露草の記 (壱) 8
田んぼで跳ねる蛙の腹を膨らませて遊ぶように、ミミズに小便をかけてのたうつさまを面白がって騒ぐように、二匹の蜻蛉を藁でつないで遊ぶように、秀佳は残酷だった。
於義丸を、感情の無い自分の玩具のように扱った。
紅い紐で縛めた手をそのまま引っ張って行って、最後に戸口で身を捩り抗うのを中間部屋へ、とんと……押し込んだ。
約束を守った秀佳に、中間どもの野太い驚きの喚声が、わっと上がる。
斜に振り返り秀佳を見つめる目が、恐怖におののいていた。
「さすがに、美々しいのう。」
「さあ、若さまのお許しが出た。おまえは中へお入り。共に楽しもうぞ。」
『わかさま』
……物言えぬ、於義丸の口の容が助けを求めた。
一斉に於義丸に群がる男達を、まるで、麩(ふ)を奪い合う池の鯉のようじゃと思う。
水面に一握りの餌を投げ入れたときのように、於義丸は群がった鯉に音もなく川底へ引き込まれていった。
於義丸を引き入れると、秀佳の目前でぱたりと木戸が閉められ、板戸の隙間から、蝶の舞う小袖がするりと消えた。
*****
薄い板の扉の向こうに消えた於義丸が、飢えた中間共に何をされるか、秀佳はちゃんと知っていた。
はたはたと、胸が高く鳴り続けた。これでは、まるで手篭めに手を貸すのと変わらぬ。早く助けてやらねば……自分しか於義丸を助けられるものはいないと分かっていた。耳を押し当てると、恐ろしい中の様子がわかった。
「おお、女子のように輝くような白い肌ではないか。」
「どこも柔らかくて吸い付くようだの。ほら、こちらを向け。我らの言う通りしていれば、ひどい目には合わせぬからの。」
「独り占めはならぬ。そら、順番に相手をせよ。泣くな、泣くな。若さまが諾と言ったのじゃから聞き分けを良くしてな。」
聞こえてくる声に耐えきれず、とうとう秀佳は叫んだ。
「やめよっ!その方等、おギギに何をするっ!ここを開けよ!」
一瞬静まったが、すぐにまた板戸の向こうは賑やかになった。
「そら、早く戻さねば、愛しい小草履取りを返せと、若さまがご立腹じゃ。」
「気ぜわしいことじゃなあ。だが、十分に手を掛けてやらねば怪我をするぞ。」
「もうその位で良い。早う開いて、疾く疾く思いを遂げよ。まずわしが……。」
「さあ。いつまでも震えていないで、こっちを咥えろ。決して歯を立てるでないぞ。そっとな……。優しゅう喉の奥を使って、ねぶるのじゃ。」
想像通りの事が行われているに違いない。
聞くに堪えない野卑な声に、思わず耳を覆った。
「その方等!おギギに何をさせておる!おギギを離せーーっ!」
がんがんと外から板戸を乱暴に叩いたが、中からつっかいを掛けたらしく動かなかった。秀佳は足が痛むほど戸を蹴り、大声で喚き続けた。
「もう、よいっ!おギギを返せっ!約束は、終いじゃ!反古にする!」
必死に叫ぶ秀佳の声に、とうとう板戸が開いた。着物を引っかけただけの半裸の中間どもが半笑いを浮かべていた。
「おギギっ……!」
於義丸の姿に秀佳は言葉を失った。
一目で蹂躙されたと分かる、弛緩した白い肢体がそこにある。
剥かれた身体は妙な形で投げ出されていた。於義丸の良く動く丸い目は、ぽかりと見開かれたまま何も映していなかった。
駆け寄った秀佳は膝をつき、そっと於義丸に触れた。
「於義丸……。」
……この地方のギギと言う魚は、ひれをこすり合わせて、夜の川辺で鳴く。
埃っぽい固い板床の上に打ち捨てられた、鳴かない於義丸を抱きしめて秀佳は心底後悔した。
「わたしは……。うっ……わあぁっ……んっ。」
固く合わせた両手の中から、ぽとりと懐紙が落ちた。持っていろと告げた落雁が、かけらになって零れ落ちた。
解けた紐が、片方の手首に食い込んで血が滲んでいた。秀佳が持っていよと言ったから、於義丸は何をされてもきっと必死に握り締めていたに違いない。粉々になった菓子の欠片が於義丸の真心だと思った。
鳴けない魚の代わりに、秀佳は泣いた。
「すまぬ……すまぬっ……。もう、せぬ。」
「これからは、おギギの嫌がることは決してせぬゆえ、許せ。」
誰かの為に泣いたのは初めてだった。
於義丸の剥かれた柔らかい肩に、ぽとぽとと、いくつも滴が転がった……。
(´・ω・`) 秀佳:「ごめんね。おギギ……。」
。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。於義丸「……えぐえぐっ……」
やっぱり、こんな展開に……|゚∀゚) 「ごめんね、おギギ。」
