禎克君の恋人 12
一方、禎克は湊からのメールを読んで以来、ずっと浮き立つような気分だった。早く湊に電話をして様子を詳しく聞きたかったが、合宿中なのでそうもいかない。
一年生でありながら、怪我の上級生に代わって、ほぼレギュラーは手中にしていたが、用具の手入れなどの雑用は下級生の役目だった。
翌日、全体練習が終わった後、合宿の解散式が行われ、インターハイに向けて監督から檄がとばされた。
一日休みを入れて、すぐに開会式に向けて出発することになる。
禎克は急いで自転車に飛び乗った。背後から声がかかる。
「おい、金剛!体調管理ちゃんとしろよ!暑いからって、クーラー付けて寝るなよ。」
「大丈夫っす!上谷先輩も!」
「おうっ!」
上谷は他に禎克を引き留める言葉を探したが、思いつかなかった。
仕方なく禎克に向けて、いい先輩の顔をして手を振った。合宿中に惹かれていると伝えたかったが、結局ままならない。
どういう関係かはわからないが、幼馴染が会いに来たという事は、向こうも覚えているという事だろう。先輩と後輩、この良好な関係を崩さないためにも、このまま気持ちを封じ込めていた方が良いと思った。
それに、頬を染めて昔話を語る後輩の顔を、自分の一方的な思いで曇らせたくはなかった。その位の分別は持っているつもりだった。
*****
「もしもし、湊?」
禎克は走りながら慌ただしく自宅に電話を掛けた。一人で行くのも気恥しく、湊をだしに使うつもりだった。
「あ、さあちゃん。合宿終わったの?」
「今、ホテルに向かうところ。湊は来ないの?一緒に行こうかと思ったんだけど……。」
「さあちゃん。あのね、今は行くのを止めておいた方が良いかもしれない。」
「え……?何で?」
「今朝、芸能ニュースで流れたの。何かね、柏木醍醐さん、急病で入院したそうよ。」
「ええーーっ!?」
思わず急ブレーキをかけてつんのめりそうになった。
「そんな……大変じゃないか。じゃあ、劇団はもうあそこにはいないのか?」
「ううん。公演は最後までするって言ってた。だから、大二郎くんは大変なんじゃないかな……って思って。」
「湊。電話切るわ。」
「どうしたの?」
「表にいるの、大二郎くんだ。もう、逢っちゃったよ。」
*****
そこに、互いに長年逢いたかった存在があった。
視線を絡めたまま、自転車から降り、禎克は近付いた。互いの中に、懐かしい面影を探した。まるで別人のように違ってしまった禎克に、大二郎は眩しそうな目を向ける。
「今さっき、湊にお父さんが倒れたって聞いたんだ。具合はどうなの?付いて居なくて大丈夫なのか?」
「……さあちゃん……?」
「うん。久し振りだね、大二郎くん。」
何だか挨拶が後になってしまった。
「おれの名前、覚えててくれたの、さあちゃん?」
「写真撮ってもらっただろ。裏に名前書いてたんだ、「だいじろうくんと」って、へたくそな字で。だから、覚えてたよ。忘れたりしないように、いつも写真見てた。」
「そう。ありがと。……あの……おれ……今、忙しいんだ。お師匠さんが倒れたから、芝居も踊りもみんな構成からやり直さないといけなくて……。」
「そっか。」
視線を外した大二郎はそっけなかった。
大二郎には、自分の知らない禎克の世界を壊す気は毛頭ない。
自分の知らない友人と楽しげに会話する禎克を見かけて以来、禎克には関わらない方が良いと、思い込んでいた。
(´・ω・`) 禎克 「せっかく会えたのに……大二郎くんが冷たい……。」
(´・ω・`) 大二郎 「さあちゃんには、さあちゃんの世界があるから、関わっちゃいけないの。」
本日もお読みいただきありがとうございます。
拍手もポチもありがとうございます。励みになってます。(*⌒▽⌒*)♪此花咲耶
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一年生でありながら、怪我の上級生に代わって、ほぼレギュラーは手中にしていたが、用具の手入れなどの雑用は下級生の役目だった。
翌日、全体練習が終わった後、合宿の解散式が行われ、インターハイに向けて監督から檄がとばされた。
一日休みを入れて、すぐに開会式に向けて出発することになる。
禎克は急いで自転車に飛び乗った。背後から声がかかる。
「おい、金剛!体調管理ちゃんとしろよ!暑いからって、クーラー付けて寝るなよ。」
「大丈夫っす!上谷先輩も!」
「おうっ!」
上谷は他に禎克を引き留める言葉を探したが、思いつかなかった。
仕方なく禎克に向けて、いい先輩の顔をして手を振った。合宿中に惹かれていると伝えたかったが、結局ままならない。
どういう関係かはわからないが、幼馴染が会いに来たという事は、向こうも覚えているという事だろう。先輩と後輩、この良好な関係を崩さないためにも、このまま気持ちを封じ込めていた方が良いと思った。
それに、頬を染めて昔話を語る後輩の顔を、自分の一方的な思いで曇らせたくはなかった。その位の分別は持っているつもりだった。
*****
「もしもし、湊?」
禎克は走りながら慌ただしく自宅に電話を掛けた。一人で行くのも気恥しく、湊をだしに使うつもりだった。
「あ、さあちゃん。合宿終わったの?」
「今、ホテルに向かうところ。湊は来ないの?一緒に行こうかと思ったんだけど……。」
「さあちゃん。あのね、今は行くのを止めておいた方が良いかもしれない。」
「え……?何で?」
「今朝、芸能ニュースで流れたの。何かね、柏木醍醐さん、急病で入院したそうよ。」
「ええーーっ!?」
思わず急ブレーキをかけてつんのめりそうになった。
「そんな……大変じゃないか。じゃあ、劇団はもうあそこにはいないのか?」
「ううん。公演は最後までするって言ってた。だから、大二郎くんは大変なんじゃないかな……って思って。」
「湊。電話切るわ。」
「どうしたの?」
「表にいるの、大二郎くんだ。もう、逢っちゃったよ。」
*****
そこに、互いに長年逢いたかった存在があった。
視線を絡めたまま、自転車から降り、禎克は近付いた。互いの中に、懐かしい面影を探した。まるで別人のように違ってしまった禎克に、大二郎は眩しそうな目を向ける。
「今さっき、湊にお父さんが倒れたって聞いたんだ。具合はどうなの?付いて居なくて大丈夫なのか?」
「……さあちゃん……?」
「うん。久し振りだね、大二郎くん。」
何だか挨拶が後になってしまった。
「おれの名前、覚えててくれたの、さあちゃん?」
「写真撮ってもらっただろ。裏に名前書いてたんだ、「だいじろうくんと」って、へたくそな字で。だから、覚えてたよ。忘れたりしないように、いつも写真見てた。」
「そう。ありがと。……あの……おれ……今、忙しいんだ。お師匠さんが倒れたから、芝居も踊りもみんな構成からやり直さないといけなくて……。」
「そっか。」
視線を外した大二郎はそっけなかった。
大二郎には、自分の知らない禎克の世界を壊す気は毛頭ない。
自分の知らない友人と楽しげに会話する禎克を見かけて以来、禎克には関わらない方が良いと、思い込んでいた。
(´・ω・`) 禎克 「せっかく会えたのに……大二郎くんが冷たい……。」
(´・ω・`) 大二郎 「さあちゃんには、さあちゃんの世界があるから、関わっちゃいけないの。」
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