ずっと君を待っていた・26
『我は・・・我は、そなたのものだ・・・永久に・・・』
「最後まで、何を血迷っているのだ。往生際の悪い蛇の出来損ないめが!」
「転生など、決して許さぬ!」
刃が直も倒れたオロチの肌を裂き、増えた傷からどっと血飛沫が散った。
「観念して、疾くと死ね。クシナダヒメは、俺の妻にする。」
返り血の血飛沫をしとどに浴びた、恐ろしい姿でスサノオはクシナダヒメをオロチの元から奪い抱き寄せた。
「いやっ!・・・いやぁっ!離してっ!」
「オロチーーーッ!きゃあああっ・・・」
『クシナダ・・・忘れるな、永遠の誓い・・・我は・・・ずっと・・・』
オロチが全て言い終わらぬうちに、止めるクシナダヒメを振り切り、スサノオは直も弱りきったオロチを切り刻んだ。
そこにあるのは、人とも神ともつかないただの肉塊になった。
「ふ・・・ん。これだけ刻めば、いかに霊力が有ろうと、この先数百年は生身になることも叶うまい。」
どっと溢れ流れるオロチの大量の血は、斐伊川に注ぎ込み真っ赤な濁流となった。
「楽しみにして、待つが良い。」
スサノオは、悲しみに打ちひしがれた娘に迫った。
クシナダヒメは呆然として、思い人の血で紅に染まった斐伊川を眺めていた。
背後から抱き寄せられ、強引に口を吸われた。
「待っておれ。高天原で父上、姉上にお会いして、婚礼の許しを貰ってくる。」
返り血を浴びたスサノオは、すさまじい形相でだまし討ちにしたオロチを直も切り刻み続けた。
やがて、中央の尾を裂くと、伝説どおり渦の模様の美しく光る神器の大刀を見つけ手に入れた。
「これが龍神の神器、天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)か、見事なものだ。」
こうして、伝説と違い荒ぶるスサノオは高天原へと意気揚々と神器、天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)を捧げる旅に出たのだった。
意識を失ったような、目を見開いてただ川を見つめるクシナダヒメの姿がそこにあった。
呆然とするクシナダヒメ・・・
目の前で起きた惨劇が、信じられなかった。
体内に隠した海神の神器も奪われ、空と大地は哀れな龍王の皇子を思って泣いた。
尾に隠した神器を奪われたオロチは、霊力を失いほんの小さな子蛇となって草の影で、今にも死にそうになって横たわっている。
ほろほろと涙を流すクシナダヒメの姿に、全てを悟った両親は哀れを感じ、そっと動かぬ子蛇の元へと誘った。
「オロチ・・・オロチ・・・許して。」
霊力を失った大蛇は、龍神の元へも帰れずこのまま地を這う口縄(蛇)となり、このままたった一人霊力が戻るまで生きてゆくしかない。
これから龍神の力を得るには、再び気の遠くなる修行と年月がかかるだろう。
クシナダヒメは、哀れな子蛇をそっと胸に抱くと頬を寄せた。
「オロチに注ぐ禍が、全てわたくしに注ぐようにと願ってきたのに・・・」
「わたくしへの禍が、オロチに降り注いでしまった。」
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