星月夜の少年人形 24
優月がいなくなって二か月たち、優月の母は、やや早産ではあったが可愛い女の子を出産した。楽しみにしていた優月が知れば、どんなにか喜ぶだろうかと思う。
母は過去へ繋がる場所へ電話をかけた。
「美晴です。はい、ご無沙汰しております。土光の娘です。」
美晴は電話口で相手をおばさまと呼んでいた。電話の向こうで華やいだ声がやがて嗚咽に変わった。ずっと行方が分からなかった姪の久しぶりの声に咽んだ。
「おばさま、教えていただきたいことがあるの。優月の様子を知りたいの。何の連絡もなくて・・・。ニュースで見たけど、お兄様のお具合は・・・?そう、小康状態なのね、良かった。」
神村は、妻が棄てて来た、余りに大きな実家の名前に驚いていた。美晴は確かに群を抜いて美しい女性だったが、スーパーでレジを打ち笑顔を向けていた姿からは、深窓のお嬢様を想像するのは難しかった。
「・・・君は、すごいお嬢様だったんだな。」
悪びれずに、「天涯孤独だと嘘を言ってごめんなさい。」と、美晴は頭を下げた。
「今度のことは、兄が倒れたから起こったことなの。後継者として優月に白羽の矢が立ったのだと思うわ。お父様には、創業者として会社への思いがすごくおありだから・・・。きっと、焦ったのね。」
どこか優月と塔矢に似た赤ん坊が、ふぇ・・・とぐずった。
塔矢はお兄ちゃんになったから、もう泣かないことにしたと宣言し、妹の世話を焼いていた。自分が兄にしてもらったように、今度は自分が妹を守る気でいるらしい。
それでも、布団に入ると兄が恋しくて涙が出た。母が病院から帰り、親子三人川の字に並んで眠っていても、塔矢は寝言で優月を呼んだ。
「にいちゃん・・・お弁当・・・一番だった~・・・。」
夢の中で空っぽのお弁当箱を振り回し、兄を呼ぶ塔矢の言葉を幾度聞いただろう。
絶対に取り戻すと、神村は唇を噛んだ。
*******
優月がいなくなってから、羽藤優成の仕事は以前にもまして順調だった。忙しい仕事の合間に時間を作って、たまに優成は優月が新しく通っているらしい高校の正門の様子を車中から眺めるようになっていた。
一度でいい、優月の姿を見たら安心できる、そう思った。
誰にも相談せずに自分で全て決めた優月に、それで良かったのか?と、聞いてやりたかった。思いつめた瞳に気付かずに、一人行かせてしまったことをわびたかった。
ハンドルにもたれて、数分もしない内に、気忙しいアラームが先方と会う時間を告げる。
すぐ傍にいても会えないもどかしさに、優成は焦れた。
*******
羽藤優成が車内でため息を吐いたころ、優月は夕食を共にしましょうと、榊原から呼び出されていた。断る理由を考えているうちに、家庭教師が来てしまい、優月はそのまま出かける羽目になった。
「中華にしましたよ。その方がお好きらしいと、ホテルのシェフに聞きましたから。」
「はい。・・・ありがとうございます。」
優月は決められた台詞のように、礼を口にし頭を下げた。
本当は好き嫌いなど、何もなかった。テーブルマナーに気を使いながら、食するのが億劫だっただけだ。
母と二人の貧しい暮らしが長かった優月はナイフやフォークはファミレスで知ったくらいだったから・・・。
一度、フレンチレストランで食事をしたとき、外側から順番に使えばいいだけなんですがね・・・呟くように言われた嫌味が今も抜けない棘のように、優月のどこかに刺さっていた。自分の何もかもが榊原の気に入らず、神経を逆なでしているのだろうと思う。
見つめられながら共に食事をするのが、苦痛だった。
今の優月は、英語と韓国語以外は思うように習得できていない。しかも、学校の成績は最悪だった。
これまで公立高校で、10番以下を取ったことの無かった優月の中間考査の成績は、後ろから数えて4番目だった。
優月は成績表を取り出すと、何も言わずに榊原に手渡した。
( -ω-)y─┛~~~~「ほ~・・・中間テストは、後ろから4番目ですか。」
(ノ_・。) 「だって・・・。」
拍手もポチもありがとうございます。
励みになりますので、応援よろしくお願いします。
コメント、感想等もお待ちしております。 此花咲耶
