小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・88
「ん?何?」
佐伯さんは、何か言いたそうだった。
「実はね、松原君にずっと謝りたかったんだ、わたし。ほら、女子にいじめられてた時期あったじゃない?」
「小学校のとき、長いこと皆が、勝手に誤解していじめたよね。」
「ああ・・・ずいぶん、昔のことだよ。」
確かにあの頃は、毎日明日が来なければ良いのにと思うほど辛かった。
周囲の助け無しでは、乗り越えられなかったほどに・・・。
「済んだことだし。」
佐伯さんは、ちょっと待っててといってどこかに電話をし、その後、家庭教師の時間を後日に振り替えにした。
「松原君の時間は、大丈夫?」
「うん、ぼくはバイトもしていないから、平気だけど。」
「何か離れがたいから、もう少し一緒にいてもいいかな?」
ぼくも佐伯さんと同じように思っていたから、すごく嬉しくなってしまった。
意識しないで話ができる女性なんて、これまでぼくは叔母さんくらいしか知らなかった。
思い切って言ってみた。
「あのね、佐伯さんって、実はぼくの初恋の人だったんだよ。」
「そっか~。残念ながら松原君は、あたしにとっては長年の恋敵だったな。」
「ぶっちゃけるとね、あたし、四之宮君のことすごく好きだったのね。だから、あなたが保健室に運ばれるたびに嫉妬の鬼になっていました。」
「そんなぁ・・・」
もう、笑うしかなくて二人して散々笑った。
声を上げて笑ったのなんて、洸兄ちゃんがいなくなって久し振りだったと思う。
たぶん今頃、全日本の合宿先で、四之宮君はくしゃみを連発してるだろうと思ったら可笑しかった。
佐伯さんが言うには、その頃のぼくはクラス中の女子に嫉妬されていたらしい。
「え・・・?何で嫉妬なの?四之宮くんってそんなにもてるタイプだった?」
四之宮君がしょっちゅうしてくれたお姫さま抱っこは、今でも女子の永遠の憧れなんだそうだ。
それをいつも男の子のぼくがしてもらってた。
しかも見た目がオンナノコミタイだったから、か弱く儚げなお姫さまが、教室でぱたりと倒れるたびに、騎士が姫を保健室に運んで行くようなイメージで皆が見ていたらしかった。
それだけで嫉妬されるのに、十分だったと彼女は言う。
「でも、今の松原君だったら、あたしにも出来るかもしれないな、お姫さま抱っこ。」
「それ全然、嬉しくないよ。佐伯さん。」
「遠慮するな、姫。さあ、わが胸に。」
「ご辞退します、王子さま。」
仲のいい女友達のように、佐伯さんと一緒にそれから何軒も居酒屋を回り、何度も乾杯した。
情けなくも、アルコールに弱いぼくは、少量の酒に酔っ払った挙句、佐伯さんの下宿先で散々洸兄ちゃんが大好きだったと語り、さめざめと泣いてよしよしと慰められたらしい。
いなくなった洸兄ちゃんの寂しさを、理解して佐伯さんは洸兄ちゃんがそうだったように、ぼくの話を長々と聞き、宥めてくれた。
佐伯さんの胸でひとしきりないた後、ぼくはとんでもないことをしでかしたらしい。
信じられない事にぼくは女の子なんだ~!と窓の外に叫び、あっさり意識を手放して、佐伯さんの胸に縋って眠りこけたみたいだった。
信じられない。
何と言う、体たらく・・・
朝、がんがんする頭で薄く目を開けたら、すぐ側にすっぴんの女性の顔があって、ぼくは飛び上がった。
日常では考えられないシチュエーションだった。
「きゃ・・・っ!」
「こらぁ、松原海広!今、あたしのすっぴんを見て、怯えたな。」
「いや、そうじゃなくて。うわ・・・どうしよう・・・ぼく・・・夕べっからここに?」
何か、これ一般の男性的に、すごくまずいことになってません・・・か?
乱れたシーツの皺に呆然として、ぼくはまじまじと佐伯さんを見つめた。
一夜を共にしたとか、そんな感じ・・・?
「佐伯さん、あの・・・ぼく、まさか・・・?」
佐伯さんは、片眉を上げて宣言した。
「酔った挙句と言うのは、お互い認めたくないもんだね、松原君。」
「ひっ・・・」
ぼくの全身から、力が抜けた。
「これも、若さゆえの過ちってやつかね。」
ざっと一気に血の気が引いて、ぼくは情けなくも脳貧血を起こし、コルセットを締めすぎた中世のお姫さまのように、その場にぱたりと倒れ込んだ。
後で考えただけでも、顔から火を噴きそうだった。
しかも・・・
すっぽんぽんで・・・。
きゃあ~・・・みぃくん、何してくれとるの~・・・(@△@;)←脳内で美麗お子さまのみぃくんがっ・・・!