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於義丸を、感情の無い自分の玩具のように扱った。
紅い紐で縛めた手をそのまま引っ張って行って、最後に戸口で身を捩り抗うのを中間部屋へ、とんと……押し込んだ。
約束を守った秀佳に、中間どもの野太い驚きの喚声が、わっと上がる。
斜に振り返り秀佳を見つめる目が、恐怖におののいていた。
「さすがに、美々しいのう。」
「さあ、若さまのお許しが出た。おまえは中へお入り。共に楽しもうぞ。」
『わかさま』
……物言えぬ、於義丸の口の容が助けを求めた。
一斉に於義丸に群がる男達を、まるで、麩(ふ)を奪い合う池の鯉のようじゃと思う。
水面に一握りの餌を投げ入れたときのように、於義丸は群がった鯉に音もなく川底へ引き込まれていった。
於義丸を引き入れると、秀佳の目前でぱたりと木戸が閉められ、板戸の隙間から、蝶の舞う小袖がするりと消えた。
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薄い板の扉の向こうに消えた於義丸が、飢えた中間共に何をされるか、秀佳はちゃんと知っていた。
はたはたと、胸が高く鳴り続けた。これでは、まるで手篭めに手を貸すのと変わらぬ。早く助けてやらねば……自分しか於義丸を助けられるものはいないと分かっていた。耳を押し当てると、恐ろしい中の様子がわかった。
「おお、女子のように輝くような白い肌ではないか。」
「どこも柔らかくて吸い付くようだの。ほら、こちらを向け。我らの言う通りしていれば、ひどい目には合わせぬからの。」
「独り占めはならぬ。そら、順番に相手をせよ。泣くな、泣くな。若さまが諾と言ったのじゃから聞き分けを良くしてな。」
聞こえてくる声に耐えきれず、とうとう秀佳は叫んだ。
「やめよっ!その方等、おギギに何をするっ!ここを開けよ!」
一瞬静まったが、すぐにまた板戸の向こうは賑やかになった。
「そら、早く戻さねば、愛しい小草履取りを返せと、若さまがご立腹じゃ。」
「気ぜわしいことじゃなあ。だが、十分に手を掛けてやらねば怪我をするぞ。」
「もうその位で良い。早う開いて、疾く疾く思いを遂げよ。まずわしが……。」
「さあ。いつまでも震えていないで、こっちを咥えろ。決して歯を立てるでないぞ。そっとな……。優しゅう喉の奥を使って、ねぶるのじゃ。」
想像通りの事が行われているに違いない。
聞くに堪えない野卑な声に、思わず耳を覆った。
「その方等!おギギに何をさせておる!おギギを離せーーっ!」
がんがんと外から板戸を乱暴に叩いたが、中からつっかいを掛けたらしく動かなかった。秀佳は足が痛むほど戸を蹴り、大声で喚き続けた。
「もう、よいっ!おギギを返せっ!約束は、終いじゃ!反古にする!」
必死に叫ぶ秀佳の声に、とうとう板戸が開いた。着物を引っかけただけの半裸の中間どもが半笑いを浮かべていた。
「おギギっ……!」
於義丸の姿に秀佳は言葉を失った。
一目で蹂躙されたと分かる、弛緩した白い肢体がそこにある。
剥かれた身体は妙な形で投げ出されていた。於義丸の良く動く丸い目は、ぽかりと見開かれたまま何も映していなかった。
駆け寄った秀佳は膝をつき、そっと於義丸に触れた。
「於義丸……。」
……この地方のギギと言う魚は、ひれをこすり合わせて、夜の川辺で鳴く。
埃っぽい固い板床の上に打ち捨てられた、鳴かない於義丸を抱きしめて秀佳は心底後悔した。
「わたしは……。うっ……わあぁっ……んっ。」
固く合わせた両手の中から、ぽとりと懐紙が落ちた。持っていろと告げた落雁が、かけらになって零れ落ちた。
解けた紐が、片方の手首に食い込んで血が滲んでいた。秀佳が持っていよと言ったから、於義丸は何をされてもきっと必死に握り締めていたに違いない。粉々になった菓子の欠片が於義丸の真心だと思った。
鳴けない魚の代わりに、秀佳は泣いた。
「すまぬ……すまぬっ……。もう、せぬ。」
「これからは、おギギの嫌がることは決してせぬゆえ、許せ。」
誰かの為に泣いたのは初めてだった。
於義丸の剥かれた柔らかい肩に、ぽとぽとと、いくつも滴が転がった……。
(´・ω・`) 秀佳:「ごめんね。おギギ……。」
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やっぱり、こんな展開に……|゚∀゚) 「ごめんね、おギギ。」
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