星月夜の少年人形 26
満天の星空。
ゆっくりと星々が廻ってゆく。
優月はじっと天井を見つめていた。
優生のところで見た、小さなプラネタリウムが偽りの天体を映し出している。
「気が付いたか?」
声の方を見ることなく、優月はじっと星空を見つめ、静かに涙は目尻を滑り零れ落ちていた。声をあげる方法を忘れたように、どこかに感情を忘れたように長い間、顔を覆うこともなく優月は泣いていた。
「おまえ、綺麗な顔してるのな。そういう泣き方してると、後で頭痛くなるからやめといた方が良いぞ。」
そう言われて、やっと優月は自分が泣いているのに気付いた。起き上がると、軽く眩暈がした。
「ほら、急に起き上がったら危ないって。」
そこでやっと、優月は我に返ったように声の主に顔を向けた。
「・・・あの・・・ここ、どこですか?ぼく、どうして・・・何か、ご迷惑をお掛けしたんでしょうか?」
優月の顔を覗き込んだ少年が、ついとおでこに手を当てて「やっぱり、熱があるみたいだよ~。」と、奥の部屋に声を掛ける。
「ね?寒気する?」と聞かれて、素直に頷いた。
風邪気味だとは思っていたが、熱があるのに気が付いていなかった。そこへ、緊張しながら濃厚な中華料理を食したりしたから、胃が驚いたのだろうか。そういえば、朝食も欲しくなかったし昼食も摂っていなかった。
「ほら、熱があるならこの方が良いだろ?」
「あ、ありがとうございます・・・。」
粥の入った椀を渡された。掬った優しい塩味が、胃に滲みてゆく気がした。
白米の底に、梅干しが入っているのを見て、優月は洟をすすった。風邪を引いたとき、母が作ってくれたものと同じだった。
椀を持ったまま俯いてしまった優月の頭を、白粥を作ったらしい男がぐしゃぐしゃと撫でた。
*******
アパートのようだが、どこか違うような気がして優月は聞いた。
兄弟のように見えるが、住人は似ていない気がする。
「ここは、君たちの家なの?」
優月の質問に、同じ年くらいの少年が答えた。
「ここは、俺ら「星月夜」のアジトなんだ。俺らは、花村さんの「少年人形」って呼ばれている。」
「少年・・・人形・・・?」
聞いたことの無い言葉だった。
「君も仲間に入る?君なら大歓迎だけど・・・なんてね。」
くすっと笑う少年は、なるほど人形と言われても不思議ではないほどの、綺麗な顔をしていた。「喋りすぎだ、桃李(とうり)。」と、年かさの青年が少年のおでこを指で弾いた。
「痛――いっ!何するんだよぉーっ!」
どこか子供っぽい桃李が、大げさに騒ぐ。
声を上げて笑う少年を、年上の少年がくすぐった。
「電話してやろうか?」
桃李が言うのに、思わず肯いてしまう。初めて会った、快活な少年と別れがたかったのかもしれない。クラスメイトは皆同じような顔をしていて、優月はクラスになかなか馴染めなかった。
「携帯は?」と聞かれて取り出したものには、榊原と数人の家庭教師、学校の電話番号敷か入っていない。
「これ、家電?」
首を振る優月に、にっと笑って名前を聞きボタンを押した。
「初めまして。神村君の友人の矢口桃李です。久しぶりに会ったので話していたんですけど、神村君は風邪薬飮んで眠ってしまって・・・あ、家族ですか?母はまだ仕事なんですけど…父と代わります。」
「ちょっ・・・はい、桃李の・・・父です。ご心配でしたら、車で送りますけど…はい、では、明日、昼前にはお送りしますので。え・・・?こちらの電話番号ですか?」
それ以上の迷惑を掛けないように、優月は傍らから手を伸ばした。
「優月です。途中で席を外したきり、すみませんでした。気分が悪くなって外で休んでたら矢口君に会って・・・風邪薬を貰って飮みましたから、もう大丈夫です。はい、このまま休ませてもらいます。」
嘘は言って無いと思いながら、榊原に告げて優月は深いため息を吐いた。父と言われて、年上の少年が桃李にぐりぐりと拳骨を入れ、桃李は大げさに喚いた。
「大人げないぞ~~!!」
「4つしか違わんのに、何が父ちゃんだ、この野郎!」
「きゃ~!、優月助けてーっ!」
久しぶりに優月は声を上げて笑った。
疲れていた優月は、子供っぽい会話が普通に楽しかった。
(´・ω・`) や、やっとタイトルが出てきました~
拍手もポチもありがとうございます。
