露草の記 (壱） ２６
傷ついた草の傍らで、秀幸(秀佳)は父と叔父に話を聞き、やっと色々なことを理解した。
双馬藩が徳川に狙われているという噂を聞いたのは、兼良が、遠く仙台藩に乞われ治水工事の指南に出かけた折だという。
兼良を気に入っていた仙台藩主が、実は双馬藩主の義兄弟であると知り、褒美代わりに情報をくれた。
元々、伊達藩主は天下取りには縁がなかったが、機を見るのには長けていた。兼良を気に入り、高禄で召し抱えたいと何度も士官を持ちかけていた。
「身に余るお申し出なれど、兼良は亡き姉に、この身を一生、双馬に捧げると約束を致しましたゆえ、どうあっても士官は叶いませぬ。」
「亡き姉……とは？」
「双馬藩主、安名少納言元秀は亡き姉の入り婿にございます。」
「そうか……。では兼良殿の働きに免じて、内密に一つ教えて進ぜる。徳川殿は、豊かな双馬藩が欲しいらしい。重々気を付けられよ。」
「は……っ。すると……双馬を揺さぶる不穏な動きの源は、徳川殿でありましたか。」
「面倒な者に、目を付けられたの。天下取りを目前に、なりふり構わず金具面に血眼じゃ。」
言われてみると、藩主に後添えが来た辺りから、城内はざわざわと不穏な気配に満ちていた。櫛の歯を削るように、家中の者が得体のしれない敵の手に落ちていく。
兼良の調べで、藩主に持ち込まれた縁談も、家臣に下げ渡された本多の手つきの側室と、すぐに調べはついたが証拠を整えるのに時間がかかった。京の公家にも一度養女にだし、身元が知れないように何重にも身元は隠されていた。
本多がさし向けたのは、後添えだけではなかった。
無骨で忠勤一途な武士たちが、後添えの連れてきた多くの女性の匂い立つ色香に、迷っていた。
京の女は、腰が豊かで色が白く指が細い・・・と、都を知らない藩士どもは奥方が連れて来た女中に夢中になった。
誰が見ても不似合いな側女達は、べったりと城代家老と周辺に遊び女のように張り付き、手管を駆使して雑作もなく尻の毛を抜く。
兼良が証拠を求めて奔走しているところへ、次は甥にはべる小草履取りの噂が舞い込んだ
藩主の嫡男、秀佳に瓜二つだという。どこか不自然な出会いが仕組まれたものではないかと問い詰めようにも、ものが言えぬでは仕方がない。
最愛の妻の残した一粒種にそっくりとあって、藩主には舐めるような可愛がりようらしい。
その様子が想像できて、兼良はその知らせの書面に思わず吹き出してしまった。
やがて後添えは月足らずで、藩主にまるで似ていない子を産んだ。
外から眺めて見ると一目瞭然、双馬藩は存亡の危機に直面している。騒動の種が撒かれ、地中深くで胎動しながら芽吹くのを待っていると感じた。
確実に迫る不安が日々大きくなるのを横目で見ながら、兼良は持てる手を全て使おうと懸命に模索していた。
家老の動静を覗う見張りをつけ、県境で働く兼良には何通もの暗号文が送られてきている。
県境の土豪を味方に引き入れ、寺の領地を増やす約束をし、関を通らず領内に入ろうとする不審な者を、排除する手はずは整っていた。
伊達藩で得た情報をもとに、密かに兵を整え、号令できる日を兼良は待った。
毒を盛られた藩主に代わり、軍議を重ね評定を持つ。徳川に仕える本多が、忍びの里の生き残りを丸ごと抱えた話も、伊達藩の抱えた忍び黒脛巾組（くろはばきぐみ）からもたらされた。
女たちの毒牙にかかり、徳川の手の内に取り込まれたはずの重臣たちが、兼良の説得によって武士の矜持を取り戻してゆく。
お家の一大事に、双馬藩士が次々と自分の下に立ち返ってくるのは、小気味よい眺めであった。
(´・ω・｀) 昨日は予約していたはずが下書きになっていたのでした。すまぬ～……
しかも、キリ番過ぎてます。
踏んだよ～という方がいらっしゃいましたら、おっしゃって下さいね。←きれいさっぱり忘れてた……(´・ω・｀)
ニアピンでもおっけでっす！(｀・ω・´) 此花咲耶
