SとMのほぐれぬ螺旋・14
木本は献身的に看病をし、病院でずっと寝泊りをした。
己を捨てた聖職者のように、甲斐甲斐しく蒼太の世話を焼いた。
看護師に身の回りの世話もさせず、汗をかくたびに、何度も身体を拭き着替えをさせた。
熱のせいと入院前の心労で、げっそりと肉の落ちた蒼太の細い身体はずいぶん頼りなかった。
くぼんだ目元に、青い影が落て痛々しい。
心を添わせる前に、強引に開発し身体をつなぐような酷い愛し方をしたのを思い出す。
熱いタオルでそっと鎖骨の上の癒えかけた傷痕をなぞると、小さくうめく。
「蒼太。まだ辛いか?」
薬で熱は大分抑えられたが、夕方と朝方になるとまだ熱が続いていた。
熱で潤んだ頼りない子猫の瞳で、蒼太は細くなった腕を伸ばした。
「うれしい・・・本物だ。」
汗ばんだ額に、口付けを優しく落としておでこををくっつけた。
「まだ、熱あるなぁ。蒼太、ちゃんと飯食わないと、直るの遅いぞ。」
この上なく冷たく自分に別れを告げたはずの年上の恋人に、不思議そうな顔を向けて、じっと見つめる。
「どう・・・して、ここにいるの?」
けじめをつける時期だと思い、愛おしい蒼太にとうとう木本は頭を下げた。
「俺が悪かった、蒼太。余りに大人気ない真似をした。」
「木本さん・・・?どうして、あやまるの。」
「それって、ぼく、そばに居ても、良いってこと・・・?」
「傍にいたいのは、俺のほうだ。」
「えっ・・・?」
蒼太の震える唇が、言葉を重ねた。
「ぼく・・・ね。本当はとてもこわいけど、木本さんが望むなら・・・いいよ。」
「なに・・?」
「ピアッシング・・・。いれたいんでしょう?」と、口にして見つめる瞳は、濡れて光っていた。
「木本さんがそうしたいなら、して。」
「蒼太・・・」
元々、木本の本心は、蒼太にそんなことをするつもりはなかった。
別れるつもりでいたから知り合いを呼び、わざと見せ付けて傷つけるような真似をしただけのことだ。
詫びの言葉の代わりにベッドの下からそっと手を伸ばして、力のない蒼太の細い茎をなぶってやった。
熱のせいで先端も熱を持ち、熱が指先から伝わってくるようだ。
細くなった太ももにもたれかかっているように、ひどく頼りない大人になりかけた少年の容(かたち)。
そっと触れるか触れないかの愛撫にも、弱った蒼太が頭をもたげて応えることはなかったが、声だけは甘くなる。
「・・・ぼくは、全部あなたのものだよ。」
「蒼太。」
何故、ここまで蒼太は無条件に自分を欲するのだろう。
ふと、素朴な疑問が浮かび、口にしてみた。
「おまえは若いし、いくらでも相手を見つけられるのに、何で俺が良いんだ?俺は、おまえにひどいことしかしてないだろう?」
ほろほろと目じりから静かにこぼれた涙が、枕に吸われてゆく。
「愛、してくれたから。」
考えがまとまらなくなって、木本は話の腰を折った。
「まあ、いい。直ったら、ちゃんと話をしような、蒼太。」
濡れた黒曜石のような瞳が、涙で潤んだままじっと木本を見つめていた。
隼の言った、百万回心で繰り返すよりも、大切な一言を告げねばと蒼太は思っていた。
他の誰でもない、あなたが好きなのだとどうしても告げたかった。
********************************************
いつもお読みいただきありがとうございます。
拍手もポチも、励みになっています。
明日も、がんばります。 此花
両思いです~、やった~~。
(´;ω;`) ←感情移入・・・
己を捨てた聖職者のように、甲斐甲斐しく蒼太の世話を焼いた。
看護師に身の回りの世話もさせず、汗をかくたびに、何度も身体を拭き着替えをさせた。
熱のせいと入院前の心労で、げっそりと肉の落ちた蒼太の細い身体はずいぶん頼りなかった。
くぼんだ目元に、青い影が落て痛々しい。
心を添わせる前に、強引に開発し身体をつなぐような酷い愛し方をしたのを思い出す。
熱いタオルでそっと鎖骨の上の癒えかけた傷痕をなぞると、小さくうめく。
「蒼太。まだ辛いか?」
薬で熱は大分抑えられたが、夕方と朝方になるとまだ熱が続いていた。
熱で潤んだ頼りない子猫の瞳で、蒼太は細くなった腕を伸ばした。
「うれしい・・・本物だ。」
汗ばんだ額に、口付けを優しく落としておでこををくっつけた。
「まだ、熱あるなぁ。蒼太、ちゃんと飯食わないと、直るの遅いぞ。」
この上なく冷たく自分に別れを告げたはずの年上の恋人に、不思議そうな顔を向けて、じっと見つめる。
「どう・・・して、ここにいるの?」
けじめをつける時期だと思い、愛おしい蒼太にとうとう木本は頭を下げた。
「俺が悪かった、蒼太。余りに大人気ない真似をした。」
「木本さん・・・?どうして、あやまるの。」
「それって、ぼく、そばに居ても、良いってこと・・・?」
「傍にいたいのは、俺のほうだ。」
「えっ・・・?」
蒼太の震える唇が、言葉を重ねた。
「ぼく・・・ね。本当はとてもこわいけど、木本さんが望むなら・・・いいよ。」
「なに・・?」
「ピアッシング・・・。いれたいんでしょう?」と、口にして見つめる瞳は、濡れて光っていた。
「木本さんがそうしたいなら、して。」
「蒼太・・・」
元々、木本の本心は、蒼太にそんなことをするつもりはなかった。
別れるつもりでいたから知り合いを呼び、わざと見せ付けて傷つけるような真似をしただけのことだ。
詫びの言葉の代わりにベッドの下からそっと手を伸ばして、力のない蒼太の細い茎をなぶってやった。
熱のせいで先端も熱を持ち、熱が指先から伝わってくるようだ。
細くなった太ももにもたれかかっているように、ひどく頼りない大人になりかけた少年の容(かたち)。
そっと触れるか触れないかの愛撫にも、弱った蒼太が頭をもたげて応えることはなかったが、声だけは甘くなる。
「・・・ぼくは、全部あなたのものだよ。」
「蒼太。」
何故、ここまで蒼太は無条件に自分を欲するのだろう。
ふと、素朴な疑問が浮かび、口にしてみた。
「おまえは若いし、いくらでも相手を見つけられるのに、何で俺が良いんだ?俺は、おまえにひどいことしかしてないだろう?」
ほろほろと目じりから静かにこぼれた涙が、枕に吸われてゆく。
「愛、してくれたから。」
考えがまとまらなくなって、木本は話の腰を折った。
「まあ、いい。直ったら、ちゃんと話をしような、蒼太。」
濡れた黒曜石のような瞳が、涙で潤んだままじっと木本を見つめていた。
隼の言った、百万回心で繰り返すよりも、大切な一言を告げねばと蒼太は思っていた。
他の誰でもない、あなたが好きなのだとどうしても告げたかった。
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