母は過去へ繋がる場所へ電話をかけた。
「美晴です。はい、ご無沙汰しております。土光の娘です。」
美晴は電話口で相手をおばさまと呼んでいた。電話の向こうで華やいだ声がやがて嗚咽に変わった。ずっと行方が分からなかった姪の久しぶりの声に咽んだ。
「おばさま、教えていただきたいことがあるの。優月の様子を知りたいの。何の連絡もなくて・・・。ニュースで見たけど、お兄様のお具合は・・・?そう、小康状態なのね、良かった。」
神村は、妻が棄てて来た、余りに大きな実家の名前に驚いていた。美晴は確かに群を抜いて美しい女性だったが、スーパーでレジを打ち笑顔を向けていた姿からは、深窓のお嬢様を想像するのは難しかった。
「・・・君は、すごいお嬢様だったんだな。」
悪びれずに、「天涯孤独だと嘘を言ってごめんなさい。」と、美晴は頭を下げた。
「今度のことは、兄が倒れたから起こったことなの。後継者として優月に白羽の矢が立ったのだと思うわ。お父様には、創業者として会社への思いがすごくおありだから・・・。きっと、焦ったのね。」
どこか優月と塔矢に似た赤ん坊が、ふぇ・・・とぐずった。
塔矢はお兄ちゃんになったから、もう泣かないことにしたと宣言し、妹の世話を焼いていた。自分が兄にしてもらったように、今度は自分が妹を守る気でいるらしい。
それでも、布団に入ると兄が恋しくて涙が出た。母が病院から帰り、親子三人川の字に並んで眠っていても、塔矢は寝言で優月を呼んだ。
「にいちゃん・・・お弁当・・・一番だった~・・・。」
夢の中で空っぽのお弁当箱を振り回し、兄を呼ぶ塔矢の言葉を幾度聞いただろう。
絶対に取り戻すと、神村は唇を噛んだ。
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優月がいなくなってから、羽藤優成の仕事は以前にもまして順調だった。忙しい仕事の合間に時間を作って、たまに優成は優月が新しく通っているらしい高校の正門の様子を車中から眺めるようになっていた。
一度でいい、優月の姿を見たら安心できる、そう思った。
誰にも相談せずに自分で全て決めた優月に、それで良かったのか?と、聞いてやりたかった。思いつめた瞳に気付かずに、一人行かせてしまったことをわびたかった。
ハンドルにもたれて、数分もしない内に、気忙しいアラームが先方と会う時間を告げる。
すぐ傍にいても会えないもどかしさに、優成は焦れた。
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羽藤優成が車内でため息を吐いたころ、優月は夕食を共にしましょうと、榊原から呼び出されていた。断る理由を考えているうちに、家庭教師が来てしまい、優月はそのまま出かける羽目になった。
「中華にしましたよ。その方がお好きらしいと、ホテルのシェフに聞きましたから。」
「はい。・・・ありがとうございます。」
優月は決められた台詞のように、礼を口にし頭を下げた。
本当は好き嫌いなど、何もなかった。テーブルマナーに気を使いながら、食するのが億劫だっただけだ。
母と二人の貧しい暮らしが長かった優月はナイフやフォークはファミレスで知ったくらいだったから・・・。
一度、フレンチレストランで食事をしたとき、外側から順番に使えばいいだけなんですがね・・・呟くように言われた嫌味が今も抜けない棘のように、優月のどこかに刺さっていた。自分の何もかもが榊原の気に入らず、神経を逆なでしているのだろうと思う。
見つめられながら共に食事をするのが、苦痛だった。
今の優月は、英語と韓国語以外は思うように習得できていない。しかも、学校の成績は最悪だった。
これまで公立高校で、10番以下を取ったことの無かった優月の中間考査の成績は、後ろから数えて4番目だった。
優月は成績表を取り出すと、何も言わずに榊原に手渡した。
( -ω-)y─┛~~~~「ほ~・・・中間テストは、後ろから4番目ですか。」
(ノ_・。) 「だって・・・。」
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