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露草の記 (壱) 12 

手桶が何杯も運ばれてきた。
繰り返し大量の水を飲ませては、一気に吐かせた。

一時以上、嘔吐と酷い下痢を繰り返し、やっと夕餉に混ぜられた胃の中の毒が外に出たらしい。
蒼白だった秀佳の顔色が徐々に戻り、薄く目が開いた。

「おお、気が付いたか。秀佳。もう大丈夫じゃな。」

「……叔父上……。わたしは、助かったのですか……。目の前が、いきなり真っ暗になりました。」

「命があるのは小草履取りのお手柄じゃ。於義丸が一番に気が付いて、毒を吐かせた。今少し手当てが遅かったら、秀佳は今頃三途の川を渡って、姉上と対面の仕儀じゃ。」

「左様でございますか。おギギ……。ここへ、おいで。」

目を開けた主人の傍にすり寄ってきた於義丸が、きゅと袖を握った。微笑んでやるとやっと安心したかのように、小さな拳で目もとを拭った。秀佳の胸元に伏した肩が震えている。これほどまでに思われていると知り、胸が熱くなった。

「わたしは、おギギのおかげで助かったのだな……。この恩は一生、忘れまいぞ。」

「しかし、一体、此度の毒は何であろうの。」

「はて……。夕餉を食したとはいえ、膳を見た所、まだそれほど多くの物をお召し上がりにはなっておいでではなかったようです。同じ物が並んでいたのですから、兼良さまが何とも無いのが不思議と言えば不思議ですな。」

医師と叔父、安名兼良の会話を聞いていた於義丸が、兼良の膝ににじり寄り、「に が く り た け の ど く」と、指文字を書いた。

「にがくりたけ……?茸の毒か。知っておったのか?」

こくりと、肯いた。

「や ま に あ る」

「おお……そうか。毒に当たった者を見知っていたのだな。」

確かに、混同すれば見分けがつかないほど、ニガクリタケは食用のクリタケに酷似した毒茸だった。素人目にはまずわからない。
口に入れれば生のものは苦く、飲み込まずに味見をすることで区別できるのだが、加熱すると苦みは消え、食しても毒物とは分かりにくくなるのが盲点だった。しかも、苦味が消えても毒性はそのまま残るという質(たち)の悪さである。

適切な対処法だったと、医師と叔父が於義丸を褒めてくれた。
茸の毒は、一度胃に入ってしまうと吸収率が高く、命を落とすものが多い。直ぐに洗い流すのが肝要だった。
しかし、ただこれだけで、嫡男を狙った巧妙に仕組まれた毒物の混入と決め付けるには無理が有る。藩内から運び込まれてくる食材の中に、うっかりと毒茸が紛れ込んだものかどうかは、調べようもなかった。
兼良は、ぎりと奥歯を噛んだ。





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まだ少し先なのですが、カウンターが140000になりましたら、キリ番リクエスト受け付けたいと思います。実は120000のときも、130000のときもきれいさっぱり忘れていて大分過ぎてから気が付きました。(´・ω・`) あんぽんたん~

もし、此花にこんな話書いてくれればなぁ……と、お思いのご奇特方がいらっしゃいましたら、おっしゃってください。エチは……ぴ~……ですが、出来るだけがんばります。
よろしくお願いします。(〃ー〃)


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