これで、完璧にBLじゃなくなったな・・・と内心焦りまくっておりますが、このお話は元々「(どんな形でも)愛された記憶のある人は、きちんと人を愛することができる」という、文章書きの端くれになる前の大前提が一番色濃く入った作品です。
愛にも色々あるものだねと、思っていただければ幸いです。 ←必死のいいわけ。
いつもお読みいただきありがとうございます。拍手、ポチ、いただくコメント全てが励みになってます。 此花
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佐伯さんは、何か言いたそうだった。
「実はね、松原君にずっと謝りたかったんだ、わたし。ほら、女子にいじめられてた時期あったじゃない?」
「小学校のとき、長いこと皆が、勝手に誤解していじめたよね。」
「ああ・・・ずいぶん、昔のことだよ。」
確かにあの頃は、毎日明日が来なければ良いのにと思うほど辛かった。
周囲の助け無しでは、乗り越えられなかったほどに・・・。
「済んだことだし。」
佐伯さんは、ちょっと待っててといってどこかに電話をし、その後、家庭教師の時間を後日に振り替えにした。
「松原君の時間は、大丈夫?」
「うん、ぼくはバイトもしていないから、平気だけど。」
「何か離れがたいから、もう少し一緒にいてもいいかな?」
ぼくも佐伯さんと同じように思っていたから、すごく嬉しくなってしまった。
意識しないで話ができる女性なんて、これまでぼくは叔母さんくらいしか知らなかった。
思い切って言ってみた。
「あのね、佐伯さんって、実はぼくの初恋の人だったんだよ。」
「そっか~。残念ながら松原君は、あたしにとっては長年の恋敵だったな。」
「ぶっちゃけるとね、あたし、四之宮君のことすごく好きだったのね。だから、あなたが保健室に運ばれるたびに嫉妬の鬼になっていました。」
「そんなぁ・・・」
もう、笑うしかなくて二人して散々笑った。
声を上げて笑ったのなんて、洸兄ちゃんがいなくなって久し振りだったと思う。
たぶん今頃、全日本の合宿先で、四之宮君はくしゃみを連発してるだろうと思ったら可笑しかった。
佐伯さんが言うには、その頃のぼくはクラス中の女子に嫉妬されていたらしい。
「え・・・?何で嫉妬なの?四之宮くんってそんなにもてるタイプだった?」
四之宮君がしょっちゅうしてくれたお姫さま抱っこは、今でも女子の永遠の憧れなんだそうだ。
それをいつも男の子のぼくがしてもらってた。
しかも見た目がオンナノコミタイだったから、か弱く儚げなお姫さまが、教室でぱたりと倒れるたびに、騎士が姫を保健室に運んで行くようなイメージで皆が見ていたらしかった。
それだけで嫉妬されるのに、十分だったと彼女は言う。
「でも、今の松原君だったら、あたしにも出来るかもしれないな、お姫さま抱っこ。」
「それ全然、嬉しくないよ。佐伯さん。」
「遠慮するな、姫。さあ、わが胸に。」
「ご辞退します、王子さま。」
仲のいい女友達のように、佐伯さんと一緒にそれから何軒も居酒屋を回り、何度も乾杯した。
情けなくも、アルコールに弱いぼくは、少量の酒に酔っ払った挙句、佐伯さんの下宿先で散々洸兄ちゃんが大好きだったと語り、さめざめと泣いてよしよしと慰められたらしい。
いなくなった洸兄ちゃんの寂しさを、理解して佐伯さんは洸兄ちゃんがそうだったように、ぼくの話を長々と聞き、宥めてくれた。
佐伯さんの胸でひとしきりないた後、ぼくはとんでもないことをしでかしたらしい。
信じられない事にぼくは女の子なんだ~!と窓の外に叫び、あっさり意識を手放して、佐伯さんの胸に縋って眠りこけたみたいだった。
信じられない。
何と言う、体たらく・・・
朝、がんがんする頭で薄く目を開けたら、すぐ側にすっぴんの女性の顔があって、ぼくは飛び上がった。
日常では考えられないシチュエーションだった。
「きゃ・・・っ!」
「こらぁ、松原海広!今、あたしのすっぴんを見て、怯えたな。」
「いや、そうじゃなくて。うわ・・・どうしよう・・・ぼく・・・夕べっからここに?」
何か、これ一般の男性的に、すごくまずいことになってません・・・か?
乱れたシーツの皺に呆然として、ぼくはまじまじと佐伯さんを見つめた。
一夜を共にしたとか、そんな感じ・・・?
「佐伯さん、あの・・・ぼく、まさか・・・?」
佐伯さんは、片眉を上げて宣言した。
「酔った挙句と言うのは、お互い認めたくないもんだね、松原君。」
「ひっ・・・」
ぼくの全身から、力が抜けた。
「これも、若さゆえの過ちってやつかね。」
ざっと一気に血の気が引いて、ぼくは情けなくも脳貧血を起こし、コルセットを締めすぎた中世のお姫さまのように、その場にぱたりと倒れ込んだ。
後で考えただけでも、顔から火を噴きそうだった。
しかも・・・
すっぽんぽんで・・・。
きゃあ~・・・みぃくん、何してくれとるの~・・・(@△@;)←脳内で美麗お子さまのみぃくんがっ・・・!
これで、完璧にBLじゃなくなったな・・・と内心焦りまくっておりますが、このお話は元々「(どんな形でも)愛された記憶のある人は、きちんと人を愛することができる」という、文章書きの端くれになる前の大前提が一番色濃く入った作品です。
愛にも色々あるものだねと、思っていただければ幸いです。 ←必死のいいわけ。
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