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星月夜の少年人形 22 

冷たい爬虫類の虹彩が光り、非力な獲物を追い詰めていた。
優月は無言で、シティホテルの住所を握り締め、男の前から退出しようとした。この男と何か会話を交わすと、無力を思い知るばかりのような気がしていた。

「ああ、優月君。ちょっと待ってください。買い物があるでしょう?すぐに必要なものは揃えてあるはずですが、足りない物がありましたら、こちらのカードをお使いになってください。」

「はい・・・。」

少しくらいのお金は、郵便局のカードを持って来たから大丈夫ですと言いたかったが、優月はこの男に何を話しても無駄だと思い、言葉を飲み込んだ。きっと、優月のちっぽけな価値観は、何を言っても、この場でこの男に一笑に付されて終わるだろう。
真意は分からないが男からは、優月が過ごして来たこれまでのすべてを、消し去ってしまいたいと思っているに違いないと思えるほどの悪意を感じていた。

「・・・このホテルに行ってみます。・・・あの、色々と、ありがとうございました。」

ふっと、意外にも男は薄く笑みを浮かべた。

「そんな無理は、いいんですよ。意地悪なわたしを憎むことで、少しでもやる気が出るのならね。思ったよりも強いんですね、優月君は。見た目よりもはるかに、芯が強いのはやはり美晴さんの血を引いているという事なのかな・・・?」

「母をご存知なんですか?」

「ええ、よく存じ上げておりますよ。何しろ、わたしの遅い初恋の方でしたからね。」

冗談とも本気ともつかない男の言葉を、優月は真に受けた。もしかすると、そんなこともあったのかもしれない。優月には余りに知らないことが多すぎた。

*******

その頃、優月の父は、重い気分で病院にいた。

身重の妻、美晴に優月が「自分から進んで」出て行った話をしなくてはならなかった。優月のところに来た弁護士と妻子に、どういうつながりがあるのか聞かねばならない。出会ったころ、妻は優月と二人きり肩を寄せ合って生きて来たのと語っていた。
美しい笑顔の美晴と結婚したとき、参列者の中に彼女の身内は一人もいなかったのを思い出す。身内の話は、互いに遠慮して不思議としたことがなかったと・・・。
温かい手作りの結婚式で、半身と巡り合った二人は永遠の愛を誓い、神村は得た家族を一生自分の手で守ると厳かに誓った。

ただそれだけでよかったのに、平和な家庭は今や砂上の楼閣のように、何者かの一薙ぎで崩れ去ろうとしている。神前で必ず守ると誓った息子に、一体何が起きているのかわからない父もまた、思いつめた瞳をしていた。
普段の生活の中で慣れた我慢に、また一つ我慢を重ねようとしている優月が心配でならなかった。

*******

ホテルの一室は、優月にはどこかよそよそしく見えた。
ハンガーに掛けられた、私立華桜陰高校の制服は、卒業した有名なデザイナーが手掛けたもので公立高校の制服しか知らない優月には派手に見えて、袖を通すのは面映ゆい気がする。
クラスの女子が、週刊誌に載った有名私立制服ランキングの話をしていた。そこに有った気がする。

「これ・・・って、派手だよね~。」

それでも明日からは、この青い制服を着ることになる。まるで戦闘服のように、身につけて優月は戦士になる・・・つもりだった。
だが、優月の決心は登校一日目にして、あえなく挫折することになる。有数の進学校である華桜陰高校の授業に、優月は初日から付いて行けなかった。

顧問弁護士は、土光財閥が理事を務める進学校の特進クラスに、学力の及ばない優月を強引に入れた。
季節外れの転入生に、級友たちは誰も興味を持たず、詮索されないのはむしろありがたかったが恐ろしいほどの疎外感を感じていた。
公立高校では、それほど苦労をしなくても上位に位置していた成績も、あまりにもレベルが違いすぎ惨憺たる有様だった。

結果が全ての毎日に、優月の精神は疲れてゆく。




(ノ_・。) 「つ…疲れちゃったよ・・・、優成さん・・・。」

(`・ω・´)「優月くん、帰って来~い!」


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4 Comments

此花咲耶  

けいったんさま

> 魔蛇弁護士の 脅迫的な言動でも 疲れちゃうのにーーヽ(`Д´)ノ

ヾ(。`Д´。)ノ「くそぉ~~~、榊原~~~!!」
>
> 慣れない環境、自分のレベルとは程遠いクラスに ヘトヘト~

がんばってるんですけど、大変そうです。此花は、日本語も怪しいです! (`・ω・´)
>
> 家族に会えない淋しさ、優成に会えない辛さ
> 優月が 壊れていくよ~_ノフ○ グッタリ...byebye☆

優成のほうがやつれているみたいです。どうなりますやら・・・
コメントありがとうございました。うれしかったです。(*⌒▽⌒*)♪

2011/06/02 (Thu) 21:07 | REPLY |   

けいったん  

魔蛇弁護士の 脅迫的な言動でも 疲れちゃうのにーーヽ(`Д´)ノ

慣れない環境、自分のレベルとは程遠いクラスに ヘトヘト~

家族に会えない淋しさ、優成に会えない辛さ

優月が 壊れていくよ~_ノフ○ グッタリ...byebye☆

2011/06/02 (Thu) 12:59 | REPLY |   

此花咲耶  

senngikumaruさま

> あの魔神の手先である蛇弁護士によって、精神が崩壊しつつある優月。

(´・ω・`) …まだ、大丈夫。ちょっと疲れてしまっただけだから…←優月
>
> 自らの出生の秘密に戸惑い、家族と引き離された彼の辿りつく先はどうなるんでしょうか?

ね~、どうなるんでしょう・・・(´・ω・`) ←書いといて。

> これ以上彼が悲惨な目に遭いませんように・・。

王道目指して頑張ります!(`・ω・´)←本気らしい・・・

コメントありがとうございました。うれしかったです(*⌒▽⌒*)♪

2011/06/02 (Thu) 10:22 | REPLY |   

千菊丸  

嗚呼・・

あの魔神の手先である蛇弁護士によって、精神が崩壊しつつある優月。

自らの出生の秘密に戸惑い、家族と引き離された彼の辿りつく先はどうなるんでしょうか?

これ以上彼が悲惨な目に遭いませんように・・。

2011/06/01 (Wed) 21:42 | EDIT | REPLY |   

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