SとMのほぐれぬ螺旋・19
咽喉の奥に必死で吸い込もうとしてむせ返り、熟れない蒼太の歯が当たった。
蒼太は咽喉元を埋める怒張に苦しみ、泣きながら年上の男を感じていた。
思い切ってねだってみたものの、自分の愛撫では百戦錬磨のこの男を満足させることはできないのだと、思い知っていた。
その証拠に木本の持ち物は角度を失って、無力を責めるようで蒼太を切なくさせた。
木本は自分の晒された太ももに、温かい滴がぱたぱたと落ちたのを感じ、声をかけた。
「どうした?蒼太?」
引きつるような嗚咽が漏れる。
「ご・・めんなさい・・・もう、終わりにさせて下さい。」
「ぼくでは、あなたを満足させてあげられない。どんなにがんばっても、み、充さんはノーマルではイケないんでしょう?正真正銘のサディストなんだもの。」
「わがまま言って、ごめ・・・んなさい・・・」
「蒼太。縄を解いてくれ。目隠しも。」
「もう、おしま・・・いでいい?」
嫌われたくなかった。
一人になりたくなかった。
あなたを知ってしまったから、もう独りでいるのが怖くなった。
それを伝えたくて、蒼太は今日、全身で木本に縋ろうとした。
髪の一本、足のつま先まで、時間をかけてゆっくりと愛する方法が好きなのだと伝えたかった。
ほろほろと、静かに涙がこぼれる。
隼の言うように、たった一つの言葉を伝えようと思ったが、想いが溢れて言葉にならなかった。
好きな相手を満足させられなかった事実だけが、蒼太に突きつけられ気持ちを落ち込ませた。
緩い縄目を解くと、木本が自分で目隠しをとった。
きつい三白眼で、いつもセクスの相手を睨み付けるような木本の目が、どこかやわらかく、見つめられて蒼太は涙が止まらなくなっていた。
「へた・・・くそで、ごめんなさい。」
「ああ。本当に、へたくそなフェラだったな。楽しかったか、蒼太?」
「はい。」
「ちゃんとしたセクス、教えてやるよ。おまえの好きな方法、どうすれば一番感じるのか、言ってみな。」
冷たく突き放されると思ったのに、思いがけなく優しい木本の言葉だった。
「約束だからな。」
「ぼく、本当は、痛いのはいやです。道具を使われるのもいやです・・・・愛してくれるなら、木本さんの身体だけが、いいです。玩具じゃなくて木本さんだけを、い、挿れ・・・てください。」
仕方ね~な~といって、木本は両手で蒼太のねこっ毛をくしゃくしゃと混ぜた。
「おじさんは、身体がもたね~んだよ。高校生なんざ相手にしたらこっちが枯れちまわあ。俺は、12も上なんだぜ。」
「ぼくもすぐに年をとります。あのっ。ぼくが40歳になったら二人ともおじさんだし。」
「そん時は俺は52か?・・・蒼太。いいか、今は俺でもいいけど、いつかちゃんとした相手見つけろ。」
「木本さん・・・?」
「おまえは利口だから、分相応、年相応って言葉知ってるだろ?分かるよな?」
しゅんとうつむいたかと思ったら、蒼太が懐にどんとぶつかってきた。
「お、っと!」
「うっ・・・あぁ~ん・・・」
今度こそ蒼太の涙腺は崩壊して、木本は思いがけない滂沱の涙に唖然としていた。
聞き分けの無い子供のように、泣きじゃくる蒼太が溶け出してきた本心を喚いた。
「だったら、病院になんて来なければ良かった。あのまま見捨ててくれればよかったのに、木本さんは何が怖いの?」
「世間体?年齢差があっちゃいけないの?相応がそんなに重要なの?じゃあ、どうして最初に優しくしたの?」
「愛だって言ったのはみんなうそだったの?ぼくは側にいちゃいけないの?迷惑なの?」
「こ、こんなに好きなのに・・・っ、ぼくの気持ちは、何もっ、充さんに届いてなかったの・・・っ」
「蒼太。」
えぐえぐと引きつるように泣き濡れる恋人に手を差し伸べて、木本は蒼太を懐にきゅと強く抱き込んだ。
「しょうがねぇな。惚れてるから、こんなおじさんから自由にしてやろうと思ったのに。」
「本当に、俺でいいんだな?」
腕の中の潤んだ瞳を上げて、愛してくれと子猫が啼いた。
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