SとMのほぐれぬ螺旋・16
蒼太の思い人は、ついに自分に陥落し、本当は心から大切に思っていると本心を打ち明けてくれたのだった。
嬉しさで舞い上がり、身震いしそうだ。
熱さえなければすぐにも全身でぶつかってゆけるのに、まだ話をすると酷く疲れるのが悔しかった。
何故、木本がずっと病院に居るのか、看病してくれるのは何故なのか聞きたかった答えを貰った気がした。
「蒼太。俺が悪かった、俺にできることなら何でもするから、許してくれ。」
熱で潤む瞳の奥で、蒼太はついに木本を手に入れた。
「・・・木本さん。何でもしてくれる?ほんとう?」
「ああ。元気になったらなんでもしてやる。約束する。だから、早く良くなれ。」
蒼太はこれまで木本が見たことも無かったような、蕩(とろ)ける極上の笑みを嫣然と浮かべた。
まだ熱い身体を、木本に預けて小さく呟いた。
「ぼく・・・木本さんを、抱きたい。」
木本が思わず目をひん剥いて、問う。
信じられないという顔を向けた。
「おまえが・・?」
「そう。蝋燭の火の揺れる中で、あなたを縛ってみたい・・・。」
「きっと、綺麗だよ・・・すごく。」
言葉を失って木本は、寝台に黙って横たわる蒼太を見つめ本気かと問うた。
頬がこけた蒼太の小さな顔は、一回り又小さくなった気がする。
子猫のようだと思った瞳が、すうっと細く艶を含んで微笑むと三日月になった。
囚われてしまったのは、もしかすると自分のほうかもしれないと木本は腹をくくった。
再び、酷い咳に襲われた最愛の恋人の姿に、木本はもう断るすべを持たなかった。
背中をさすってやりながら、木本は約束した。
「わかった。おまえが望むなら、なんでも叶えてやる。」
「うれしい・・・」
露の宿った瞳が切なげに細められた。
そして・・・
郊外の畦に、曼珠沙華が紅く群れる頃、蒼太は退院した。
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