露草の記 (壱) 11
「そうだな。まずは取り急ぎ、義兄上を見舞う事にしよう。風邪の具合はどうだ?義兄上が文を寄越すなど滅多にないから驚いたぞ。」
「頑健な父上が、此度の病には難儀しております。叔父上をお呼びになったのは、きっと御心細くなられたのでしょう。お医師は、風邪の性質の悪いものではないかと言っておりますが……、わたしは、お見舞いしたいのですが、合わせていただけないのです。」
「そうか。大事な嫡男に、流行病がうつっては大変だからなぁ。まあ、案ずるな。先にわたしが様子をうかがって来よう。秀佳はそれからだ。」
「……はい。」
父しか頼るものがない秀佳の心細そうな顔に、兼良は気付いた。
「義兄上床上げの後は、いよいよ元服の義じゃな、秀佳。」
「はい、叔父上。秀佳も来年はいよいよ13歳になりまする。」
「そうじゃ、これから月代を剃ってやろうか。」
「え……?叔父上が?」
「なんじゃ、その不満げな物言いは。槍を持たせたら天下無双と言われて居る腕前ぞ。」
「槍で剃るのではありませぬよ、叔父上。」
「違いない。」
結局、秀佳は快活に笑う叔父の前に、素直に頭を差し出した。
「何やら、一気に大人になった気がいたしまする。」
「何なら、このまま前髪もばっさり落とすか?」
「駄目です。」
叔父の手で綺麗に丸く剃られた月代を鏡に写して、頬を染めた秀佳であった。まだ前髪を落としてはいないが、早く初陣を飾り、家中の者に一人前と認められたかった。
叔父が自ら、烏帽子親になってくれると約束してくれた賑やかな夕餉に、秀佳は浮き立つ気分だった。懐かしい故郷の食事に、兼良も上機嫌だった。
そして、夕宴の最中にとんでもない事件は起こる。
和やかな雰囲気に、老臣秋津も秀佳も、兼良すらも油断してしまったのかもしれない。
これまで重々気をつけていたはずなのに、今日に限って毒見役を通すのを忘れた秀佳は、自分の手が意思とは関係無く震えるのに気がついた。
「……あ……っ。」
手元から、ころりと椀が転がり落ちた。
「お……じう……え、し、たが痺れ……。」
「あっ!!秀佳っ!」
「う、うぇーーーっ……」
突然の激しい吐き気と麻痺が秀佳を襲う。
倒れ込んだ秀佳に、傍に控えていた腰元が高い悲鳴をあげた。
「きゃあーーーっ。若さまーーっ!」
その場にどっと突っ伏して、秀佳は痙攣した。
「秀佳っ!?いかがしたっ!?」
控えていた於義丸がすぐに走りより、傍らの急須を取り上げると口に含み、秀佳の喉元に流し込んだ。
どっと溢れる吐瀉物も気にせず、何度も茶を飲ませると次は、秀佳の喉に細い指を無理やりに突っ込んで吐かせようとする。
「これっ!於義丸っ!若さまに何をする!すぐにお医師を呼ぶから、触るでない!余計なことを致すなっ。」
守役の秋津に止められても、腕を振り切って、何度も口移しに含ませては指を突き入れた。がぼがぼと秀佳が胃の内容物を吐いた。
「待て、秋津!こやつは秀佳の胃の腑の中身を、全部吐かせるつもりなのだ。毒を洗い流すのだな?」
於義丸はそうだと頷いた。
顔色を変え、大きく何度も必死に頷く様子に、叔父は納得して給仕の小姓に、急須ではなく手桶で水を汲んでこいと怒鳴った。
「毒じゃ!水を飲ませて洗い流す!」
【お知らせ】
まだ少し先なのですが、カウンターが140000になりましたら、キリ番リクエスト受け付けたいと思います。実は120000のときも、130000のときもきれいさっぱり忘れていて大分過ぎてから気が付きました。(´・ω・`) あんぽんたん~
もし、此花にこんな話書いてくれればなぁ……と、お思いのご奇特方がいらっしゃいましたら、おっしゃってください。エチは……ぴ~……ですが、出来るだけがんばります。
よろしくお願いします。(〃ー〃)
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