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コメント、感想等もお待ちしております。 此花咲耶
ゆっくりと星々が廻ってゆく。
優月はじっと天井を見つめていた。
優生のところで見た、小さなプラネタリウムが偽りの天体を映し出している。
「気が付いたか?」
声の方を見ることなく、優月はじっと星空を見つめ、静かに涙は目尻を滑り零れ落ちていた。声をあげる方法を忘れたように、どこかに感情を忘れたように長い間、顔を覆うこともなく優月は泣いていた。
「おまえ、綺麗な顔してるのな。そういう泣き方してると、後で頭痛くなるからやめといた方が良いぞ。」
そう言われて、やっと優月は自分が泣いているのに気付いた。起き上がると、軽く眩暈がした。
「ほら、急に起き上がったら危ないって。」
そこでやっと、優月は我に返ったように声の主に顔を向けた。
「・・・あの・・・ここ、どこですか?ぼく、どうして・・・何か、ご迷惑をお掛けしたんでしょうか?」
優月の顔を覗き込んだ少年が、ついとおでこに手を当てて「やっぱり、熱があるみたいだよ~。」と、奥の部屋に声を掛ける。
「ね?寒気する?」と聞かれて、素直に頷いた。
風邪気味だとは思っていたが、熱があるのに気が付いていなかった。そこへ、緊張しながら濃厚な中華料理を食したりしたから、胃が驚いたのだろうか。そういえば、朝食も欲しくなかったし昼食も摂っていなかった。
「ほら、熱があるならこの方が良いだろ?」
「あ、ありがとうございます・・・。」
粥の入った椀を渡された。掬った優しい塩味が、胃に滲みてゆく気がした。
白米の底に、梅干しが入っているのを見て、優月は洟をすすった。風邪を引いたとき、母が作ってくれたものと同じだった。
椀を持ったまま俯いてしまった優月の頭を、白粥を作ったらしい男がぐしゃぐしゃと撫でた。
*******
アパートのようだが、どこか違うような気がして優月は聞いた。
兄弟のように見えるが、住人は似ていない気がする。
「ここは、君たちの家なの?」
優月の質問に、同じ年くらいの少年が答えた。
「ここは、俺ら「星月夜」のアジトなんだ。俺らは、花村さんの「少年人形」って呼ばれている。」
「少年・・・人形・・・?」
聞いたことの無い言葉だった。
「君も仲間に入る?君なら大歓迎だけど・・・なんてね。」
くすっと笑う少年は、なるほど人形と言われても不思議ではないほどの、綺麗な顔をしていた。「喋りすぎだ、桃李(とうり)。」と、年かさの青年が少年のおでこを指で弾いた。
「痛――いっ!何するんだよぉーっ!」
どこか子供っぽい桃李が、大げさに騒ぐ。
声を上げて笑う少年を、年上の少年がくすぐった。
「電話してやろうか?」
桃李が言うのに、思わず肯いてしまう。初めて会った、快活な少年と別れがたかったのかもしれない。クラスメイトは皆同じような顔をしていて、優月はクラスになかなか馴染めなかった。
「携帯は?」と聞かれて取り出したものには、榊原と数人の家庭教師、学校の電話番号敷か入っていない。
「これ、家電?」
首を振る優月に、にっと笑って名前を聞きボタンを押した。
「初めまして。神村君の友人の矢口桃李です。久しぶりに会ったので話していたんですけど、神村君は風邪薬飮んで眠ってしまって・・・あ、家族ですか?母はまだ仕事なんですけど…父と代わります。」
「ちょっ・・・はい、桃李の・・・父です。ご心配でしたら、車で送りますけど…はい、では、明日、昼前にはお送りしますので。え・・・?こちらの電話番号ですか?」
それ以上の迷惑を掛けないように、優月は傍らから手を伸ばした。
「優月です。途中で席を外したきり、すみませんでした。気分が悪くなって外で休んでたら矢口君に会って・・・風邪薬を貰って飮みましたから、もう大丈夫です。はい、このまま休ませてもらいます。」
嘘は言って無いと思いながら、榊原に告げて優月は深いため息を吐いた。父と言われて、年上の少年が桃李にぐりぐりと拳骨を入れ、桃李は大げさに喚いた。
「大人げないぞ~~!!」
「4つしか違わんのに、何が父ちゃんだ、この野郎!」
「きゃ~!、優月助けてーっ!」
久しぶりに優月は声を上げて笑った。
疲れていた優月は、子供っぽい会話が普通に楽しかった。
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