愛し君の頭上に花降る 8
奇妙なことに、秋星の手順は祥一朗がこれまで肌を重ねて来た相手を思い出させた。
脳裏にほんの少しそんな考えがよぎったが、秋星の高貴な出自を思い出して、馬鹿げた考えを打ち消した。
余計な思案を巡らせた途端、熱く巻き付く舌に強く茎を絡めとられて、祥一朗は呻いた。
敏感な亀頭を、乳を舐める子猫のように、柔らかな舌で丁寧になぞられるたび、甘い快感がぞくぞくと背筋を走り抜ける。
滑るような手管に、思わず腕を伸ばして秋星の髪を掴むと、顔を窺った。
「このままだと、君の口腔に吐精してしまいそうだ。秋星、君はとても……」
「望月先生……?」
口淫を止めさせたのを詰るように、秋星が掠れた声で祥一朗の名前を呼ぶ。
直もやわやわと双球を揉みしだき続ける指を、上からきゅと抑え込む。
そこかしこに触れる愛撫に、ちりちりと腰の奥を焼かれるようで、性急に奔流がせり上がるのを感じた。
「秋星、もう……いいだろうか?」
白い足首を掴むと、秋星は一瞬怯えたような視線を向け、目を伏せた。
痩せぎすな腰を抱えて寝台の中央に引き寄せると、秋星の両足を抱え上げて二つに割った。寝台脇の小机に習慣で置いた医療鞄から、オリーブ油の小瓶を取り出す。
男性同士で情交を交わそうとすれば、それなりの手順が必要になる。
尻を割り、最奥の窄まりに慎重に垂らし込むように馴染ませて、思うさま腰を打ち付けようとした刹那。
「……あぁ、いや……っ」
身を捩った秋星が、小さく発した抗いの言葉が、眠っていた祥一朗の嗜虐心を疼かせた。
吐精寸前まで煽っておいて、するりと身を翻して逃げようとするのに苛立って、身体の重みを利用してのしかかった。
顔を落として耳元に囁く。
「ここまで来て、逃げようなんて許さないよ。覚悟を決めるんだね」
冷たく言い放った祥一朗の声音に怖け、白くなった指で敷布を掴んで寝台から転がり出ようとする。
掴まれた華奢な手が祥一朗から逃れようと身体の下でもがいた。
「秋星……?」
「……すみません……すみません……ぼくは……」
顔を覆って、子猫のように小さく丸くなってしまった秋星に、ゆっくりと覆いかぶさった祥一朗は、そっと背後から抱きしめた。
瘧のように震えながら嗚咽を零す秋星が、小さな子供のようで愛おしかった。
「初心な人だ。泣くほど怖いのなら、誘わなければよかったのに。ぼくを好いていてくれると勘違いしてしまったよ」
「ち……違います……ぼくは望月先生にふさわしくないから……それに気づいて……悲しくなってしまって。ぼくはこんな風に……大事に扱ってもらえるような人間ではありません」
「秋星?」
祥一朗は言葉の意味をはかりかねていた。
「あなたのようなら良かったのに。華族という地位を失っても、毅然としたあなたは周囲から医者として尊敬される。ぼくには、何もありません……あなたが羨ましい……」
それは幼子のように、溢れる涙が止まらなくなった秋星の本心だった。
だが、祥一朗には理解できなかった。
これまで誰かに、羨ましいなどと言われたことなど、一度もない。
医者という地位は、父親の金で何とか入った医専で手に入れたものだったし、医師としての腕は、有名大学の医学部に入った見習い医者の足元にも及ばない。
子供の頃から、何の才能もなく親の期待を裏切ってばかりだった。
余りに不出来な長男を哀れに思ったか、両親は溺愛したが、使用人すら実は種が違うのではないかと母の不貞をまことしやかに口にしたくらいだ。
火 木 土曜日更新の予定です。
どうぞよろしくお願いします。
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脳裏にほんの少しそんな考えがよぎったが、秋星の高貴な出自を思い出して、馬鹿げた考えを打ち消した。
余計な思案を巡らせた途端、熱く巻き付く舌に強く茎を絡めとられて、祥一朗は呻いた。
敏感な亀頭を、乳を舐める子猫のように、柔らかな舌で丁寧になぞられるたび、甘い快感がぞくぞくと背筋を走り抜ける。
滑るような手管に、思わず腕を伸ばして秋星の髪を掴むと、顔を窺った。
「このままだと、君の口腔に吐精してしまいそうだ。秋星、君はとても……」
「望月先生……?」
口淫を止めさせたのを詰るように、秋星が掠れた声で祥一朗の名前を呼ぶ。
直もやわやわと双球を揉みしだき続ける指を、上からきゅと抑え込む。
そこかしこに触れる愛撫に、ちりちりと腰の奥を焼かれるようで、性急に奔流がせり上がるのを感じた。
「秋星、もう……いいだろうか?」
白い足首を掴むと、秋星は一瞬怯えたような視線を向け、目を伏せた。
痩せぎすな腰を抱えて寝台の中央に引き寄せると、秋星の両足を抱え上げて二つに割った。寝台脇の小机に習慣で置いた医療鞄から、オリーブ油の小瓶を取り出す。
男性同士で情交を交わそうとすれば、それなりの手順が必要になる。
尻を割り、最奥の窄まりに慎重に垂らし込むように馴染ませて、思うさま腰を打ち付けようとした刹那。
「……あぁ、いや……っ」
身を捩った秋星が、小さく発した抗いの言葉が、眠っていた祥一朗の嗜虐心を疼かせた。
吐精寸前まで煽っておいて、するりと身を翻して逃げようとするのに苛立って、身体の重みを利用してのしかかった。
顔を落として耳元に囁く。
「ここまで来て、逃げようなんて許さないよ。覚悟を決めるんだね」
冷たく言い放った祥一朗の声音に怖け、白くなった指で敷布を掴んで寝台から転がり出ようとする。
掴まれた華奢な手が祥一朗から逃れようと身体の下でもがいた。
「秋星……?」
「……すみません……すみません……ぼくは……」
顔を覆って、子猫のように小さく丸くなってしまった秋星に、ゆっくりと覆いかぶさった祥一朗は、そっと背後から抱きしめた。
瘧のように震えながら嗚咽を零す秋星が、小さな子供のようで愛おしかった。
「初心な人だ。泣くほど怖いのなら、誘わなければよかったのに。ぼくを好いていてくれると勘違いしてしまったよ」
「ち……違います……ぼくは望月先生にふさわしくないから……それに気づいて……悲しくなってしまって。ぼくはこんな風に……大事に扱ってもらえるような人間ではありません」
「秋星?」
祥一朗は言葉の意味をはかりかねていた。
「あなたのようなら良かったのに。華族という地位を失っても、毅然としたあなたは周囲から医者として尊敬される。ぼくには、何もありません……あなたが羨ましい……」
それは幼子のように、溢れる涙が止まらなくなった秋星の本心だった。
だが、祥一朗には理解できなかった。
これまで誰かに、羨ましいなどと言われたことなど、一度もない。
医者という地位は、父親の金で何とか入った医専で手に入れたものだったし、医師としての腕は、有名大学の医学部に入った見習い医者の足元にも及ばない。
子供の頃から、何の才能もなく親の期待を裏切ってばかりだった。
余りに不出来な長男を哀れに思ったか、両親は溺愛したが、使用人すら実は種が違うのではないかと母の不貞をまことしやかに口にしたくらいだ。
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