双馬藩が徳川に狙われているという噂を聞いたのは、兼良が、遠く仙台藩に乞われ治水工事の指南に出かけた折だという。
兼良を気に入っていた仙台藩主が、実は双馬藩主の義兄弟であると知り、褒美代わりに情報をくれた。
元々、伊達藩主は天下取りには縁がなかったが、機を見るのには長けていた。兼良を気に入り、高禄で召し抱えたいと何度も士官を持ちかけていた。
「身に余るお申し出なれど、兼良は亡き姉に、この身を一生、双馬に捧げると約束を致しましたゆえ、どうあっても士官は叶いませぬ。」
「亡き姉……とは？」
「双馬藩主、安名少納言元秀は亡き姉の入り婿にございます。」
「そうか……。では兼良殿の働きに免じて、内密に一つ教えて進ぜる。徳川殿は、豊かな双馬藩が欲しいらしい。重々気を付けられよ。」
「は……っ。すると……双馬を揺さぶる不穏な動きの源は、徳川殿でありましたか。」
「面倒な者に、目を付けられたの。天下取りを目前に、なりふり構わず金具面に血眼じゃ。」
言われてみると、藩主に後添えが来た辺りから、城内はざわざわと不穏な気配に満ちていた。櫛の歯を削るように、家中の者が得体のしれない敵の手に落ちていく。
兼良の調べで、藩主に持ち込まれた縁談も、家臣に下げ渡された本多の手つきの側室と、すぐに調べはついたが証拠を整えるのに時間がかかった。京の公家にも一度養女にだし、身元が知れないように何重にも身元は隠されていた。
本多がさし向けたのは、後添えだけではなかった。
無骨で忠勤一途な武士たちが、後添えの連れてきた多くの女性の匂い立つ色香に、迷っていた。
京の女は、腰が豊かで色が白く指が細い・・・と、都を知らない藩士どもは奥方が連れて来た女中に夢中になった。
誰が見ても不似合いな側女達は、べったりと城代家老と周辺に遊び女のように張り付き、手管を駆使して雑作もなく尻の毛を抜く。
兼良が証拠を求めて奔走しているところへ、次は甥にはべる小草履取りの噂が舞い込んだ
藩主の嫡男、秀佳に瓜二つだという。どこか不自然な出会いが仕組まれたものではないかと問い詰めようにも、ものが言えぬでは仕方がない。
最愛の妻の残した一粒種にそっくりとあって、藩主には舐めるような可愛がりようらしい。
その様子が想像できて、兼良はその知らせの書面に思わず吹き出してしまった。
やがて後添えは月足らずで、藩主にまるで似ていない子を産んだ。
外から眺めて見ると一目瞭然、双馬藩は存亡の危機に直面している。騒動の種が撒かれ、地中深くで胎動しながら芽吹くのを待っていると感じた。
確実に迫る不安が日々大きくなるのを横目で見ながら、兼良は持てる手を全て使おうと懸命に模索していた。
家老の動静を覗う見張りをつけ、県境で働く兼良には何通もの暗号文が送られてきている。
県境の土豪を味方に引き入れ、寺の領地を増やす約束をし、関を通らず領内に入ろうとする不審な者を、排除する手はずは整っていた。
伊達藩で得た情報をもとに、密かに兵を整え、号令できる日を兼良は待った。
毒を盛られた藩主に代わり、軍議を重ね評定を持つ。徳川に仕える本多が、忍びの里の生き残りを丸ごと抱えた話も、伊達藩の抱えた忍び黒脛巾組（くろはばきぐみ）からもたらされた。
女たちの毒牙にかかり、徳川の手の内に取り込まれたはずの重臣たちが、兼良の説得によって武士の矜持を取り戻してゆく。
お家の一大事に、双馬藩士が次々と自分の下に立ち返ってくるのは、小気味よい眺めであった。
(´・ω・｀) 昨日は予約していたはずが下書きになっていたのでした。すまぬ～……
しかも、キリ番過ぎてます。
踏んだよ～という方がいらっしゃいましたら、おっしゃって下さいね。←きれいさっぱり忘れてた……(´・ω・｀)
ニアピンでもおっけでっす！(｀・ω・´) 此花咲耶
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