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世良兄弟仇討譚 豺虎の秋月・4 

豺虎 (さいこ・あらあらしく強い悪人をたとえていう語)




懐にずっしりと金子を抱えて、三人は相模屋を後にした。
昂る気持ちを抑えきれず、竹藪の中に脱いだ着物を敷いて、兄弟は秋風に粟立つ肌を合わせていた。
獣のように野良での目合い(まぐわい)であった。

「はっ……はっ、もう……兄上、もう、笹目は身体がもちませぬ」
ぎち……と、狭い後孔に埋め込まれた兄の深い抽送に、義弟は細腰を引き裂かれそうになっていた。
伸ばされた白い足先が、救いを求めるように淫靡に空を掻く。
のけぞった喉元が、ぬらと汗に光るのは淫らで美しかった。
ぐっと握りこまれ、放つのを許されぬままの男印が辛く、無意識に腰を引こうとした。
「気を、もってゆかれるっ……兄上、もう、もう……お許し、下さい」
「相模屋のお内儀と散々乳繰り合っておきながら、可愛いことを言う」
哀訴に構わず突き入れられて、思わずひぃっと百舌が鳴くような掠れた嬌声が、辺りに響いた。
幼い月華は、少し離れた場所で兄達の禁忌の交わりをじっと見つめていたが、退屈したのか少しづつ近寄ってくる。
月華に向かい、人を殺めた罪は兄上がかぶるからおまえは何も心配せずに、いつか極楽にゆくのだよと、弥一郎が安らかに言う。
「我らの身はとうに、地獄の牛頭鬼(ごず)、馬頭鬼(めず)になってしまったから、こうして側にいても兄を人と思ってはいけないよ。この交わりも鬼の咬合なのだから」
畜生となった浅ましくも美しい鬼が、人の姿のまま汗の浮いた頭を振りたてて、揃って絶頂の長い吐息を吐いた。
「あぁーーーー……っ……」
「くっ」
一つ目の仇首をあげて高ぶった熱を打ち付け合い、引き出された上の兄の肉は、月華の知る相模屋のゆるいぶよぶよしたものと違って、放った後も雄雄しく天空を突いていた。
てらてらと濡れて光る怒張にそっと近づくと、涙を浮かべて月華は兄を見上げた。
「月華は、極楽の蓮の上に独り置いてゆかれるのはいやです。冥府まで兄上達とご一緒すると決めました。兄上達が羅刹になるのでしたら、月華も従鬼になります。ですからどうぞ、置いてゆかないでお連れください……」
「おいで……」
草の上の下の兄が白い手を差し伸べて、ほろほろ泣き咽ぶ月華をそっと胸に抱えた。
ついと手を伸ばして、兄の姿に欲情して立ち上がりかけた薄桃色の茎を認めると、くすと笑った。
「こら。そなたのここに色がついては、今後の仕事の妨げになるだろう。本懐を遂げる日まで月華は何も知らない清らかな童子で居なければならぬ。決して気をやってはいけないよ」
「いや、いや。わたしも、弥一郎兄さまと繋がりたい。兄上、笹目兄さまばかり可愛がってはいやです」
ふくれっ面をして涙ぐむ月華は、鬼となった兄達の再びの蛇淫の絡みを見つめていた。
「月華も笹目兄さまのように、足を高く上げて上手に啼けます」
「人に戻れなくともよいと言うのか?」
「あい。月華も鬼になります」
こくりと末の弟が頷いた。
頭に触れてみても角などはないが、我らが行く道は修羅道なのだよと兄達が言う。
繰り返される単調な動きに、静かにしていた秋の羽虫がころと音色を立てはじめた。

「父上。この身はどのような地獄に堕ちようと、必ず仇は討ち果たし、本懐だけは遂げてご覧に入れまする。ですから、兄弟諸共に畜生道に堕ちる不孝をお許し下さい」
「幼い月華も、この上は一蓮托生、冥府に同道させまする」
懐に抱いた亡き父の白木の位牌が、禁忌の誓いを責めるように兄の胸の尖りにごりと当たった。
「つっ……」
豺虎の行く道に、仏の救いなど届くわけもない。
本懐を遂げた後、畜生道に朽ちる兄弟が、声を上げて啼くのを秋の月だけが知っていた。
荒々しくも美しい獣が、空にかかる弓張り月を見上げて哀し気に呟いた。

「まず、一人」

                                  ― 完 ―






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