星月夜の少年人形 32
塔矢は病室の外で、じっと大人しく優月を待っていた。
突然、優月がいなくなった心細さを思い出し、もう二度と放さないと思っている様に、固くつないだ手を放そうとしなかった。
「兄ちゃん。お父さんとお母さんの所行く?」
「うん。お父さんたち、お爺さんの所で待ってるんだね。塔矢と一緒に行くよ。」
塔矢は優月の手にぶら下がるようにしていた。
「では、お送りします。」と、目元を赤くした榊原が先を行く。榊原が誰よりも大切に思っている社長の土光聖悟は、病床にありながらもどうやら全てを理解していたようだ。
リハビリに励み、この先も自分と共に仕事ができる喜びを語った土光聖悟に、これまで通り右腕として変わらぬ忠誠を誓うつもりだった。
*******
祖父の家の玄関をくぐった優月は、一つの決心をしていた。両親に会ったら、きちんと告げるつもりだった。
「優月。元気そうね?二か月も放ったらかしになってしまって、ごめんなさいね。」
優月は思わず、吹き出してしまった。
「お母さん・・・ぼく、まだ妹にも逢わせてもらっていないんだけど。」
「あら、そうだったわ。ごめんね~。」
今更のように驚いた風で、母は「見て、見て。」と、小さな籠に眠る赤ん坊を指差した。
「笑っちゃうわよ~。優月の小さなころと、塔矢くんの小さなころを足して割ったような顔してるの。ほら・・・ご対面ね。」
「可愛いなぁ・・・。ほんとだ、塔矢によく似てる!目とかまん丸だ。名前はなんていうの?」
どこか照れくさそうに父が、名前を告げた。
「僕の名前の紘二の紘の字と、お母さんの美晴の美を取ってね。美紘(みひろ)って言う名前にしたんだ。美しい世界って言う意味なんだ。」
「へえ、そんな意味があるんだ。抱いてもいいかな?美紘・・・ちゃん。」
「勿論。」と、父は明るく息子に抱き上げた娘を渡し「美紘。ほら、お兄ちゃんだよ。」とささやいた。優月の手の中に渡された妹は、塔矢によく似た目を大きく見開いて見えているのかどうか、じっと優月を見ていた。
「美紘ちゃん。お兄ちゃんだよ。早く大きくなって、一緒に遊ぼうね。」
「遊ぶ~。」
「塔矢。うん、みんなで遊ぼうね。」
幸せな家族の風景がそこにあった。土光会長に対面した優月は、テレビで見知っていたはずの人が、思っていたよりも小柄な老人だったのに驚いていた。
どこか寂しげに見える老人に、優月は声を掛けた。
「あの、おじいさん…ってお呼びしても構いませんか?」
「ああ・・・。」
「おじいさん。ぼく、お願いがあります。」
「なんだ?」
優月は、両親にも聞いてほしいと声を掛けた。
「華桜陰高校に、このまま通いたいんです。今のまま、元の高校に復学するのも可能だと思うけど、逃げないでもう少し頑張ってみたいと思うから。」
「本気なの?優月。あの学校にあなたが向いているとは、とても思えないんだけど・・・。」
「勉強ばっかりだからね。でもね、入ってみて分かったことがあるんだ。進路を考えるのに華桜陰だと、すごく選択肢が広がる気がするんだよ。もちろん、勉強は半端なく大変だし、榊原さんが語学の勉強をこれまでどうりしろって言うなら、落ちこぼれ間違いなしなんだけど・・・。」
優月はちらと、榊原を見やった。
「語学の方は、週二くらいで手を打ちますよ。できれば、わたしも優月君には華桜陰高校で勉強を続けてほしいです。会社の跡を継ぐのは別の話として・・・いかがですか?」
話を向けられて、両親は顔を見合わせた。
(`・ω・´) 話がここまで進んできました。
後、エピソードひとつです!
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コメント、感想等もお待ちしております。 此花咲耶
突然、優月がいなくなった心細さを思い出し、もう二度と放さないと思っている様に、固くつないだ手を放そうとしなかった。
「兄ちゃん。お父さんとお母さんの所行く?」
「うん。お父さんたち、お爺さんの所で待ってるんだね。塔矢と一緒に行くよ。」
塔矢は優月の手にぶら下がるようにしていた。
「では、お送りします。」と、目元を赤くした榊原が先を行く。榊原が誰よりも大切に思っている社長の土光聖悟は、病床にありながらもどうやら全てを理解していたようだ。
リハビリに励み、この先も自分と共に仕事ができる喜びを語った土光聖悟に、これまで通り右腕として変わらぬ忠誠を誓うつもりだった。
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祖父の家の玄関をくぐった優月は、一つの決心をしていた。両親に会ったら、きちんと告げるつもりだった。
「優月。元気そうね?二か月も放ったらかしになってしまって、ごめんなさいね。」
優月は思わず、吹き出してしまった。
「お母さん・・・ぼく、まだ妹にも逢わせてもらっていないんだけど。」
「あら、そうだったわ。ごめんね~。」
今更のように驚いた風で、母は「見て、見て。」と、小さな籠に眠る赤ん坊を指差した。
「笑っちゃうわよ~。優月の小さなころと、塔矢くんの小さなころを足して割ったような顔してるの。ほら・・・ご対面ね。」
「可愛いなぁ・・・。ほんとだ、塔矢によく似てる!目とかまん丸だ。名前はなんていうの?」
どこか照れくさそうに父が、名前を告げた。
「僕の名前の紘二の紘の字と、お母さんの美晴の美を取ってね。美紘(みひろ)って言う名前にしたんだ。美しい世界って言う意味なんだ。」
「へえ、そんな意味があるんだ。抱いてもいいかな?美紘・・・ちゃん。」
「勿論。」と、父は明るく息子に抱き上げた娘を渡し「美紘。ほら、お兄ちゃんだよ。」とささやいた。優月の手の中に渡された妹は、塔矢によく似た目を大きく見開いて見えているのかどうか、じっと優月を見ていた。
「美紘ちゃん。お兄ちゃんだよ。早く大きくなって、一緒に遊ぼうね。」
「遊ぶ~。」
「塔矢。うん、みんなで遊ぼうね。」
幸せな家族の風景がそこにあった。土光会長に対面した優月は、テレビで見知っていたはずの人が、思っていたよりも小柄な老人だったのに驚いていた。
どこか寂しげに見える老人に、優月は声を掛けた。
「あの、おじいさん…ってお呼びしても構いませんか?」
「ああ・・・。」
「おじいさん。ぼく、お願いがあります。」
「なんだ?」
優月は、両親にも聞いてほしいと声を掛けた。
「華桜陰高校に、このまま通いたいんです。今のまま、元の高校に復学するのも可能だと思うけど、逃げないでもう少し頑張ってみたいと思うから。」
「本気なの?優月。あの学校にあなたが向いているとは、とても思えないんだけど・・・。」
「勉強ばっかりだからね。でもね、入ってみて分かったことがあるんだ。進路を考えるのに華桜陰だと、すごく選択肢が広がる気がするんだよ。もちろん、勉強は半端なく大変だし、榊原さんが語学の勉強をこれまでどうりしろって言うなら、落ちこぼれ間違いなしなんだけど・・・。」
優月はちらと、榊原を見やった。
「語学の方は、週二くらいで手を打ちますよ。できれば、わたしも優月君には華桜陰高校で勉強を続けてほしいです。会社の跡を継ぐのは別の話として・・・いかがですか?」
話を向けられて、両親は顔を見合わせた。
(`・ω・´) 話がここまで進んできました。
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