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波濤を越えて 第二章 12 


表門を出たところで、名前を呼ばれ振り返った。
祖母が手招きしているのに気づき、足を止める。別れの挨拶をしていなかった。

「直はもう泣いていないよ、おばあちゃん。心配しなくても、結構芯は強いみたいだ」
「正樹と同じで、直も見た目があんな風だから弱々しく見えるけど、案外骨っぽいのかね。あたしが見る限り、あんたたちは、よく似ているよ」
「そうだね……もう少し年が近かったら、直とはいい友達になれたと思うよ」
「正樹。ここへ来た時から気になっていたんだが、顔色が良くないようだけど大丈夫なのかい?」
「……あ、うん。少しの間、検査入院することになってるんだ。その報告に来たのに、忘れて帰るところだったよ」
「検査?お前、どこか悪いの?」

まともに答えるわけにはいかなかった。

「集団検診で引っかかっただけだよ。一応、お母さんには報告したんだ。でも、お父さんは仕事でいなかったから、伝えられなかった。本家に来ることもあるだろうから、おばあちゃんからよろしく言っておいて」
「それでいいのかい?」
「うん。会わない方がいいと思う。お母さんには何とか話ができたけど……僕は両親を失望させてしまったから、仕方がないんだ」
「正樹は何も悪くないんだろう?あんたの親が石頭なんだよ」
「どうかな?……でも、期待を裏切ったのは確かだから……」
「正樹が気に病むことはないんだよ。相良の家の男どもは、揃いも揃って堅物ばかりで嫌になるね。自分だけが正しいと思っているんだからねえ。もう少し、あたしに似てくれればよかったのに、みんな堅物の爺さんに似てしまって頭が痛いよ」

祖母は大きくため息をついて見せた。

「何言ってるの。おばあちゃんは、大恋愛で結婚したんでしょう。お爺ちゃんがお嫁に来てもらうのに、すごく苦労したって大分前に言ってた気がする」
「そりゃあね。あたしを惚れさせたんだから、爺さんも大したもんだよ。ま、昔の話さ。……そうだ、正樹。これを持っていきなさい」

渡されたのは、二つ折りにした厚みのある封筒だった。

「何?」
「あたしのへそくりだよ。誰にも内緒だから遠慮なんていらないからね。たまには孫に小遣いをやったって罰は当たらないだろ?邪魔になるもんじゃないから」

微笑む祖母の気づかいに、目元が熱くなるのを堪えた。

「ありがとう、おばあちゃん」
「正樹は正樹の思うように生きればいいんだ。無理しなくていいんだよ。一度しかない人生だなんて、安っぽい演歌みたいだけどその通りなんだからね。あの世へ行く前に後悔したって遅いんだからね」
「かなわないなぁ……僕もさっき同じようなことを直に言ったんだけど、おばあちゃんが言うと重みが全然違う気がする」
「年の功だよ」
「ありがとう、おばあちゃん。……お父さんとお母さんをよろしくお願いします」
「正樹……?」

仰々しく頭を下げた正樹に、祖母は違和感を抱いたようだ。
慌てて、正樹は話を変えた。

「おばあちゃんには、いつか僕の好きな人を紹介するね。きっと驚くと思うよ。フリッツって言ってね、ドイツ人なんだ」
「まあ……そう。早く会ってみたいねぇ。ゲルマンなら、金髪碧眼かい?」
「そうだよ。今は、ドイツに帰っているけど、しばらくしたら日本にまた来るって言ってた。お父さんたちはきっと怒ると思うけど……おばあちゃんには会ってもらいたいんだ」
「何かあったら、封筒の裏側にあたしの携帯番号を書いておいたから、連絡しておいで。一人で抱え込むんじゃないよ。いいね」
「……うん」

例え誰にも理解されなくても、フリッツのためにもこの人に祝福されたいと思った。
それは正樹の切なる願いだった。




本日もお読みいただきありがとうございます。
直にも優しかったおばあちゃんは、正樹にとっても理解者のようです。
(´・ω・`) フリッツ……

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