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世良兄弟仇討譚 月影の鵺 3 

鵺(ぬえ):暗い森の中にすみ、夜、ヒーヒョーと笛を吹くような寂しい声で鳴く。
または、伝説上の妖力をもったばけもの。頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎、正体ははっきりとはしない。





天に住む迦陵頻伽が、じっと視線を外さないのが、訝しかった。
「まあ、こんなに泣いて。どうか致しましたか?わたくしの顔になにか?」
人気役者との逢瀬がやっと叶い、これから過ごす密の時間を思えば幼い舞い手など早く返してしまいたかったが、つれなくするには余りに月華は愛らしすぎた。
「月華の、母上さま……に、そっくり……」
勘定奉行の妻女の膝にしがみ付き、母と呼ぶ美童はいとけなく女の思い人を兄上とも呼んだ。
見上げる顔の泣き濡れた様に、妻女はとうとう、よしよしと頭を抱いた。
懐に入り、月華は胸をまさぐった。
「母上。月華の恋しい母上……甘い乳を、月華に下さりませ」
幼子の細腕がくんと胸に入り、あっさりと肌けさせてしまう。
乳房を両の手で寄せると、真っ赤なクコの実に似た小さな粒を口に含み、幼子のように強く吸った。
「あっ、これ。これは、そなたにやるような乳は出ぬ」
「母上……いや、いや。月華はお胸に触っていたい」

胸を散々にまさぐられて、妻女は困り果て、火照った顔を笹目に向けた。
さわさわと、揉みしだく紅葉のような小さな手に笹目の筋張った男の手が添えられる。
「お妙さま。椀を伏せたような形の良い乳をしておられる」
「そのような恥ずかしいこと。口にしては嫌ですっ」
「このようなことも?」
乳房は月華に任せて、笹目は奥の院に指を滑らせた。
そこはとうに潤んで、忍ばせた指を飲み込んでゆく。
しとどに濡れそぼった、赤黒い潤みが笹目の指を何本も咥えこんでゆく。
くつろげた下肢の小さな芽に、顔を滑らせた月華が歯を立てた。
「ああっ、そなた……妾を母と呼びながら、何と言うことを……っ!」
「母上……母上」
着物を割り、襦袢もみんな、兄の身体が入りやすいように広げてやって、月華は頭の方に回った。
笹目は腰を打ちつけるが、素振りだけで決して精をやったりはしない。
乱れた髪を撫で付けながら、自らの膝の上に頭を乗せ、月華はそっと上から額に唇を寄せた。
「本当の母上ならよろしかったのに……ねぇ」
妙の潤んだ瞳が、ふいにくるりとひっくり返って白目を剥いた。
「でもねぇ、月華の母上さまは、もっと美しい方なのです」
唇をそっと耳元に寄せて、囁く月華の小さな手には細く煌く針がある。
こめかみあたりに、芥子粒ほどの血の玉が盛り上がっているのを、月華はそっと舐め取った。
「奥さまは、月華に乳房を下さったから優しくしてあげます」
「本当は、奥方さまには、笹目にいさまが石見銀山(砒石・亜ヒ酸などを含む毒薬)を下さるおつもりだったのだけど、余ったこれは、小屋のねずみにくれてやりましょう。」
心の臓にぷつりと、とどめを打ち込んで振り返ると、とうに笹目は部屋を後にしていた。
「さてと……。月華にはもう一仕事」

老女が時間を見計らって、部屋を訪ねると神の依り代の恰好をした、穢れのない稚児がしくしくと泣くばかりであった。
驚き訊ねる老女に向かい、涙にくれながら美しい稚児は語った。
「笹目にいさまが、急な腹痛で小屋に戻られたのです。ですからわたくし、お菓子を頂いてしばらく奥さまとお話しておりました」
「話とな」
「御伽草子の竹取の翁のお話をして下さいました。お優しいおくさま……どうして……?どうして何もおっしゃらなくなってしまったの?ああぁ~んっ……」
泣き崩れる美童の背中を撫ぜる老女の目には、何の疑いもない。
役者風情と、束の間の逢瀬を楽しもうとして、神仏の罰に当たったのだ。
この神の童が何よりの証拠。
……そう思うことにした。

くっすんと、泣き濡れた稚児の衣装は、神の依り代である。
天上で鳴く極楽鳥の声を模して、じゃんと銅拍手を打ち鳴らし、月華は芝居小屋へと駆けた。







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