愛し君の頭上に花降る 7
目を伏せた青年を見つめる祥一朗の耳元に、背後から近付いてきた笹崎が小声で告げた。
「望月さま。この方は元結城男爵さまのご嫡男です。名を結城秋星さまとおっしゃいます」
「男爵……そうか。それで合点がいった。名前も優美なのだな。どんな字を書くの?」
「……季節の秋に夜空の星と」
「似合いの名だ。結城君、この先何か予定はある?」
「いいえ……」
「軽い食事をさせるカフェが近くにあるんだ。これからどう?」
内心の喜色を浮かべぬようにして、少し困ったような顔で結城秋星は頷いた。
「無理に誘って悪かったかな?」
「いえ……ぼくも先生と、もう少し話をしたいと思っていました」
結城の言葉は、祥一朗を機嫌よくさせた。
食事をした後、少し風が冷えて来た夕暮れの街を、二人は並んで歩いた。
路地裏に入って人気がなくなると、そっと寄り添い腕を絡めて来る。
出逢ったばかりの秀麗な青年の大胆な行動に、祥一朗の気持ちが浮き立った。
「戦前にこういうことをしていたら、不謹慎だと言われて、二人とも特高警察に引っ張られるだろうね」
「平気です。もう失うものも怖いものも有りませんから……。でも……あの、今夜は冷えるからこうしていても……?」
「責めたわけじゃないよ。おいで、温めてあげよう」
「あ……」
結城が零した吐息は白く、祥一朗は思わず肩を引き寄せた。
身じろいだ結城は、驚いたように祥一朗を見つめ、やがて観念してゆっくりと瞼を閉じた。
夜陰に溶けた二つの人影は、寄り添うようにして祥一朗の仮住まいでもある鳴澤の家へと向かった。
「ほら、こっちだよ」
広大な屋敷に圧倒されている結城の手を引いて、車寄せから二階の自室へ向かった。
磨きこまれた紫檀の飾りのついた階段は、接収される前、自宅にもあったものと似ている。
豪奢な作りを懐かしく思いながら、誘われるまま結城は祥一朗に従った。
スチーム暖房で温められた部屋に入ると、祥一朗は少し気が急いた風で結城の上着に手をかけた。
この上なく優しい口づけをそっと落とすと、二人はごく自然に抱き合って互いを確かめ合った。
祥一朗の繊細な指が、細いあごの輪郭をなぞる。
「もう寒くはない?」
「ええ……ホテルに使われているような暖房器が、個人の家にあるので驚きました」
「甥が病弱なのでね。義兄がホテルで使っているものを邸に持ち込んだんだ。結城君?」
結城は祥一朗の首に腕を回した。
チロ……と首筋を熱い舌が這い、甘い芳香がふわりと鼻腔をくすぐる。
「どうぞ、秋星と……望月先生……」
「秋星」
甘く柔らかい舌を吸いあって、身体の中心が久しぶりに熱に熟むのを祥一朗は感じた。
こうした行為は、若い男娼と別れて以来久しぶりだった。
息を吸うように長く口腔を蹂躙しあった二人が息をつくと、祥一朗の昂りに気づいた秋星が、躊躇なく膝をつく。
慣れた手つきで下肢を包むズボンをくつろげ、下穿きから祥一朗の芯を持ち始めた持ち物を取り出すと迷わず指を添えて口に含んだ。
「秋星……無理はしなくていい」
「いいえ……」
訝し気に思う間もなく、忙しなく互いの衣類を落とすと、二人は絡んだまま寝台に身を投げた。
煽る吐息は濃密な夜を予感させる。
温められた室内の空気に、互いの肌は汗ばんだ。
火 木 土曜日更新の予定です。
どうぞよろしくお願いします。
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「望月さま。この方は元結城男爵さまのご嫡男です。名を結城秋星さまとおっしゃいます」
「男爵……そうか。それで合点がいった。名前も優美なのだな。どんな字を書くの?」
「……季節の秋に夜空の星と」
「似合いの名だ。結城君、この先何か予定はある?」
「いいえ……」
「軽い食事をさせるカフェが近くにあるんだ。これからどう?」
内心の喜色を浮かべぬようにして、少し困ったような顔で結城秋星は頷いた。
「無理に誘って悪かったかな?」
「いえ……ぼくも先生と、もう少し話をしたいと思っていました」
結城の言葉は、祥一朗を機嫌よくさせた。
食事をした後、少し風が冷えて来た夕暮れの街を、二人は並んで歩いた。
路地裏に入って人気がなくなると、そっと寄り添い腕を絡めて来る。
出逢ったばかりの秀麗な青年の大胆な行動に、祥一朗の気持ちが浮き立った。
「戦前にこういうことをしていたら、不謹慎だと言われて、二人とも特高警察に引っ張られるだろうね」
「平気です。もう失うものも怖いものも有りませんから……。でも……あの、今夜は冷えるからこうしていても……?」
「責めたわけじゃないよ。おいで、温めてあげよう」
「あ……」
結城が零した吐息は白く、祥一朗は思わず肩を引き寄せた。
身じろいだ結城は、驚いたように祥一朗を見つめ、やがて観念してゆっくりと瞼を閉じた。
夜陰に溶けた二つの人影は、寄り添うようにして祥一朗の仮住まいでもある鳴澤の家へと向かった。
「ほら、こっちだよ」
広大な屋敷に圧倒されている結城の手を引いて、車寄せから二階の自室へ向かった。
磨きこまれた紫檀の飾りのついた階段は、接収される前、自宅にもあったものと似ている。
豪奢な作りを懐かしく思いながら、誘われるまま結城は祥一朗に従った。
スチーム暖房で温められた部屋に入ると、祥一朗は少し気が急いた風で結城の上着に手をかけた。
この上なく優しい口づけをそっと落とすと、二人はごく自然に抱き合って互いを確かめ合った。
祥一朗の繊細な指が、細いあごの輪郭をなぞる。
「もう寒くはない?」
「ええ……ホテルに使われているような暖房器が、個人の家にあるので驚きました」
「甥が病弱なのでね。義兄がホテルで使っているものを邸に持ち込んだんだ。結城君?」
結城は祥一朗の首に腕を回した。
チロ……と首筋を熱い舌が這い、甘い芳香がふわりと鼻腔をくすぐる。
「どうぞ、秋星と……望月先生……」
「秋星」
甘く柔らかい舌を吸いあって、身体の中心が久しぶりに熱に熟むのを祥一朗は感じた。
こうした行為は、若い男娼と別れて以来久しぶりだった。
息を吸うように長く口腔を蹂躙しあった二人が息をつくと、祥一朗の昂りに気づいた秋星が、躊躇なく膝をつく。
慣れた手つきで下肢を包むズボンをくつろげ、下穿きから祥一朗の芯を持ち始めた持ち物を取り出すと迷わず指を添えて口に含んだ。
「秋星……無理はしなくていい」
「いいえ……」
訝し気に思う間もなく、忙しなく互いの衣類を落とすと、二人は絡んだまま寝台に身を投げた。
煽る吐息は濃密な夜を予感させる。
温められた室内の空気に、互いの肌は汗ばんだ。
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