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禎克君の恋人 13 

住む世界が違う禎克と親しくしても、どうせ再び直ぐに別れは来る。
旅から旅の生活で、大二郎には失って来たものも多かった。

悲しい想いをするくらいなら、初めから何も期待しない方が良い。だから、心にもなく迷惑だと告げた。
大二郎のそんな諦めにも似た思いを、禎克は想像すらしなかった。

「これから、お芝居の練習するの?見てたら邪魔かな?」

「あのね、さあちゃんは……部外者だから。」

「そう……か。そうだよね。気が付かなくてごめん……。」

気まずい空気が流れていた。大二郎は視線を落とし、互いに紡ぐ言葉が無い。

「あの…お父さん、早くよくなると良いね。……じゃ、元気でね。さよなら。」

いたたまれずに、くるりと背を向け、禎克は自転車を押した。
何をしに来たんだろうと思う。
歓迎されると思い込んでここまで来てしまった、自分の浅はかさにいらだちさえ覚える。じわと涙で、足元が滲んだ。
きっと、これで最後だ。
もう二度と逢うこともないだろう、たぶん初恋の少年……。

「さ、さあちゃんっ……!」

声を掛けられたが、もう禎克に振り向く気はなかった。今更、笑顔なんて作れない。禎克の頬は強張ったままだった。お互いに見た目だけじゃなく、変わってしまったんだと思う。

ガキの頃にほんの少し関わっただけなのに、ずっと忘れられなかったなんて、いまどき少女漫画でもあるまいし、自分のとんだロマンチスト加減に笑えてくる。
ばかばかしい。忘れない努力ではなく忘れる努力をするべきだった。帰ったら、あの写真も捨ててしまおうと思った。

「さあちゃんっ!……待ってっ!」

背中にどんと大二郎がぶつかってきた。

「おれ……っ、本当はずっと……さあちゃんに会いたかった。」

体温が薄いシャツ越しに伝わって来る。

「ごめん……会わない方がいいと思ってたけど、さあちゃん……でも、本当に逢いたかったんだ。ごめんっ。邪魔だなんて嘘だ。ほんとは……おれ。ほんとは……。」

腰に回された手が震えているのを禎克は認めた。

「……ほんとは?何?どうせぼくのことなんて、思い出しもしなかったくせに。何も言わずにいなくなったくせに。」

回された腕の中で身体を回し、禎克は正面から意地悪く告げた。大二郎は胸の高さに顔を埋めてしゃくりあげた。

「違うよっ、さあちゃん……っ。」

「そうやって、またいつかみたいに置いてけぼりにするんだろ?ぼくの気持なんか知りもしないで、勝手に自分の都合だけ押し付けていなくなるんだ。どうせ、今度は住む世界が違うとか訳の分からないこと言うんだろ。あのころ毎日、ここまで通ってきて泣きながら帰ったちびは、こんなに大きくなったよ。馬鹿みたいだって、笑えばいい。」

「さあちゃん。」

「うつむいてないで、ちゃんとこっち見ろよ!言い訳しろよ!」

懐の中でぴくりと身じろぎ、大二郎は禎克に抱きついたまま、顔を見上げた。
頬が濡れていた。

「ほんとは……さあちゃんの言うとおり、住む世界が違うから、諦めるつもりだった。」

「ほら、やっぱり。」

「だって、昨日もすれ違ったのに、さあちゃんはおれのこと見向きもしなかった。誰か揃いのジャージの奴と、楽しそうにしてた。だから、おれ……。おれは、さあちゃんにはもう違う世界があるんだと思ったから、諦めることにしたんだ。その方が良いと思って……。」

「昨日……?坂の下で?」

「うん。」

「ああ……たぶん、先輩だ。スーパーに置いてあったチラシ見つけてさ、先輩に劇団の話をしていたんだ。初めて見たとき、どんなに綺麗だったかって。」

「……おれのことを、話したの?」

「いや、醍醐さんのこと。」

「……さあちゃん、意地悪だ。昔は女の子みたいに可愛かったのに。」

ふっと禎克は笑った。あれほど開いていた距離が一瞬で縮まった気がする。
大二郎の身長が思ったよりも伸びていなかったせいだろうか。庇護欲がふわりと湧き上がった。縋って泣いたのを可愛いと思ってしまう。

「大二郎くんは、変わらないね。前は、ぼくよりも頭一つ大きかったのに。」

ついと顎を捕まえ、唇を薄くかすめ取った。

「あ……。」

優しい触れるだけのキスに、大二郎の涙が零れ落ちた。





大二郎くんは、さあちゃんを呼びとめてしまいました。
諦めるって決めていたはずなのにね。
(´・ω・`) 大二郎 「だって……。」

(*⌒▽⌒*)♪でも、何とかここまで来ました。実は、此花はこの作品の中で一番書きたかった場面なのです。
ふんわりとした、触れるだけのキス……(*ノ▽ノ)キャ~ッ!←まさか、これで終わる気じゃ……|゚∀゚)

本日もお読みいただきありがとうございます。
拍手もポチもありがとうございます。励みになってます。(*⌒▽⌒*)♪此花咲耶

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6 Comments

此花咲耶  

鍵付き拍手コメントさま

思わず拍手連打してくださった~!?
きゃあ~!(*⌒▽⌒*)♪ ありがとうございます!
嬉しくて此花、くるくるしちゃいます。

やっと、ここまできました。(`・ω・´)←遅い
もっと仲良くなれればいいなと思っています。
コメントありがとうございました。(〃゚∇゚〃)

2012/08/10 (Fri) 20:02 | REPLY |   

此花咲耶  

拍手コメントさとうさま

(〃^∇^)o彡□←ハンカチ~
大二郎のこと、わかってくださってありがとうございます。
そうです。旅から旅で転校ばかり、いつしかお友達を作ることも諦めてしまった大二郎なのでした。
中々一緒に居るのは難しそうですが、今は駄目でもいつか……って思います。
コメントありがとうございました。

2012/08/10 (Fri) 03:04 | REPLY |   

此花咲耶  

ちよさま

> おちびさんの時の素敵な出遭い。

周囲は忘れていると思っていたようですが、互いに鮮烈な出会いでした。

> ずーっと忘れずに大切にしてきて、
> よかった!ヽ(*′▽`)人(*′▽`)ノよかった!

わ~い。ちよさんが、喜んでくださってる~(ノ´▽`)ノヽ(´▽`ヽ)
此花もうれしいです。幸せになれるようにもう少し続きます。
コメントありがとうございました。(*⌒▽⌒*)♪

2012/08/10 (Fri) 02:43 | REPLY |   

此花咲耶  

tukiyoさま

> さあちゃんからキスしたーーーー!

(〃゚∇゚〃) しちゃった~!しかも、精いっぱいのふんわりキスです。
これから、どうなるかな~。

> 逆転してる~~~。

形勢逆転に見えますが、これからまたどうなるかな~です。(*⌒▽⌒*)♪
さあちゃん、これ以上の事できるんだろうか?ね~tukiyoさん。(*´・ω・)(・ω・`*)

2012/08/10 (Fri) 02:35 | REPLY |   

ちよ  

素直になれない二人だったけど…

おちびさんの時の素敵な出遭い。
ずーっと忘れずに大切にしてきて、
よかった!ヽ(*′▽`)人(*′▽`)ノよかった!

2012/08/09 (Thu) 23:29 | REPLY |   

tukiyo  

エエエエエーーー

さあちゃんからキスしたーーーー!
逆転してる~~~。

2012/08/09 (Thu) 22:10 | EDIT | REPLY |   

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