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露草の記 (壱) 25 

強い焼酎を、気付けに無理に流し込み、傷にたらすと痛みに呻いて身体が跳ねた。
戦場では深手で意識を失うと、そのまま死んでしまうこともある。麻酔や痛み止めの使用は、そのまま死を意味した。

「我慢せよ、於義丸。そちを、このまま死なせる訳には行かぬ。」

「耐えろよ。」

「うーーーーっ……!」

乱暴な傷の手当にうめき、「草」は白い拳に筋を浮かせて耐えた。数人がかりで手足を抑えつけ、絹糸で傷口を縫い合わせる。
叔父、兼良は怪我人の傍らに控える、小草履取りの格好をした甥が様子を伺いにやってきたのを認めた。
傍へ呼び、仔細を説明した。

「喉輪の隙間から、敵の小柄が刺し通った。出血が酷いので、縫う事にした。」

兼良が低い声で言う。

「喉笛を掻き切られたわけではないが、場所が悪い……。秀幸殿、手を握ってやれ。」

見れば見るほど、見分けが付かぬのにふと笑みがこぼれた。

「於義丸は……、秀幸殿をどうしても守りたいと言って、寝返ったのじゃ。おそらく身内の手練れに襲われたのだと思う。馬に駆け上がる動きが尋常ではなかった。」

「……?」

寝返り?
兼良の言葉の真意を測りかねたところへ、まだ本復していない藩主がふらつく足取りで現れた。

「大怪我を負ったと聞いた。どうじゃ、於義丸の……具合は?」

「重傷なれど、おそらく命に別状はないかと……。」

眉をひそめて、医師の処置を覗き込む。

「そうか。まずは重畳。秀幸殿、此度は於義丸のおかげで、命拾いをしたな。」

久しぶりに会った父は、青ざめて酷くやつれていた。秀幸は父が風邪で臥せっているとしか聞かされていなかった上、対面を許されていなかったためその痛ましい姿に絶句した。
一目で風邪などではないと、知れた。
驚いて、何故このように弱っておいでになるのだと聞きたかったが、声がひそとも出なかった。
自分の知らないところで何かが起こっている、そのために於義丸が命を落としかけたのだと、やっと納得した。

(おギギ……。)

於義丸の姿で、秀幸はほろほろと傷ついた少年の手を取り泣いた。予定通り出陣すれば、おそらくここで手当てを受けているのは、きっと自分だった。
言葉のない今、固く手を握るしかしか、於義丸を励ます術はなかった。血の気のない於義丸が、いつか乱暴された時のように固く目を閉じて、そこにいた。
絞るように力んでも、くうくう……と、鳩が鳴くほどにしか声がでないまま、筆立てを取り上げた秀幸は文字を書いた。

『戰の勝敗は、どうなりたるにて候か』

「お味方の勝利じゃ、心配は要らぬぞ。事態はすべて良い方へ向かって居る。」

「此度は兼良殿に、散々面倒をかけたな。」

「何の。雑作もない。双馬藩があるのは、皆、この影の手柄じゃ。目覚めたら、褒めてやるといい。この小草履取りは、秀幸殿の為に迷いもなく命を懸けた。」

「良い家臣を持ったな。秀幸。」

二人の声に ほうっと、秀幸は安堵のため息をついた。
咽喉に包帯を巻いた於義丸の姿が、涙で滲んだ。





(ノ_・。) 乱暴な外科手術……だいじょぶ?

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