濤を越えて 第二章 9 

白いなまこ壁に囲まれた相良家本家では、最近表門を作り替えたらしい。依然訪れた時とは、違って白木の木肌が真新しくなっていた。
来客を威圧するような大きな門は、最近出入りの宮大工が作り直したそうで、どこかの老舗旅館だと言っても通用しそうだ。
正樹は、家政婦と二人がかりで庭石を洗っていた祖母に、声をかけた。

「おばあちゃん。苔の掃除?」
「おや、正樹。久しぶりだね。庭師も爺さんだから、あたしも少しは手伝ってやろうと思ってね」
「相変わらず、すごい庭だね。門もすごかったけど一回り大きくしたの?」

祖母は相変わらず飄々とした様子で、60歳を越えていても実年齢よりははるかに若く見えた。

「あたしはああいうのに興味はないけど、貞夫さんは豪勢なのが好きだからね。大工さんもあの子の好みをよく知っていて、これでもかってほど派手なのを設計してくるんだよ」
「そのうち、本家はお城に建て替わるんじゃない?」
「そうかもしれないね。あたしがいる間は、せいぜいおとなし目にしておくれって頼んでおくよ」

家政婦が祖母の持っていたバケツと雑巾を取り上げ、手を洗った祖母は家の中へと正樹を誘った。

「正樹、美術館で働いているんだって?あんたのお母さんに聞いたよ」
「あ……はい。いつかは学芸員になりたいんだ」
「就職なら貞夫さんに頼めば、何とかなるだろうに」
「う……ん。でも、自分の好きな事なのに、叔父さんに頼むのは何となく違う気がして……」
「相変わらず、生真面目だね、正樹は」
「性格なんて、簡単に変えられないよ。……そう言えば、直の姿が見えないようだけど。遊びにでも行ったの?」

祖母は少し困ったような顔をして、正樹を指で呼んで声を潜めた。

「今日、正樹が来てくれて本当に良かった。ちょっと困ったことがあってね」
「何かあったの?」
「直はお菓子を作るのが好きでね。何やら台所で作っていたんだよ」
「そうなんだ。小さいころから好きな事があるって良いことだよ。有名なパティシエも、男の方が多いだろうし」
「貞夫さんには、そういう理屈は通じないだろ?男は厨房に入るものじゃないって、言うタイプだし。相良の家の男が……って、直の言い分も聞かないで、封建的なことを押し付けるんだよ」
「叔父さんらしいね。……お父さんと同じタイプだ。自分だけが正しいと思っているんだよね」
「直は、折角作ったものを捨てられてね、あとで聞いたらお父さんの誕生日だからって、作ったらしいんだよ」
「可愛そうに……それで、直は?」
「お勝手口で泣いているんだ。あたしも慰めようがなくて、途方に暮れていたところさ」

正樹は、勝手口に向かった。




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